こんにちは、現地の漁師さんに会いにいってしまうほどホヤが好きなライターの玉置です。
いきなりですがナゾナゾです。宮城県を中心とした三陸地方の沿岸地域でよく食べられている、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味を兼ね揃えた、タウリンやグリコーゲンを豊富に含んだ海の幸といえば、さてホヤでしょうか!
はい皆さん大正解! 答えはホヤでした!
万人受けはしないけどハマる人には堪らない味、それがホヤ。まだ一度もホヤを食べたことがない、あるいは前に食べたけれど美味しくなかったという人も、ぜひ機会を作って美味しいホヤを食べてみてほしいのです。
ということで、今回は宮城県から直送された新鮮なホヤを食べるために、東京・中野駅の近くにある魚谷屋さんにやってきました。この店はなんと漁師達が直営するスタイルの居酒屋で、宮城県の漁師から届く新鮮な旬の魚が食べられるお店なのです。
「ほやほや学会」主催の「初ホヤを祝う会」に参加してきました
魚谷屋さん店頭に貼られたおすすめメニューを見ただけで、魚好きならこの店の魅力がご理解いただけるかと思います。なんでもこの店で出す魚介類は100%宮城県産で、旬のものしか出さないために通年で食べられる固定のメニューがないのだとか。
ホヤはその鮮度によって味が大きく変わる食材なのですが、ここのホヤなら間違いはないはず!
店長の魚谷さんは宮城県ではなく兵庫県神戸市のご出身。関西で10年ほど飲食店を経営する会社で働いていたのですが、災害支援活動のボランティアとして宮城県を訪れて、そのまま生活拠点を石巻に移したそうです。
そこで出会った水産関係者達と深く関わっていくことで、宮城の『今』を表現する場としての飲食店を東京でやりたいと考えるようになり、同じような気持ちを持っていた『フィッシャーマンジャパン』という東北の若手漁師集団とタッグを組んで、2016年にこの店をオープンさせました。
生産者から直接仕入れている店として、これがどのような特徴を持った食材なのか、誰がどんな方法で捕ったものなのか、そしてどんな課題があるのかなどを、美味しい料理を通じて情報発信しているのです。
さて本日は通常営業ではなく、震災からの復興をホヤの知名度と消費の拡大から応援する『ほやほや学会』が主催する『初ホヤを祝う会』。宮城県からホヤ漁師さんをお呼びして、ホヤをたっぷりいただくというスペシャルなイベントです。
ホヤは養殖の割合がとても高い海産物なのですが、東日本大震災によって養殖場は壊滅的な被害を受けて生産が途絶えました。そしてあれから6年が経ち、様々な問題を抱えながらも安定供給されるようになったホヤの味を、しっかりと受け止めさせていただきましょう。
乾杯の音頭はホヤ漁師の渥美貴幸さん。漁師になってようやくホヤの出荷ができるようになったタイミングで震災に遭い、マイナスからの再出発で育て上げたホヤを持ってきていただきました。
どうにか生産はできるようになったホヤですが、これからの問題は消費先の新規開拓。主な輸出先であった韓国が宮城県からの海産物の輸入を現在も禁止していたり、国内でも生産地以外では食べる機会があまりなかったりと、課題はまだまだ山盛りのようです。
そしてこちらは今日のイベントを企画した、ほやほや学会の会長である田山さん。学会といっても堅苦しいものではありません。ホヤの生産現場を見学するツアーの企画などもしているので、興味のある方はFacebookなどをチェックしてみてください。
ちょっと小難しい話をしてしまいましたが、すべては肝心の料理が美味しくてこそ説得力が出てくる話ですよね。そこでここから先は、ただただ美味しかったぞという自慢話をしていきましょう。
刺身、しゃぶしゃぶ、雑炊…ホヤに始まりホヤに終わるホヤづくしコース
ということで、宮城の地酒でカンパーイ!
まずは宮城県産鮮魚の刺身盛り合わせから。
【五年子ホヤと宮城鮮魚のお刺身盛り合わせ】
左上から時計回りに、ホヤ、マツカワガレイ、ヒラメ、ミズダコです。
通常は3~4年で出荷されるホヤですが、春先は『水ホヤ』とも呼ばれる身の薄い状態なので、しっかりと育った5年子を特別にご用意いただきました。ただし漁師さんの中には3年子の若い水ボヤのツルっとした喉越しが一番好きだという方もいるそうです。時期ごとにホヤを食べ比べて、自分好みのホヤを探すのもおもしろそうですね。
醤油をつけずにホヤを一口いただくと、一瞬で様々な記憶が呼び起される鮮烈な味が広がります。まさに採れたてホヤホヤ。そうそう、ホヤってこの味なんですよ(なんの説明にもなっていませんが)。
他のどの食べ物にも似ていないオンリーワンの味、それがホヤ。ホヤが嫌いだという人は、一度このクオリティのホヤを食べていただきたい。もちろん味に好みはあるので無理強いはしませんが、もし食わず嫌いならもったいないと思いますよ。
そして驚いたのが、まだ食べたことがなかったマツカワガレイが出てきたこと。長年憧れ続けていた幻のカレイは、しっかりと上品な脂が乗っていて、身のきめが細かく滑らかな口当たり。官能的ともいえるその味についつい鳥肌が立ちました。もうトリハダカレイに改名していただきたいくらいです。
もちろんヒラメとミズダコもお見事。さすが漁師直営の店、鮮魚のレベルが違います。独特の粘りがあるアカモク(海藻の1種。ぎばさと呼ばれることも)も美味しい!
【アカモクと宮城野菜のサラダ】
宮城の地酒をほどほどに飲み、直送された新鮮な魚や野菜を食べながら、漁師さんと気さくに話せるこの空間は、東京で今一番宮城県に近い場所なのかもしれません。
【銀鮭のフィッシュアンドチップス】
宮城県で養殖されているギンザケ(一般的なサケはシロザケで別種)は、ジャガイモと一緒にフィッシュアンドチップスで。これはビールが欲しくなるかと思いきや、不思議と日本酒に合う味でした。
【魚谷屋のおでん~ホヤ出汁~】
続いてはホヤの殻と、捌くときにでる水分をダシに使ったおでん。「え!」って思う方も多いと思いますが、宮城ではホヤのダシをお雑煮に使う地方もあるそうで、ほんのりと磯の香りが楽しめます。
干したホヤの殻をヒレ酒のように熱燗へ入れるのもオススメだとか。
ホヤのしゃぶしゃぶがホヤの進化形だった
そして本日のメインディッシュは、ホヤとワカメのしゃぶしゃぶです。これは私も味の想像がまったくつかないのですが、果たしてどんな料理なのでしょうか。
厨房で次々に捌かれていくホヤを参加者達が熱く見守ります。ワカメも当然宮城県から直送された生ワカメ。魚を捌くところが見られる店は多いですが、ホヤやワカメまで捌いている店は少ないのではないでしょうか。
しばらくして運ばれてきたのは、半分に割られた4年子のホヤと水の入った鍋。
水ホヤと呼ばれる時期だけあって確かにまだちょっと痩せていますが、シャブシャブでツルンといただくのならこれくらいがベストなのかも。
【春ホヤとワカメのしゃぶしゃぶ鍋】
何も味のついていないお湯が沸いたところで、ホヤをシャブシャブ。
いやー、なんだか興奮してきました。
見た目が地球外生命体っぽいですが、宮城県の海で捕れたホヤですよ。
シュッと身が縮んだところで、ちょこっとポン酢をつけていただきます。
これは褒め言葉として大きな声で言わせてください。
「最っ高に磯臭い!」
熱を加えたことでホヤの持つ磯臭さが活性化され、三陸の海水を凝縮させたような旨味が口内で爆発。これはホヤの進化形だ。スープに余計な味付けをしていないからこそ、ホヤの風味が真っ直ぐ飛び込んできます。
誤解をしてほしくないのですが、イヤな生臭さは一切なく、純粋に磯の香りがするのです。これこそホヤ好きならぜひ挑戦していただきたい味。シャブシャブする時間が短いとぬるい刺身みたいになるので、ある程度ちゃんと火を通した方が好みでした。
そしてお湯に入れると一瞬で鮮やかな緑色になる生のワカメもシャキシャキでうまいんですよ。乾燥や塩蔵のワカメしか食べたことのない方は、この新鮮な味に感動すると思います。
そして締めはもちろん雑炊です。スープにホヤの殻を加えてダシをパワーアップさせて雑炊を作り、ホヤの塩辛を乗せて食べるという贅沢。これでもかという濃厚なホヤ味。
宮城県のホヤが復活して本当によかった!
【締めの雑炊~ホヤの塩辛を添えて~ 】
ホヤに始まってホヤに終わるフルコース。いやー、最高でした。
この魚谷屋とホヤの魅力が少しは伝わったでしょうか。この日はほやほや学会の集まりのなのでホヤをメインに食べましたが、もちろんホヤの専門店ではないので苦手な方もご安心ください。いつもある魚ではないのですが、あのマツカワガレイは最高でした。
そして繰り返しになりますが、まだ一度もホヤを食べたことが無い、あるいは前に食べたけれど美味しくなかったという人は、いつか機会があれば、いや機会を作ってでも、美味しいホヤを食べてみていただけると嬉しいです。万人受けする食材ではありませんが、ハマる人には堪らない味だと思いますよ!
紹介したお店
プロフィール
玉置豊
趣味は食材の採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は古い家庭用製麺機を使った麺作りが趣味。