こんにちは。ライターの斎藤充博です。
先日から「みんなのごはん」で出張掲載が始まった『マリアージュ~神の雫最終章~』はご覧になりましたか?僕はめっちゃ読んでます!
本格的なワインマンガ『神の雫』。2009年には日本テレビでドラマにもなりました。『マリアージュ~神の雫最終章~』はその続編です。
ワインと食べ物の組み合わせ(マリアージュ)を主人公達が求めながら、最高のワイン『神の雫』に迫ってゆく、というストーリーです。現在モーニングで連載中。
『マリアージュ』では一見ワインとあわなそうな食べ物が次々とワインとマリアージュされていきます。第一話に登場するのはなんと「塩辛」です。
「レ・マッキオーレ・ボルゲリ・ロッソ」というワインと「添加物をあまり使用していないイカの塩辛」はバッチリあうらしい。
このマンガの見どころは、ワインを飲んだときの詩的な表現です。ワインと塩辛のマリアージュを、主人公はこのように表現しました。
不思議の国のアリス。
これ……。すごくないですか?ワインとおつまみでこんなことを思うんだ……。
僕はふだんワインを飲まないので、よくわからないんですが、ワインを飲む人ってみんなこんな感じなんですかね?
『マリアージュ』の2巻では、ワインとチーズの組み合わせを、古い家と家族に例えています。家?難解な……。
いいワインを飲む以上は、こういう気の利いたことを言えなくちゃダメなの?それって、なんか恐くないですか?
そんな疑問を『マリアージュ』原作者の亜樹直先生に直接聞けることになりました。
亜樹先生は他にも天樹征丸名義で『金田一少年の事件簿』の原作をしたり、安童夕馬名義で『サイコメトラーEIJI』の原作をしたり、『MMR マガジンミステリー調査班』の「キバヤシ」のモデルになった人でもあります。な、なんだってー!
そんなすごい人にメチャクチャ素朴な質問をすることになりました。 ついでに初心者オススメのワインも聞いちゃおう。
ワインを詩的に表現するのは『神の雫』の発明
「ワインはまったく飲まないのですが、『神の雫』と『マリアージュ』を拝読しています。作中で登場人物達がワインに対してものすごく独特な表現をしますよね? ワインを飲む人って本当にいつもあんなことしているんでしょうか……?」
「独特な表現ってどういうことだろう?」
「ワインと塩辛を『不思議の国のアリス』にたとえていましたよね」
「ああいう詩的な表現はね、『神の雫』が作ったんです。今では『神の雫』に影響を受けてああいった表現をする人もいますが、それまではなかったですね」
「なかったんですか!」
「ワインの成分に対して分析的に『森の下草のような香り』のように表現をするソムリエはいました。しかし、ワインの全体的な印象をあのような形では表現してはいなかったですね」
「そうなんだ!すると、我々一般人がワインを飲んで『このマリアージュは不思議の国のアリスだ』って思う必要は……」
「必ずしも、そんなイメージを持つ必要はないです。感じるイメージは、人それぞれでいいと思う。感じてみようと思うことが大事なんです」
「いいんだ……」
「ちなみに韓国はワイン文化が根付くよりも先に『神の雫』が流行ってしまったんです。なので韓国の人はワインで詩的な表現をしたがる傾向がありますね」
「すご!文化まるごと作っちゃってるんですね……」
でもカッコつけてみたい
「とはいっても、やっぱりちょっと知ったかぶってみたいというか。ワインを飲んで感想をカッコよく言ってみたいな、という気持ちもあるんです」
「例えば、ワインを飲んで『女性的なワインか、男性的なワインか』くらいのことを思うところからはじめるのはどうでしょう?それくらいだったらわかりやすいと思います」
「女性的なワイン……?」
「なんとなくの印象でいいですよ。そこから『どんな年齢の女性?』『明るい女性?おとなしい女性?』『その女性は何をしている?』みたいに考えれば、イメージは広がるでしょう」
「なるほど……」
初めてのワインはちょっといい物を
「ちなみに初めてだったら、何を飲めば良いでしょうか。なんだかサッパリわからなくて……」
「せっかくだから、いいワインを飲んでみてください。20年以上熟成したボルドーとか、2009年など出来のいい年のブルゴーニュとか。5000円以上のやつ」
「5000円以上かあ……。けっこうしますね……」
「いや、最初だけでも、ちょっとお金をかけた方がいいですよ。初心者だったらその方がわかりやすいです。ワインに限らずなんでもそういうもんじゃないですか」
「それは確かにそうですね……。最初に安い物を買っちゃうと、それでそのジャンル全部嫌いになってしまうというのは、あると思います」
「日常的にそんな高いワインを飲む必要はないので、初めだけ『エイヤっ』って思って買ってみてください。5000円超えるとけっこう違いますから」
「なるほど……。買ってみたいと思います!」
「最初だけでいいですよ。日常的にそこまで高価な物を飲む必要はないです」
安くておいしいワインもある
「ちなみに安いやつだと『カサーレヴェッキオ』がおいしいです」
「カサーレ……?」(メモる)
「これは本当にハズレないですよ。お勧めです」
「なるほど……」
「ただ、名だたる高級ワインからすると、複雑さや余韻の長さみたいなものは少ないです。初心者はあまり気にしなくて大丈夫ですが……」
ワインにあわせる食べ物を選ぶには
「おつまみはどういうのがいいとかありますかね?『マリアージュ』のテーマがまさにワインとおつまみの取り合わせですが……」
「いや、べつに何食べてもいいんですよ」
「えっ。何食べてもいい?そういうもんなんですか?」
「一般的に、赤ワインには赤い食べ物。白ワインには白い食べ物があうといわれています。それはなんとなく頭に入れておいてください」
「それなら、あんまりむずかしくなさそうですね!」
「あとはいくつかワインに合わせにくい食べ物があるので、覚えておくといいです。魚卵とかですね。特に数の子はむずかしい」
「魚卵はダメ……か」
「僕はたまにチャレンジすることもありますが。魚卵とワインのマリアージュに。醤油漬けのいくらなどは魚卵の中でも比較的あいやすい気がします」
「完全にダメ、ってわけでもないんですね。まあでも僕は止めといた方がいいな……」
「それから、絶対避けた方がいいのは納豆です」
「納豆とワインをあわせようとする人、いるんですか?」
「納豆のネバネバが、ワインの成分と化学反応を起こすんでしょうね。口の中でグニュグニュした豆になっちゃって……」
(あっ。試したんだ)
「あれは本当にどうにもならん!(思い出している様子)僕は納豆が大好きなんですが……」
おすすめはスナック菓子「チーザ」
「先生、できれば一つ具体的におすすめのおつまみを教えてほしいです。なにもわかっていない僕のような人間でも買えるやつを……」
「それならチーザがいいですね」
「チーザ?あのスナック菓子ですか?」
「あれはけっこういけるなって思いましたね。それで『神の雫』とコラボしたこともある」
「ヤッター!チーザなら買えそうです!」
なるほど……。話を聞いていたら僕でもワインいけそうな気がしてきました。まずは5000円以上のワインを買ってみるぞ……。
2000円のワインを買ってきました
家です。
5000円以上のワインを買うぞ!と思っていたんですが、直前に急に不安になってきてしまいました……。
そこで買ったのは亜樹先生がおすすめしていた2000円くらいで買えるワイン「カサーレ・ベッキオ」。これもうまいはずだ。
ちなみにデパートのワイン売り場でソムリエに聞いたら「これは『神の雫』というマンガに登場した、人気のワインです」なんてことを言われてしまいました。亜樹先生の影響すごすぎる。
飲もうと思っていたんですが、大変なことにに気がつきました。僕はワインの栓の開け方がわかりません……。
家にあるコルク抜きで開けようとしたのですが、固くて全然開かない。コルク抜きがひん曲がってしまいました。どうすりゃいいんだ、これ。スマホで検索してみます。
本来なら「ソムリエナイフ」という道具を使ってかんたんに開けられるそうです。そういえば主人公がそういう道具を使っていました。しかしコルク抜きでも、がんばれば抜けるらしい。
やった開いた!うれしい!ものすごく大変なので、読者の皆さんは絶対にソムリエナイフで開けるようにしてください。
それにしても、亜樹先生もこんなバカを相手にしてるとは、露ほどにも思わなかったであろう。
ワイングラスを用意しました。1000円くらいです。大きめのワイングラスに少量注ぐのが、ワインの香りを味わうコツだとか。
とてもいい香りがします。これをなにかに例えるとしたら……。
うーん。
まったく思いつかないな……。
「いいワインの香り」としか思えないぞ……。
とりあえず飲むか……。
あっ。うまい。
むずかしいことはわからないのですが、これは、けっこううまいです。へー。2000円でこんなうまいのか。すごくお得なのでは?
ワインのこと何も知らないんですが、「カサーレ・ベッキオ」は僕のおすすめのワインになりました。
ソムリエの方は「ワインを何も知らない斎藤充博がおすすめしていたワイン」としてお客さんにプッシュしていただけたらと思います。
そうそう、亜樹先生は「男性的なワインか、女性的なワインか」くらいのところからイメージをするといい、と言っていましたよね。
僕もイメージしてみます。
お……。おお……。おおおお……。
このワインは……。男性的か……。
それとも女性的か……。
……まったくわからない!!!
でもまあいいや。これはとにかくうまいですよ! いままでワインを避けてきていて損した!
チーザとマリアージュさせる
亜樹先生がおすすめしていたおつまみ「チーザ」。スーパーやコンビニのおつまみコーナーで普通に売っていますよね。これをカサーレ・ベッキオとマリアージュさせてみましょう。
あっ。ああ~~~っ!!!これはすごいワインにあう。うめ~~~!!!
僕は以前ビールのおつまみとしてチーザを食べたことがあります。でもそのときは、なんとも思わなかった。でもワインとあわせるとうまい。かなりうまい。
チーザとカサーレ・ベッキオ、両方が両方を高めあい、最高のうまさになる!!!これがマリアージュというものか。
うーん。このマリアージュをなにかに例えるとしたら、なんだろう?
お……。おお……。おおおお……。
ひらめいた。チーザとカサーレ・ベッキオのマリアージュには「銭湯帰りのコンビニでコロッケとビールを買って歩きながら飲む」くらいのうまさがあります!
はっ。
語彙が少なすぎて、ワインをビールで例えてしまった……。おれはマヌケか!すいません。
チーズ鱈とワインをあわせてみる
ひょっとしたらチーズ味の物ならなんでもあうのでは?家にたまたま残っていた「チーズ鱈」をカサーレ・ベッキオとマリアージュさせてみることにします。
これは……。明確にあわない!ふしぎ……。
例えるならば、缶ビールと、正月のおせち料理の中に入っている甘い伊達巻き。あれと同じくらいのあわなさがある。まあ、あまり気にしなければ、いけますが。
それにしても、またワインをビールで例えてしまいました。どうしようもないな……。
実際にワインと塩辛を合わせてみた
実はもう1本ワインを用意しております。「みんなのごはん」に掲載されている『マリアージュ』第一話に出てきたワイン「レ・マッキオーレ・ボルゲリ・ロッソ」です。
これは『マリアージュ』の第一話で主人公が「塩辛」とあわせていたワインです。本当にこれがワインと合うの……?添加物の少ない塩辛ならとてもよくあうそうですが……。マジで?どうでもいいけれども、イカの塩辛ってワインの色に似てますね。
ゴクリ。
あっ。あらら。
こりゃ、うまい。
さっきの「カサーレ・ベッキオとチーザ」よりも全然こっちの方がいい!つまり、ビールと熱々のコロッケの組み合わせよりも、よい!ワインも塩辛も、いくらでもすすんでしまう……。
「レ・マッキオーレ」はちょっとクセがあるワインなんですが、それが塩辛のクセとピッタンコなんですよね。
これはまるで……
フリマアプリで物が売れて、梱包しようとしていたら
たまたま注文していたネット通販が届いて
それを梱包していた箱が、まさにいま送ろうとしている物にピッタリ……。そのくらいピッタリなマリアージュです!
伝わるでしょうか? だめか?
『マリアージュ』では主人公がこの組み合わせを「不思議の国のアリス」と表現していました。うん、やっぱり亜樹先生の表現の方がいいな……。なんか楽しそうです。
新しい世界が広がりました
そういえば亜樹先生はこんなことも言っていました。
「ビールって時間が経つとおいしくなくなってしまって、最終的に『惰性』で飲み続けることがありませんか?でもワインは開けて時間が経つと、だんだんよくなってくるんですよ。これは本当にワインのいいところですね」
確かに、飲んでいて1時間くらい経っているんですが、だんだんとワインが飲みやすくなってきているように思えます。家でダラダラと飲むのに最高です。楽しい。
ワイン全然こわくない。今まで敬遠していた新しいお酒の世界が広がりました。
「マリアージュ ~神の雫 最終章~」とは?
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