「遠くに行きたい」「知らない世界に行きたい」と思いながらも、なかなか気軽に遠くには行けない昨今。
そんなご時世ですが、「1,000円からのペアリングで別世界へ行けてしまう」お店があったらどうしますか…?
本日は、浜松町の酒好き女将の酒愛あふれるお店「日本酒室」を紹介します。
浜松町の駅から歩いて2分ほどで、「酒林(さかばやし)」とも呼ばれ、酒の神様が宿るとされる杉玉が吊されたお店入り口に到着します。
のれんをくぐれば…
そこはカウンターメインの、というかカウンターと立ち飲みテーブルしかない小さなお店。
ですがですが、富山、石川、福井の北陸三県の70~80蔵のお酒が常時50本以上も冷蔵庫には用意されており…
北陸酒マニアには垂涎モノのメンツが並んでいます!
そして、日本酒だけでなく日本産にこだわったワインもラインナップされています。
苦手とするタイプのお酒があったとしても、ここで料理と組み合わせることでその苦手がなくなり、自分の認識以上にお酒がもっとおいしく飲めてしまいます。
そのため一度来ると最低でも月に一度は足を運んでしまい、気がつくとここで飲んでしまっていた、という行動が多くなるキケンなお店でもあります。
壁には一面、取引先の酒造の社長や杜氏さんのサイン入りの酒ラベルが飾られており、「室」のためだけに酒造さんが作った、ここでしか飲めない希少酒も季節ごとにいろいろ揃っています。
ビギナーから楽しめるように日本酒についてのいろはもカウンター上にはかかっていますが、まずはスタッフに本日のオススメを聞くのが間違いありません。
北陸直送の海鮮や珍味などを揃え、日替わりで内容が変わるおつまみメニュー。ここから食べたいものをオーダーすると、それに合わせたペアリング酒がすすめられます。お酒とおつまみをセットで注文すると1,000円前後ですが、最初に予算と希望ペアリング数を言っておけば、その範囲内で女将が合わせてくれます。
カウンターに座れば、目の前にはその日ごとに変わる、日替わりビールメニューが。おつまみメニューを眺めながら、ついつい視線をこのビールメニューに向けてしまうと、かなりの高確率でビールを注がれてしまいますから、視線の位置には注意してください。
ちなみに室では、ビールは食前酒ならぬ日本酒前酒みたいな感じで飲まれています。
そしてこれが日替わりで変わるサッポロビールのラインナップ。
サッポロビール愛もすごい女将が毎日サーバーを分解・洗浄して「昨日よりもよりおいしく」をモットーに、日々クリーミーなビールを注いでいます。
「ビールのおいしさは注ぐ技術に左右される」と、"酒の伝道師"との異名を持つ女将の澤中さんが、おいしさを引き出すため丁寧に注いでくれます。
アクシデントがあり、注いでもらってから1分ほど経ってしまったビール。ですが、澤中さんの職人的注ぎ方のおかげで泡の減りが遅く、クリーミーなおいしさがしばらくキープできています。
さて、ここからが本編テーマのペアリングです。
まずは、普通にこれだけで十分においしい「羽根屋 プリズム 究極しぼりたて」。純米吟醸生原酒の、万人受けするフルーティーな飲み口のお酒です。
これを「洋梨と生ハム」と合わせていただきます。フルーティー+フルーティーでめっちゃおいしい。
しかしながら、「わざわざペアリングしなくても、それぞれだけでも十分おいしいのに??」とペアリングの必然性は感じません。
それを不思議に思ったもの、それぞれ十分においしいので、深く考えずにそのままぐびぐびしていたところ、澤中さんからストップが。
「林さん、今度はこのお酒を飲んでください」と、羽根屋プリズムを強制的にひっこめられ、代わりに出されたのはちょっとクセのある加賀鶴の純米酒。
純吟プリズムと比べると正直あんまりおいしくない。例えるなら純吟プリズムは明るくて華やかなアイドルだけど、こちらは独特な香りもあってちょっと陰がある個性派俳優て感じ。
ところが、ここで澤中さんが梨にパクチをーのせ、コリアンダーパウダーまで振り掛けはじめました...
そして、言われるがまま、洋梨生ハム+パクチーのせを食べ、さっきの陰気な俳優酒を一口。
あらら.. なんということでしょう...!!
と、思わず頭の中でBGMが流れてしまうほど、あの少々険のあった重い感じの味わいが、パクチーを入れたことによってすっきりとした上品な飲み口に変化している!
パクチー前は重く感じられたあの香りが、アフターでは、すっきりとした爽やかな香りになってすごく飲みやすい。純吟プリズムと比べても遜色なく、むしろこちらの方がさっぱりした感じで私的には好きかも…
つまり、これが室の真骨頂!ウワサの澤中マジックなのです!!
ペアリングの醍醐味で、1+1=2ではなく、それぞれがお互いのよさをを引き立てあって1+1=3以上の味わいに変化し、ワクワク感満載のビフォーアフターの世界へ連れて行ってもらえます。
▲今日のおすすめ酒を聞いたら、冷蔵庫の中身を全部持ってきそうな勢いの澤中さん
澤中さんは、このペアリング感覚がすごく上手で、「え!?」という組み合わせでいろいろ出してくれますが、今までに酷い目にあったことは一度もありません。概念を突破して新しい世界へ連れていってくれます。
ちなみに純吟プリズムを先に出したのは、お酒自体のポテンシャルを比べてもらうためなのだとか。そのままでは味にかなりの差を感じるお酒でも、食べ合わせによっておいしく飲めることを実感してもらいたかったとのこと。
「その蔵元さんがどれだけ一生懸命頑張ってお酒を造っているかを呑んでる方に分かってもらうことは、私にとってすごく重要なんです」と澤中さんは言います。
「その姿勢に共感できれば味わいによらず、そこのお酒は店に置きます。単においしい、まずいでなく、味わいは個性なんですよ。個性を長所として引き出せる料理と一緒に提供して、その個性に惚れさせたいんです!」と、ちょくちょくカウンターのこちら側にやってきては、そのお酒の長所を発揮できる食べ方&飲み方を提案してくれます。
自分が納得できるものを提供したい、ということでお店で提供しているお酒はすべて、澤中さんが現地に行って自分の目と舌で確かめてきたイチオシの蔵のものばかり。休みの日にはしょっちゅう、各地の造り手を訪れているという澤中さん。目下の悩みは訪れる蔵すべてに共感してしまうことで、その結果取引先がどんどん増えていってしまっていることなのだとか。
能登の輪島港から直送された新鮮&コリコリした歯ごたえのアイナメ、ナメラ、真鯛のお刺身。飲み方に合わせて一人分から盛ってくれます。これを能登純米と合わせると、生臭さが消えてなくなり、ねっとりした濃厚な魚の旨みだけが口の中に残ります。
室の標準的なお酒の注がれ方。日本酒のラインはこのグラスでは基本的に表面張力です。お酒の味わいによって使用するグラスの形状も変えているんだそう。
本日のペアリング3種目は、炙りタラコと白ワイン(かざま甲州)。タラコなんてワインを合わせると生臭くなりそうなのに、なぜか魚介の生臭さだけがとれて、フルーティーな白ワインの香りがより際立った組み合わせに。その秘密は隠し味のオリーブオイル一垂らしとレモン、選んだワインにあるのだとか。
室は日本酒以外にも豊富なお酒のラインナップを誇っており、日本酒という枠というよりもおいしいお酒という、ワクワク枠で提供するお酒を選んでいるんだそうです。言うならばお酒のアミューズメントパーク!
▲レモン汁は必ず皮を伝わらせて食材にかけるように、という澤中さんの指導が入る
次は、能登のイカの黒造り(塩辛)とオレンジワイン「Ashid DeLa」(YellowMagicWinery)とのペア。定番の日本酒ではなくワインとの組み合わせなのに、塩辛が爽やかに感じる組み合わせで、塩辛というよりイカそうめんのようなイカの甘さが口に残ります。
「例えるなら演歌歌手と何のポップグループの組み合わせ?」と澤中さんに訪ねたところ、「もちろんイエローマジックオーケストラでしょ」だって。
うなぎの蒲焼きと赤ワイン「MUSCAT BAILEY A YCARRE」(ダイヤモンド酒造)のペアリング。これもうなぎの香ばしさと海苔の香りがマスカットベイリーAの軽めの味わいにジャストマッチ。
ここでしか飲めない、室限定酒の無濾過生熟成の越前岬特別純米と
これまためったに食べられないため、幻のエビと呼ばれる「越前エビ」のペアリング。ぬる燗にした越前岬のやさしい味わいが、噛めば噛むほど甘さが増す濃厚な越前エビの旨さをより引き立ててくれます。
この日はあいにく入荷がなくて食べられませんでしたが、11月中旬から12月の終わり頃までは、冬の日本海の味覚「香箱ガニ」も楽しめます。写真はお借りしました。
室でしか飲めない希少酒が続きます。
室限定の直汲無濾過生原酒の能登純米で、詳細は左側ラベルの通り。右側との違い、分かりますかね…?
これを、オープン時から続く鉄板メニューの「酒かすベーコンステーキ」で。澤中さんがつけるぬる燗はとにかく最高で、味のついたおいしいお水的感覚でどんどんいけてしまうからアブナイ。
だから、もうそろそろストップしておいた方かいいかも。一体これで何杯目よ…??
澤中さんにギブアップしたい旨を伝えると、チーズの盛り合わせとなんだか3本持ってきてくれました。多分飲み比べろ、ということで少しずついただいたと思うんですが、この段階になってくると正直あまり覚えておらず…。食レポのはずなのにゴメンナサイ...
あんぽ柿×クリームチーズのタッグは最強!これに澤中さんのぬる燗があれば、もう幸せです。なんも言うことないのです~。幸せ~。
ですが、もうこれ以上は財布が幸せではなくなるので、真面目にギブアップさせてもらうことにしました。
ちなみに今回のように、ペアリングを次々に堪能したい場合は予算を言ってペアリングコースを予約しておいた方がお得です。目安的には、ペア1組1,000円です。
ということで、最後に〆で出されたのは、ウイスキーとチョコのペア。
しかもチョコにはコショウがかかっている…??
コショウ味のチョコなんて食べたくないけど…としぶしぶ食べて、ストレートウイスキーを一口。
あれ?ウイスキーのツンとくるような香りがしない??すごくまろやかな香り。これ、ちょっと弱めのウイスキーなのかな??
ラベルを見せてもらうと、43%もある度数高めのウイスキー。しかもこちら、本来はアイラモルト並みのスモーキーでどっしりとした味わいの飲み口なんだとか…
いけないいけない、また澤中マジックで飲みやすいシングルモルトと勘違いして、おかわりしてしまうところだった…
ウイスキーも国産のみで、超希少なものも1杯800円~1,500円という驚きの価格です。
最後に、室では1,500円以上の来店で1ポイントつくアカウントを開設でき、30回来店すると、富山の能作製の錫のマイぐい呑みを名入りで一つ作ってもらえます。
買えば5,000円はするらしい、能作製のぐい呑み。レジ後ろの棚にはずらり誰かのマイぐい呑み群が並んでいます。私もほしい~!
ということで、4時に来たけど帰りは7時過ぎ。3時間も酒のアミューズメントパークを堪能してしまいました。
みなさんも室に行く時には、後に予定のない時のみ行きましょう。また澤中ワールドにじっくり浸りたい場合は、18時前後を狙うのがベターです。「シフトで休みの場合もあるのでペアリングコースを予約してもらうと確実」とのこと。別世界をお楽しみください!
紹介したお店
※店舗は新型コロナウイルス感染症対策を実施しており、取材も対策を講じた上で実施しました。
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