いつものバーのカウンターに並び、いつもの仲間と盛り上がるのは決まってラーメンと音楽の話。
東中野に新しくオープンしたラーメン屋「覆めん花木」に2日連続で行った報告も、ミュージックマガジンの最新プレイリストがヤバいって話もし終わった深夜2時。
そんなとき、誰かがぽつりと漏らしたのは「天下一品ってさあ、ミュージシャンで言ったら誰になるのかなあ?」という一言でした。
そこから議論は想像以上に白熱し、気付けば朝方の4時。到底収集がつきそうになかったので日を改めて場を設けることに。そして「どうせなら、どこかに記録しておきたい」という想いからライターも召喚。それがこの記事が生まれた経緯です。
まずはメジャーな「天下一品」「中華そば 青葉」「ホープ軒」「蒙古タンメン中本」の4店をミュージシャンに当てはめるべく、当日招集されたのはラーメンと音楽に一家言ある4名。果たしてどんな結論にたどり着くのか、そもそも結論は出るのか。では、これにて「第一回メジャーラーメン店をミュージシャンに例える会」の開幕です。
【参加者】ラーメンと音楽をそれぞれの形で愛す4名が参戦
高山 洋平(たかやま ようへい)
1978年生まれ。特異な広告を制作することでお馴染み、株式会社おくりバントの代表取締役。ホームのラーメン屋は「ラーメン二郎」。どんなに多忙であっても「ラーメン二郎」に行く時間を捻出することに全神経を注ぎながら生きている。音楽とラーメンについては、そこそこの知識を持つ。
MANNER-CHUNK(まなーちゃんく)
1981年生まれ。独特なグルーヴを生み出す「skillkills(スキルキルス)」のボーカル。ホームのラーメン屋は「ラーメン二郎」。3年前に心酔していた「めん処 渚」が閉店してから、しばらく自暴自棄になるも「ラーメン二郎」にハマってからは、スマホを手に取るように「ラーメン二郎」のことを想っている。
矢川 俊介(やがわ しゅんすけ)
1976年生まれ。月刊音楽雑誌『ミュージック・マガジン』の編集者。ホームのラーメン屋は六本木の「天鳳」。ラーメンに関してはメジャーどころを抑えている程度の知識ではあるものの、音楽に関しては一般人を置いてけぼりにするほどのビックデータを脳に保有する。文化人枠として参戦。
亮太(りょうた)
1983年生まれ。営業マン。「中野の天才ラーメン少年」という異名を持ち、年間250杯程度のラーメンを食す軽度のラーメンオタク。ホームのラーメン屋は飯田橋の「高はし」と、中野富士見町の「麺好」。その二店が閉店したら生きる気力を失う。バンド「太陽民芸」のベーシストとしても活躍し、主にロックやパンクを好む。
こってりラーメンの代名詞「天下一品」をミュージシャンに例えるなら?
本日はお集まりいただきありがとうございます。今日は「このラーメン屋はこのミュージシャンである」という議論がしたくて招集をかけさせていただきました。ちなみに、ここで皆で出した結論は、今後も個々の意見として掲げていただきます。
皆の総意が自分の意見になるってことね。
その気概で納得できるまで話していきたい。
なるほど。
まずは天一からいきましょう。俺は天一はQueen(クイーン)だと思っていて。Queenってポップでありながら唯一無二の存在じゃないですか。あれだけ個性的なのにちゃんとメジャー路線に乗っている。それが、ポピュラーでありながらオリジナリティのある天一と共通していると思いますね。
確かに天一のラーメンって独特ではありますよね。特にスープ。天一のスープって、ベジタブルポタージュと鶏白湯を掛け合わせたダブルスープなんですよね。
まだラーメンに対して浅はかだったときは、天一のスープに鶏が使われてるって分からなかったな。
俺も。十数年前に天一の店内に貼られてた「鶏と野菜の黄金比」みたいなポスターを見て初めて知った。あ、鶏だったんだ、ってちょっとびっくりした。
友達に鶏だと言っても信じてくれないくらい濃いよね。
そもそも天一の話をするときって絶対「こってり」の話になるのが面白いよね。フレディが「こってり」だったら、ギターのブライアンが「あっさり」になるのかな。
ブライアンは「こっさり」じゃないですか?
「こっさり」!
「あっさり」はドラムのロジャーかな。
確かに。
衝撃を覚えた天一のスープとQueenのBohemian Rhapsody
ちなみに俺も天一はQueenのイメージ。今回、俺は天一について「人が初めて出会うJ-POPじゃないラーメン」っていうキャッチコピーにしていて。それは多分俺がスタンダードじゃないラーメンを初めて食べたのが天一だったからだと思う。
親に連れられて食べたラーメンとはまた違う味。
そうそう。「なんだこれ?」っていう新しい味だったんだよね。Queenに関しても、子どものころJ-POPくらいしか聴いてなかった生活の中に突如テレビから「Mama〜♪」なんていうメロディが流れてきて、いきなり洋楽に惹かれてしまう、みたいな出会いだったから。天一もQueenも世界への導入という点でリンクしてると思う。
確かに俺も中学に入って色気付いてきたタイミングで兄貴が持ってた「GREATEST HITS(グレイテストヒッツ)」を聴いて初めてQueenを知ったな。
俺がQueenを知ったのは中一か中二で観た「Wayne's World(ウェインズ・ワールド)」っていう映画だった。ボロボロの車のカーステレオから流れる「Bohemian Rhapsody(ボヘミアンラプソディ)」を歌うシーンを聴いて「こんな音楽があるんだ」って衝撃だったな。今まで聴いたことない音楽なのに、ポップでどんどん引き込まれていった。中三のときにフレディが亡くなって、そこまでの思い入れがあるはずじゃないのにカッコつけて、休まないといけない気がして学校行かなかったもん。
Queenって初めて自分自身で辿り着いた巣立ちの音楽なんだよね。
ファミリーでも行ける天一、ファミリーが入ってるSly & The Family Stone
ちなみに僕は天一ならBon Jovi(ボン・ジョヴィ)じゃないかなと思ってます。QueenもBon Joviも日本で人気のあるバンドだから近い存在だと思うんだけど、Bon Joviの方がよりメジャー感があるからBon Joviにしました。
でも天一ってBon Joviほど分かりやすくなくない?
確かに。それに意外と天一のインスパイア系って少ないんですよね。あれだけメジャーな店なのにこれといったフォロワーがいないんです。個人経営店が限定メニューで提供することはあるけど。あれ、喋ってるうちにQueenなのかもって思い始めてきた……。
俺は勝手にブラックミュージック縛りにしちゃいました。それでいうと天一はSly & The Family Stone(スライ&ザ・ファミリー・ストーン)かなって。矢川さんの「親元を離れて初めて食べたラーメンが天一」っていう意見にはちょっとジェネレーションギャップを感じるんですよね。っていうのも、俺の世代ではもう天一はメジャーなラーメン屋で、ファミリーでも行けるような店だったから。
そっか、世代によってラーメン屋の捉え方も変わるのか。
天一のサイドメニューの豊富さも少しファミレスっぽさを感じさせるんですよね。本店ではテーブル席で長居してるお客さんもいたし。
天一って豚キムチ定食とかもめちゃくちゃ美味いよね。餃子の王将みたいに豚キムチに甘みがあるんだよ。京都の豚キムチって甘いのかな。
あとはやっぱり天一の「こってり」は、ブラックミュージックに当てはまるかな、と。
Sly & The Family Stoneもグループ名に“ファミリー”を掲げてるしね。
でも、Queenの理由には勝てないな。
じゃあQueenにしましょうか。
同意です。
同意です。
同意です。
では皆さん今日から「天一をミュージシャンに例えると?」と聞かれたら全員一致で「Queenです!」と答えてください!
多層的な醤油スープが魅力「中華そば 青葉」をミュージシャンに例えるなら?
じゃあ次は、青葉をミュージシャンに例えた場合。皆さんの見解を教えてください。
僕はoasis(オアシス)です。青葉って華の96年組って言われているんですよ。96年は青葉の他にも「麺屋武蔵」や「くじら軒」がデビューした年。まさにラーメンシーンに華を添えた年であり、当たり年でした。同様にoasisも90年代の顔として、音楽シーンでは圧倒的な存在感を示していましたし。
つまり青葉の登場は、ブリットポップにも通ずるってことだね。
そうです。青葉は豚骨や鶏ガラの動物系、鰹節、煮干し、昆布などの魚介系を掛け合わせたダブルスープの先駆けとして一大ムーブメントを作り出したことで知られています。それ以降、青葉インスパイア系としていろいろな店が出てきた。あまりにも色んな店が泡沫的に出てきたもんだから「またおま(またお前か)系」と言われるほど。ただ、その中でも渋谷の「はやし」や市ヶ谷の「九段 斑鳩(くだん いかるが)」などは本物として今も残っていますが。
ブリットポップも色々なバンドが一気に出てきたけど、やがて淘汰されていったもんね。
そうそう。あと、有名になるとトラブルに見舞われることもあります。そこでもoasisと青葉は共通していて。まずoasisは、1973年にニール・イネスという人が作曲した楽曲のメロディーが「Whatever(ホワットエヴァー)」のメロディーに酷似しているということで、レコード会社に盗作で訴訟を起こされています。そして青葉のオーナーは、今はもう閉店したラーメン屋のオーナーから「技術やノウハウを教えたのに何の礼もない」という言い分で拉致された事件があります。
青葉の事件は当時ニュースにもなったよね。
歴史も符合するんだ。
万人受けするところも同じだと思っています。青葉の味と、oasisの音楽。
oasisは俺も賛成。当時oasisってThe Beatlesの新しい後継者的な存在として出てきたじゃん。そういう意味で青葉は「荻窪中華そば 春木屋」のポスト的なポジションだと思ってて。中華そばの正当な継承者というか。
そこの考え方は違うかもしれません。僕は青葉はニューウェーブとして出てきたと思ってるから。
ニューウェーブか。なるほど。
青葉とoasisがそれぞれのシーンに与えた絶大な影響力
俺は青葉に豚骨と鶏ガラとカツオと煮干しの4つが揃ってることからBoyz II Men(ボーイズ・ツー・メン)かなって。Boyz II Menの名前の中には少年と大人の男が2人ずついるし、「Men」は「麺」にかかってるし。
何故か説得力あるな。
オールマイティーな曲の良さ、オールマイティーな美味しさも共通していると思った。
マナーチャンクは歌詞も書く言葉の人だから、他と視点が違うのかもね。ちなみに俺はR.E.M.(アール・イー・エム)。oasisってもちろんThe Beatlesを尊敬してるんだけど、それほど色んな音楽を吸収してるタイプのバンドじゃないんだよ。でも青葉は色んなラーメンを吸収して今の味がある。その点、R.E.M.は色んなバンドが出てきた後に時代を変えた人たちだし、パンキッシュな部分もあってトラッドの要素も入れてきたりするんだよね。個人的には、Oasisはそういう懐のあるタイプのバンドだとは考えていないんだよね。
でもR.E.M.はちょっとインテリすぎない?
「青葉インスパイア系」というバブルが起きた影響力を考えるとoasisなんじゃないですかね?R.E.M.は孤高なところがあるから。
うーん……そう言われるとそうかも。
確かに。
じゃあここはoasisに決定で異論はないですかね?
ないです。
ないです。
ないです。
では皆さん今日から「青葉は音楽グループで例えると?」と聞かれたら全員一致で「oasisです!」と答えてくださいね!
“背脂チャッチャ系ラーメン”の元祖「ホープ軒」をミュージシャンに例えるなら?
次、ホープ軒です。まず俺はホープ軒の歴史を踏まえながら考えたくって……。
昭和10年頃、先代が錦糸町で営んだ「貧乏軒」という屋台がホープ軒の歴史の始まりですね。
昭和10年……。すごい歴史だな。
ラーメンって戦後、物資が乏しい時代に安価で作れることから一気に全国で流行したと言われているよね。
浅草にあった「来々軒」が東京のラーメン店のルーツとして知られていますよね。
ホープ軒の前身である「貧乏軒」もその一つだったんだね。そこから紆余曲折を経て現在の「ホープ軒本舗」となり豚骨のスープにニンニクをトッピングするスタイルに至ったのかな。とにかく俺はホープ軒でラーメンとニンニクのシナジーを知ったんですよ。
俺もラーメンにニンニクを入れるってガキのときは知らなかったもんな。
ホープ軒はニンニクが有料なんだよね。ニンニク有料の店って実はうまい店多いよね。荒木町の一心ラーメンや新井薬師の大番ラーメンとか。とにかく、ホープ軒はニンニクを食べてスタミナをつけてくださいと。昭和の時代からずっと庶民の味方なんです。Bruce Springsteen(ブルース・スプリングスティーン)も同じようにずっと庶民の味方なんです。
なるほど。俺はホープ軒と言ったら背脂の印象が強くて。この背脂はディストーションギターのようなイメージ。だからハードロックの先駆けであるLed Zeppelin(レッド・ツェッペリン)だと思う。
背脂で有名なのは、先代が募集していた屋台から独立した千駄ヶ谷のホープ軒(「ホープ軒」の商標はこちらが持っている)の方ですね。この辺の歴史や経緯は結構複雑なので、今回は省略し、まるっとホープ軒系として混同させていきましょう。
僕はちょっと違って、ホープ軒って東京のラーメンのグランドファーザーのような存在だと思ってる。ラーメンの故郷というか。だからRay Charles(レイチャールズ)じゃないかな、と。
Led Zeppelinもブルージーではあるけどね。
でも、ホープ軒って誰にでも染み渡る、嫌われない味でもあるからさ。味の超パイセン的な存在。それって音楽に例えるならRay Charlesかなって思ったんだよね。
その説、結構いいね。
誰にでも嫌われないとは言え、ニンニクを入れるスープからは「もうガキじゃねえぜ」っていう主張もうかがえる。
長く深い歴史の先にポップな味と音楽。ホープ軒はRay Charles
僕はThe Stooges(ザ・ストゥージズ)です。考え方としては矢川さんと同じ。背脂のパンチの強さで選びました。The Stoogesはパンク・グランジのゴッドファーザーという立ち位置ではあるけど。
でもThe Stoogesは短命なバンドだしなあ。同世代で活躍してたヴェルヴェット・アンダーグラウンド的な存在じゃない?。ホープ軒は現代も健在だからさ。
でもThe Stoogesのイギー・ポップは今もバキバキ現役ですよ!しかも前妻は日本人だし、イギー・ポップ自身は寅さんも好きだし。日本とも所縁があるんです。それにThe Stoogesが多くのバンドのルーツであるように、ホープ軒も多くのラーメン屋のルーツなんです。土佐っ子がその代表です。
そんなこと言ったらBruce Springsteenだって長渕、浜省、のルーツだから。
The StoogesだってNirvana(ニルヴァーナ)のルーツなんですよ!Nirvanaは、土佐っ子なんですよ!
The Stoogesは偉大だけど、Ray Charlesと比べちゃうと、ロック史のだいぶ後ろのほうの一部に影響を与えたバンド、ということになるのかもしれない。
歴史の長さ、深さで考えるとRay Charlesだね。
でも音楽性と、強めの背脂が乗った豚骨味との親和性は弱いのかも。
今となってはホープ軒はポップな味だよ。子どもに食べさせても美味いって言うもん。
そう考えたらRay Charlesも売れてABCレコードに移籍してからポップになったしね。そこからヒットを連発するようになる。
そうか。
確かにそうですね。
ではホープ軒はRay Charlesで決定しましょう!今日から「ホープ軒はミュージシャンで例えると?」と聞かれたら全員一致で「Ray Charlesです!」と答えてくださいね!
激辛ラーメンの登竜門「蒙古タンメン中本」をミュージシャンに例えると?
では次、蒙古タンメン中本です。五感の話になっちゃうけど、中本はやっぱり辛い、だから俺はRed Hot Chili Peppers(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)。
色もレッドで共通してるね。
そうそう。特に「Mother's Milk(マザーズミルク)」ぐらいまでの初期は辛いよね。この時期のレッチリでラップを知ったっていう思い出もあるな。
俺も辛い繋がりでOtis Redding(オーティス・レディング)。中本もOtis Reddingも、アッパーをストレートに楽しむアトラクションのような快感があるんじゃないかな、と思って。
それにOtisってライブだと汗でビチャビチャになりますよね。
え!? そんなこと言ったらアーティスト皆そうじゃない!?
いや、Otisは歴史上一番汗を飛び散らせながらパフォーマンスするアーティストだと思いますよ。
それはそうかもしれないね。Sam Cooke(サム・クック)とかFela Kuti(フェラ・クティ)よりも。
そうなんだ。なんか信憑性高くなったな。
店舗選びやメニューの頼み方次第で、楽しみ方が無限に広がる「蒙古タンメン中本」
もともと今の中本の代表の白根さんは2代目なんですよね。先代のラーメンに惚れ込んで修行の末、2代目を襲名した。その白根さんが初めて店を持ったのが上板橋店。ちなみにその上板橋店には店舗限定のメニューが結構豊富なんです。
小滝橋店にはインド丼があるよね。
小滝橋店にはアジア系メニューがいくつかありますね。
俺は27歳の頃はけっこう中本に通ってたんだけど、中にはすごいお客さんもいて。五目蒙古タンメンに乗ってる肉を、別で頼んだライスに乗っけてオリジナル豚丼を作ったり。辛さ0の塩タンメンと辛さ9の北極ラーメンスープを一緒に頼んで、塩タンメンの麺を北極ラーメンのスープにつけて、あつもりつけ麺として食べてたり。
中本のいいところは店舗選びやメニューの頼み方次第で、楽しみ方が無限に広がるところなんですよね。
ただどうしても激辛を謳う店は辛さを競う場所でもあるよね。俺はそんなに激辛が得意じゃないんだけど、いつもより2~3辛いラーメンを食べられたときは、何も変わってないのに自分がカッコいい気がちょっとしてしまう。
雨降ってるけど傘ささない、みたいなね。
自分との戦い。そういうベクトルのカッコよさだよね。
核の部分はキャッチーでありながら過激演出がなされている中本とKISS
そういう意味ではRed Hot Chili Peppersってテクニカルすぎると思うんですよね。今や神格化されてるOtis Reddingも違う気がする。中本はもう少し粗めなんですよ。めちゃくちゃテレビにもでてるし、代表はハーレーを乗り回したりもしてる。商業として成功した、というイメージが強いんです。まずその点で僕は中本はKISS(キッス)だと思います。
確かにKISSのメンバーってロックスターなのにビジネス系の資格とか持ってたりするんだよね。
KISSってハードロックなんですよ。メタルほどヘビーではない。曲自体はポップだけど、奇抜な化粧や火を使うライブ演出が過激なんです。中本もベースのスープはシンプルな中華スープで、そこに激辛の要素が乗っている。核の部分はキャッチーでありながら過激な演出がなされているのは共通しているんじゃないかな、と。
激論!KISSを口ずさむ人はいるがPANTERAを口ずさむ人はいない
なるほど。亮太は普段どれくらいの辛さを選ぶの?
僕はつけ麺メニューの冷し味噌やさいを食べることが多いですね。これは中本のデフォルトメニューで最も辛い冷し味噌ラーメンのスープに炒め野菜が乗った、いわば冷し味噌の豪華版です。
そうか。北極ラーメンが一番辛いメニューじゃないんだ。
中本の北極ラーメンって、東京の飲食店の激辛料理の指標にした方がいいと思うんですよ。「北極が食べられるなら、この料理も食べられるはずです」みたいな感じで。
実際、激辛で有名な店で「このメニューは本当に辛いんで、よっぽどの自信がないならやめた方がいい」って言われたんだけど、「北極好きなんですけど」って返したら「じゃあどうぞどうぞ」って勧められた、っていう話を聞いたことがあるよ。
音楽シーンでKISSもそういうところがありますよね。
いや、それはないわ。
じゃあ矢川さんは何なんですか?
俺はPANTERA(パンテラ)。PANTERAが出てきた当初の衝撃って凄かったけど、万人に受け入れられる音楽でもない。ハードロックも色んなハードさのバンドがいるけど、PANTERAくらいのレベルから聴く人を選び出すよね。中本もそう。KISSほどマイルドではないと思うんだよな。だってKISSは全米ナンバー1バンドといっても過言ではない存在でしょ。
でも中本はいっぱいテレビ出てますよ。
それってKISSがテレビに出演するスタンスと一緒ではないよね?中本ファンは確実にいるけど、それは決して一般層のラーメンファンではない!
いやいや、中本には興味本位のお客さんもめちゃめちゃ来ますから!
……。
……。
しかもハードロックの聴き始めにいきなりPANTERAにいかないじゃないですか!ヘヴィーなロックへの入り口はKISSなんですよ!それと同じように中本は激辛料理の登竜門なんです!
いや、KISSは日常的にラジオで流れてたでしょ!ハードロックという1ジャンルの入り口みたいな小さいものではなくて、もっと一般的にポップスのように聞かれたと思うんだよ。KISSはそれくらいメジャーだったんだって!だってKISSって口ずさんでる人って結構いるじゃん!PANTERAを何気なく口ずさんでる人っている?いないよね?ね!?中本も、日常的に誰もが口にするラーメンではないんだよ!
……なるほど。その理由は結構納得できるかも。
大人が喧嘩した末に導き出した中本に当てはまるラーメン屋とは
いやいやいやいや、逆に中本はラーメンシーンではめちゃめちゃメジャーな存在なんですよ。コンビニにカップ麺だって置かれてるし、冷凍食品だって。
あ、セブンにある冷凍の「蒙古タンメン中本 汁なし麻辛麺」めちゃめちゃ美味いよね。
KISSはお茶の間に寄ったロックって感じだよね。
PANTERAをラーメン屋に例えるなら、もっとイっちゃった店だと思いますよ。中本には0辛のタンメンもありますし。
いや、PANTERAも売れてはいるから。ぜんぜんマイナーバンドではないから。中本がメジャーなのは理解できるけど、KISSみたいに東京ドームでライブをやるほどポップではないと思うんだよな。
中本のテレビ出演は民放のゴールデンタイムでしたけどね。
東京ドームでライブをやるほどのラーメン屋と言ったらそれこそ天一とかじゃないの。中本はスタジアムではない気がする。
そうそう。スタジオコーストくらい。
いやいやいやいや!スタジオコーストじゃ収まらないですよ!だって中本はカップ麺で全国に遺伝子をばら撒かれてるんですよ!?
確かに……。
いやあ、それにしてもKISSはあまりにマイルドでしょう。激辛じゃなくてちょい辛くらいじゃない?
確かにKISSが辛いかというと、辛くはないのかも。
でも、中本の人間から言わせてもらうと……。
感情移入しすぎて中本の社員になっちゃった。
Tシャツはめちゃめちゃ「みん亭」(※下北沢を代表する町中華の名店。かの甲本ヒロト氏もバイト経験者)だけどね。
今までの2人の激論を外野から冷静に見させてもらったけど、Otis ReddingかPANTERAじゃないかな。中本って激辛のイメージから怖くてまだ行けてない人もいるし、中本がポップでメジャーっていうのは、あくまでラーメンマニアの意見って感じがするな。
それはある。
そうだね。
Otis ReddingかPANTERAかで言ったらPANTERAです……。
そこはPANTERAなんだ(笑)
じゃあPANTERAに決定しましょう!亮太くん、中本をミュージシャンで例えると?
KI……PANTERAです。
一同:拍手。
とにかくここで決定した意見は、今後絶対曲げないでくださいね!これは皆さんの総意です!!今日この日から中本はPANTERAに決定しました!!
ラーメン屋をミュージシャンにまだまだ例えたいという飽くなき願い
大人4人がときには声を荒げながら議論を交わし、なんとか決定した「天下一品」「中華そば 青葉」「ホープ軒」「蒙古タンメン中本」に匹敵するミュージシャン。
読者の中には、「今、話してるのはラーメンの話?ミュージシャンの話?」と意識が迷子となり、全ての言葉がゲシュタルト崩壊した方もいるかもしれません。記事を書いているライター自身がそうでした。
こちらの苦労を知ってか知らずか「それを言うなら幸楽苑では?」「じゃあ大勝軒は?」などと議論は終幕するどころか、膨らむばかり。
もしかすると「第二回メジャーなラーメン屋をミュージシャンで例える会」を設ける日も近いかもしれません。
[ロケ地]BACAFE
ライタープロフィール
いちじく舞
フリーライター・編集・企画。小心者だけど羞恥心はあまりない。散らかった経歴を経ています。とうもろこしと大学いもとものづくりが好き。