ヤマメという魚がいる。水の綺麗な上流部に生息し、漢字で書くと「山女魚」や「山女」となる。パーマークという美しい模様があり、山間の村に行くと物産館などで塩焼きとして売っていたりする。淡白で美味しい魚だ。
ただ、ヤマメがスーパーの鮮魚コーナーで売っているのはあまり見ない。美味しいのに見ないのだ。海の魚ほど一般的ではないし、川魚を臭いと思っている人も多いからだろう。でも、違うの。ちゃんとしたヤマメを買えば、めちゃくちゃ美味しいから。
ヤマメと私
川魚と言われると何を思い浮かべるだろうか。アユやイワナ、ニジマス、そしてヤマメなどと言ったところだろうか。知ってはいてもあまり食べたことがない人が多い気がする。それはもったいない、本当に美味しいから。
私は川魚が大好きだ。美味しいから。渓流で釣りをすることも多い。美味しいから。綺麗な川を見る時の私はビュッフェを見ている感じだ。美味しいから。川魚でかまぼこを作るほど、川魚が好きだ。美味しいから。
特にヤマメが好きだ。美味しいから、だけではない。ロマンもあるからだ。ヤマメは川魚と思いがちだけれど(正解だけどね)、ヤマメには降海型というのもいて、それは川を下り海に出て、大人になるとサクラマスとして川に戻ってくる。海に下りサクラマスとなったヤマメは大きい。
ヤマメは渓流の女王と言われる。パーマークと言われる小判型の模様が美しいのだ。ただ下流域の街ではあまり食べる機会がない。スーパーに行っても売っていないし、食べられるお店も少ない。常々残念に思っていたら、山梨県の小菅村にある玉川養魚場が生きたヤマメの販売を始めた。
生きたヤマメの魅力
山梨県の小菅村は多摩川の源流域にある村だ。そして、ヤマメの養殖に初めて成功した村でもある。ある意味、ヤマメの里なのだ。そんな村にある「玉川養魚場」が生きたヤマメの通販を始めた。震えた。なんて素晴らしいサービスなのかと。
川魚を刺身で食べる機会はあまりない。鮮度の問題もあるし、寄生虫の問題もある。ただ生きていれば鮮度の問題はクリアできる。さらに養殖なので寄生虫の問題もない。それを解決したのが玉川養魚場のこの通販。生きたヤマメの通販はあまり聞いたことがない。
ヤマメの養殖を始めてもう長いんですか?
もう50年くらいかな。自然の川を引き込んで、本物の多摩川の源流を使って育てています。東京都の水源林なので、基準も厳しく、薬とかも使っていません。だから本当に天然の条件に近い。大切なのは水質と水量。水が悪いとヤマメが臭くなります
川魚って臭いイメージ持っている人もいますけど、水なんですね。小菅のヤマメは臭いと思ったことは一度もないです! 刺身とかでも大丈夫ですよね?
新鮮なら問題ないよ! うちは県の水質検査も毎年しっかりやっています
そちらでは生きたヤマメを個人で通販できるって、今までやっていなかったですよね?
やってなかったです、飲食店とか管理釣り場とかに卸していました。奥多摩にある「陣屋」さんとかで食べることができます。あと、小菅村の道の駅にある物産館の前で塩焼きにしていたり
物産館のはよく食べます! 美味しいですよね!
今回のコロナでそういった需要が一気に少なくなってしまいました。ただ池には魚がいて、池が溢れかえるから、生きたヤマメが買えるというサービスを始めました。みんなが来られないなら、こっちが自宅まで行ってやろうと思ってね
確かに送られてきたヤマメを見ると、おうちで小菅村を体感できますね! 養魚場では年間でどれくらい育てているんですか?
6万匹孵化させています。それが出荷するサイズ、塩焼きにいい100~120グラムになるのに7ヶ月かかるかな
今回の通販もそのサイズですか?
そうですね! 7ヶ月とかかかるから、コロナの前でしょ。だから、池が溢れかえっちゃうんだよ!
コロナはよくないですが、生きたヤマメが個人で、自宅にいながら買えるのは本当にいいサービスだと思うんです。玉川養魚場のヤマメは海の魚以上にクセがない。また生きた魚が届いて、捌いて、食べるのは食育としてもいいと思います。川魚を刺身にしても食べられるってなかなかない機会ですし、このサービスの話を聞いたとき震えたんですよ!
川魚は美味しいんだって知ってもらいたいですね、ありがとうございます!
生簀ごと買いたいくらいですが、通販にある5匹のやつを買います!
ありがとうございます!
生きたヤマメが我が家に
生きたヤマメは関東圏エリアのみ。5匹で3,400円で送料無料なので、値段的には高くない。ちなみに生体なので輸送中に万が一死んだり弱ったりという場合もあるのだけれど、鮮度的には問題ない。全然食べられるのだ。
袋を開けて水に手を入れると驚くほど冷たい。源流の水は冷たいのだけれど、それと同じ。水道水とは違う源流の川らしい爽やかな匂いもする。ヤマメを観察しようと透明なケースに入れると驚くほど元気がよかった。明日から夏休みの子供くらい元気がいい。自宅から一歩も出ずに生きているヤマメを見ていることに感動する。
ヤマメ料理を作ろう
今回作るヤマメ料理は「刺身」「ホイル焼き」「なめろう」の3つ。5匹もいれば、3つくらい料理が作れるのだ。塩焼きは小菅村の物産館で食べたことがあるので、今回は作らない。ヤマメのお刺身が特に楽しみだ。
捌き方は海の魚と変わりない。ウロコを取って、はらわたを出して、エラを取って、水で洗いながら血合いを取る。ちなみにヤマメはヌルヌルしているからとてもよく滑る。ウロコを取るとそれもなくなる。ペットボトルの蓋でやると簡単に取れます。
ここから料理に合わせて三枚におろしたりする。何度も書くけれど、新鮮で養殖だから生で食べることができる。もう楽しみで仕方がない。三枚におろして、あばらをすいて骨をなくし、皮をはぐ。そして、薄く切ればお刺身の完成だ。
次は「なめろう」を作る。なめろうを作る理由とすれば、もちろん美味しいというのはあるけれど、刺身で上手くおろすことができなかった時のリカバリーだ。なめろうは身をとにかく細かくするので、失敗したものでも作れてしまうのだ。
最後のもう一品は「ホイル焼き」。せっかくなのでヤマメの形を生かした料理を作りたくて、このチョイスにした。玉ねぎと人参を細かく切って、ホイルに乗せて、その上にヤマメをドーンと乗せるだけ。塩胡椒をして、チーズを乗せたらあとは焼くだけだ。
3品作ったけれど30分ほどで完成した。やはり素材がいいから、手の込んだことをしなくても十分に美味しくなるというのがいい。ヤマメを観察していた時間の方が長かったくらいだ。食べるのが楽しみだ。
ヤマメを食べる
振り返ってみると、ヤマメの刺身はほとんど食べた記憶がない。条件反射で塩焼きにしちゃうからそれ以外の料理を食べた記憶がほとんどないのだ。私は釣りをするけれど、野生は寄生虫が怖いから、焼いちゃうというのもある。
身は淡白でもちもちした食感がある。繊細な味なのだ。美味しいけれど、繊細という言葉が合う。大味ではないのだ。もちろん臭みはない。醤油はちょっとつけるくらいでいい。川魚って美味しんだなと再確認できる。水っぽさもない。新鮮だからだろうか。
なめろうも、当然美味しい。ネギやニンニクがヤマメの味をさらに引き出すいい仕事をしている。なんでも鑑定団に出したいほど、いい仕事をしている。単独でも美味しいヤマメだけれど、協調性もあるらしい。ヤマメは女王と言われているけれど、民衆から支持されるタイプのいい女王なのだ。
チーズとヤマメも合うんだね。クセがない魚だから、基本的には何にでも合うのだろう。いや、本当にね、海の魚以上にクセも臭みもない。臭みは水の問題以外に、締める時の処理の問題もあるので、さっきまで生きていたヤマメはその問題もクリアしている。つまり美味しいのだ。最高なのだ。
美味しさが家に届く
魚によっては新鮮よりも熟成させる方が美味しいのだけれど、熟成も素人がやると失敗することもあるので、安定して美味しいのが新鮮というのが私の考え。それがこのヤマメなら間違いない。新鮮も新鮮だから。美しさを堪能して、味を堪能する。全てがあるのだ。家族みんなでヤマメの美しさや生き物の力強さに感動してから食べられるのも最高の贅沢だ。私の場合は独り身だけど。
玉川養魚場のサイトはこちら(ここで買えます)
著者プロフィール
地主恵亮
1985年福岡生まれ。基本的には運だけで生きているが取材日はだいたい雨になる。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女」(鉄人社)、「インスタントリア充」(扶桑社)がある。
Twitter:@hitorimono