外出自粛で料理にハマった人は多いというが、筆者もその一人。すり鉢の使い方を習得したり、牛タンを長時間煮込んだり、持て余した時間を活用して手間のかかる料理に挑んできた。
そして、もうひとつ、以前から興味があった「干し網」で、野菜やきのこなどの「干物」作りを始めてみた。初心者ながらおいしくできたので紹介したい。
詳しい人に聞こう
ただ、干物について何も知らない素人の筆者が丸腰で挑んでも、たいしてうまいものができると思えないし、有益な情報を届けられない。そこで、今回も詳しい人の知見に頼ることにした。
「ほしや」さんは、自家製干物や、干物を使った料理を提供する専門店(都営浅草線・浅草駅から徒歩1分)。詳しい人、どころか、干物のプロフェッショナルである。
干物の基本をみっちり教わる
というわけで、干し網の選び方から使い方、干物におすすめの食材や干物を使った料理のレシピなど、基本的なところに絞って教えていただこう。
さっそくですが、まず僕は何から始めればいいのでしょうか?
まずは、干し網の購入です。現在では、アウトドアブランドのオシャレなものから機能的な自立型の干し網など幅広く展開されています。でも、初めての方であればシンプルなドライネットで十分だと思いますよ。
例えば、一人暮らしの方であれば30cm×20cm、たくさん干したい方であれば40cm×40cmがオススメです。ちなみに、何段かに分かれている干し網は省スペースで収納力も抜群。また、広々と開閉できるダブルファスナーは使いやすいですよ。
干物に向いている食材ってあるんでしょうか?
魚はもちろん、野菜、肉、果物、キノコなど、ありとあらゆる食材が干せます。ちなみに「乾物」は植物性食品を乾燥させたもの、「干物」は魚など魚介類を乾燥させたものを指しているんです。
乾物…植物性食品を乾燥させたもの
干物…魚など魚介類を乾燥させたもの
知らなかった! ということは冒頭で、野菜やきのこなどの「干物」って書いちゃったけど間違いですね。お詫びして訂正します。では、乾物にするのにオススメの食材を教えてください。
初めてだったら、大根・レンコンなどの根菜類、トマト・ナスなどの果菜類は作りやすいと思います。逆に、レタスやもやしなど水気の多い野菜は干すのが難しいですね。
あとは果物で作るドライフルーツも美味しいですよ。市販のドライフルーツは加糖されているものが多いですが、自家製なら果物本来の甘みや酸味を味わえますから。
乾物は、干すことで旨味がギュッと凝縮され、素材本来の味を堪能できるのが特徴ですね。なかには、切り干し大根のように乾燥させることで栄養価が増す食品もあります。さらに、歯ごたえも強くなるため、生野菜とはまた違った食感が愉しめますよ。
あと、キノコも適当なサイズにカットするだけなので簡単ですよ。完干ししておけば、料理にも重宝しますから。
完干し……、とはなんですか?
干し方には「完干し」と「半干し」の2種類があります。「完干し」とは3日~5日ほど干して、水分を完全に抜く干し方。保存性が高いけど、戻すのに時間がかかります。一方「半干し」とは、半日ほど干して、水分を若干残す干し方。保存性は低いけど、生野菜と同じようにすぐ使うことができます。干物や乾物は調理法、素材によって干し方を変えるのが一般的なんです。
完干し…完全に水分を抜く干し方(3日~5日)。保存性は高いが、戻すのに時間がかかる
半干し…程よく水分が抜けている状態(3時間~6時間)。保存性は低いが、すぐに使える
干す時間帯は、太陽が出ている9時~15時がベスト。なお、完干しの場合は、夜に霧や雨で濡れる可能性があるため、夕方には部屋の中に仕舞い、翌日にまた外干しすることをオススメします。また、干物は基本的に1年中できますが、やはり空気が乾燥している秋・冬が良いです。逆に、梅雨の時期や湿気の多い日は不向きですね。
元々ひものは、保存食として重宝されてきました。というのも、乾燥させて水分を抜くことで雑菌の繁殖を防ぎ、保存期間を延ばすことができるからです。そのため、傷みやすい野菜も干しておけば、冷蔵庫で5日ほど保存できますよ。
冷凍庫なら半干しでも1週間、完干しなら1ヶ月は持ちます。その際は密閉できる容器や袋に入れて保存してください。乾燥剤を一緒に入れておけば、常温でも保存可能ですよ。
そんなに持つんですか! 完干しすごい…
一人暮らしだと野菜が使い切れず、捨ててしまうことってあるじゃないですか? そういう方にこそ干し網を活用してほしいですね。スーパーで食材を買ったら、とりあえず干しておく。それだけで保存期間が長くなり、節約にも繋がりますからね。
たしかに! たまにしか自炊しない僕にも朗報です! ちなみに、よく聞く「天日干し」と「一夜干し」の違いというのは?
干物や乾物を作る際の干し方の違いですね。「天日干し」は、日光と風で乾かす方法です。魚の場合、表面は締まった歯ごたえになり、中はふんわりとした食感になります。ちなみに、先ほどの完干し・半干しも「天日干し」ですね。「一夜干し」は、風通しのいい夜や日陰で熟成しながら乾かす方法です。天日干しに比べて水分が多く残ります。また、日光に当てず、温度が低い状態で干すため、魚の脂が酸化しにくく、優しい味わいになりますよ。例えばイカの一夜干しなどは、ふっくらとした食感に仕上がります。
天日干し…干物を日光と風で乾かす方法
一夜干し…干物を風通しのいい夜や日陰で熟成しながら乾かす方法
なるほど。やってみたいけど、魚は捌くのが面倒だしな…。
捌くのが手間であれば、スーパーで売られている魚の切り身や刺身でもOKですよ。例えば、真鯛などの白身魚は程よい脂がのっていて比較的作りやすいと思います。
ありがたい情報。今回は教えていただいた、根菜類を中心とした野菜、果物、キノコ、白身魚を干してみようと思います。
ぜひ。ちなみに、乾物や干物はそのまま食べても美味しいですが、料理の食材に使うのもオススメですよ。水分量が少ないと煮込み料理の味が染み込みやすく、煮崩れしにくい。炒め料理でも火の通りが早いんです。くわえて、すでにカットをしているため下ごしらえの必要がなく、そのまま調理に使える。時短調理したい方にもピッタリですね。
〜ひものの魅力〜
①旨味と栄養がアップ
②食感が愉しくなる
③保存性が高い
④節約に効果的
⑤調理時間が短縮できる
ほしや直伝! 乾物グルメ
ここからは実際に乾物を作り、それで料理をしていく。レシピも「ほしや」の直伝だ。
干しキノコのコンソメスープ
1品目はキノコを干し、最終的にスープにしてみよう。
まずはキノコを干すところから。
こちらを使い、スープを作ってみよう。材料は干したキノコと水、コンソメスープの素のみ。
キノコは半干しでも使えるが、汁物の場合は完干しの方がより出汁や旨味が出るようだ。「そのため、塩コショウなどは使わず、素材の味を楽しんでみてください」と、ともなさん。
はぁ…キノコってこんなに豊かな香りがするのか。
いつもとは違った、弾力のある食感も最高!
干し野菜のグリル
続いては干し野菜のグリル。
干す野菜はこちら(※青唐辛子とミニトマトは別のレシピで使用)。
野菜は煮込む場合は完干しでもいいが、焼くなら半干しがいいとのこと。グリルの際、水分が抜けすぎていると表面か固くなってしまうらしい。さらに、
レンコンは厚めに切っておかないと、縮んでチップスみたくなってしまうのでご注意を。最低1cmくらいにカットしてください。その他の野菜も大きめに切ったほうが見栄えがよくなりますよ。
補足ですが、繊維を断つように切ると水抜けが早く、水戻しする場合の染み込みも早いです。逆に、繊維方向に切るとじっくりと水分が抜けていきます。そのため、水戻しをしないグリルであれば、繊維方向に切っておくと固くならず食べやすいと思います。
どう調理するかによって切り方も変わる。思ったより奥が深いぞ、乾物の世界。
味付けはお好みでOKだが、シンプルに塩のみがいいと思う。なぜなら
そのほうが凝縮された野菜のうまみを感じられるから。うまい!
味も香りも数段「強く」なった感じがする。肉や魚がなくても、野菜だけでメインを張れる味の強さがある。
真鯛の干物とドライトマトのペペロンチーノ
とはいえ、やはり動物性たんぱく質がないと物足りない、という人におすすめなのが、真鯛の干物とドライトマトを使ったペペロンチーノ。
天日干しする際は、身よりも皮目の方が乾きやすいため、7:3くらいの時間で太陽に当てると良いと思います。完全に表面が乾いたら完成です。
一夜干しならさらに簡単です。浸す塩水の塩分濃度を15%ほどにし、寝る前に風通しの良い外で干しておくだけ。あとは、朝起きて取り込めば完成ですよ。ちなみに、乾かす時に食用酒由来のアルコールを吹きかけておけば、完全に乾いてから放置していてもカビたりはしません。
同じく、ドライトマトもそのままではなく以下の下ごしらえがいる。
トマトの果肉は水分が多いため腐りやすいんです。あらかじめ取っておくと良いですね。
と、下ごしらえだけで1週間以上かかる。1週間といってもほぼ干すだけなので手間ではないが、気の長い人向けの料理ではある。食材の熟成を気長に待つ。いつでもそんな心のゆとりを持ちたいものである。
コロナで仕事がなくなりヒマなだけなのに偉そうに言ってすみません。調理に戻ります。
ドライトマトも一緒に入れてしまうと早めに焦げてしまう恐れがあるため、まずはオリーブオイルのみを熱しましょう
これまたうまい。干物を使ったパスタなんて初めて食べたが、すごく味わい深い。
トマト、オリーブオイル、パスタというゴリゴリのイタリア食材に溶け込み、うまみという独自の個性を発揮する干物。セリエAでいきなり活躍できるタイプだ。
ドライフルーツのヨーグルトあえ
最後はドライフルーツをヨーグルトであえてみる。
果物は半干しにする。基本的には薄くスライスするだけだが、パイナップルとバナナは下ごしらえの際のポイントがあるという。
バナナをそのまま乾燥させると、真っ黒になってしまいます。変色を防ぐため、干す前に砂糖水に1分ほど浸けておきましょう。また、あらかじめ筋を綺麗にとっておくといいですね。これらの下ごしらえをしておくと、いい形になり、エグみも出ません。
どれも美味しかったが、特にリンゴ。生のサクサク食感もいいが、半干しの「モギュモギュ」とした歯ごたえはクセになりそう。野菜と同様に味が強くなり、酸味と甘みがより際立っている。ヨーグルトとの調和もいい感じ。
ドライフルーツであれば、ラム酒漬け(砂糖とラム酒)にしてパンケーキにかけるのもオススメ。あとは、ドライフルーツとアイスやバター、チーズなどとの相性も抜群です。
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というわけで、乾物・干物の新たな魅力に気づかせてくれた干し網。
スーパーで買った普通の野菜や果物の潜在能力を引き出してくれる素晴らしいアイテムは、100円ショップでも購入可能だ。食材がしなびて旨味が凝縮されていく過程を観察するのも楽しいので、ぜひ試してみてください。
【取材協力】
ほしや
取材・文/小野洋平(やじろべえ)
撮影/榎並紀行(やじろべえ)
【プロフィール】
小野洋平(やじろべえ)
1991年生まれ。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服が作れず、ライター・編集者を志す。自身のサイト、小野便利屋も運営。