こんにちは。料理研究家の河瀬璃菜です。
私は「鮨」が大好きです!皆さんも好きですか?
好きですよね?
しかしながら、世の中に鮨ブームが到来していることもあり、特に都内の江戸前鮨は価格が高騰している今日この頃。お酒をしっかりと飲めば1回の食事で2~3万円のお会計になることもしばしば。
「もっとお手軽に鮨を楽しみたい!」
そんな気持ちから、かつてこんな記事も作りました。
昔は「江戸で生まれたファーストフード」とも言われていた「江戸前鮨」ですが、鮨の中でも特に東京、つまり江戸前鮨はお高い印象があります。
「江戸前鮨は、どうしてそんなに高いのだ!?」
という疑問が浮かんできたので、今回は私の行きつけのお寿司屋さん「大國鮨」さん協力のもと、江戸前鮨の仕事を見させていただきました!
江戸前鮨とは?
今回お邪魔したのは新井薬師前から徒歩5分ほどの場所にある「大國鮨」さん。
本当は教えたくない名店の一つですが、みんなのごはんでの記事もこれが最後なので……。お店の方からも特別に取材許可を頂きました。
こちらは、高いと言われている最近の鮨店の中でも、飲んで食べて1万円代という良心的な価格で絶品のお鮨を食べられる最高のお店なんです!
二代目大将の藤澤匡睦さん(左)に、お兄さんの藤澤雄司さん(右)。
お父様の代から続くここ大國鮨は創業50年の老舗。20年前にお父様が倒れられてから、兄弟二人三脚で切り盛りしています。
そもそも、「江戸前鮨」というのは江戸時代に江戸の町で生まれ、発展した「握り」を中心とするお鮨のことです。
「江戸前」つまり東京湾で獲れた魚をネタにしていたのですが、当時は冷蔵庫などはもちろん存在しないため、魚の鮮度を保つため、酢で締めたり、醤油で「ヅケ」にしたりと、さまざまな方法で加工していたのです。だから、江戸前鮨は手間がかかる!
今日は特別に仕込みの時間からお邪魔させていただいたので、江戸前鮨がどういう工程を経て皆さんのお口に届くのか、見ていきましょう!
穴子:煮穴子と白焼きの2種類を用意
まずは穴子!
旨味が増すように仕入れから1~2日寝かしたら丁寧に裁き、煮穴子の場合は秘伝の調味液につけ90分炊きます。
脂の乗り方や大きさによって煮る時間などは都度変わっていくそう。熟練の目があってこその仕込みですね。
同店では煮穴子だけでなく白焼きもあります。
「穴子を2種類下ごしらえするだけで大変そうですね。1種類だけにしようとは思わないんですか?」
「お酒を飲むお客さん達に白焼きは大人気なので、必ず2種類用意してるんですよ」
なんと優しさ溢れる回答……。
アワビ:少しでも安く仕入れるために工夫
お次はアワビ。
水で2時間煮て、そこからさらに出汁で30分煮込んだ状態です。
「アワビって高級食材のイメージがありますが、この価格帯で提供するのは大変じゃないんですか??」
「そうですね……(苦笑)。価格が抑えられるよう、仕入れの時にはギリギリまで水滴を落として、どうにかグラム数を減らそうとしています。微々たる差なんですが、少しでもお客様にリーズナブルに提供したいので……」
いつもは、朝の6時から仕入れに行き、朝の7時から(!)仕込みをしているのだそう。お鮨屋さんは、大変だ。
とり貝:優しく丁寧に接するのがコツ
こちらはとり貝!
このような手順で殻をむいていきます。
大将曰く、とり貝は女性と同じで優しく丁寧に接するのが大事なのだとか。
包丁さばきを見てみると、貝柱をとり、続いてヒモやワタをとっています。新鮮な内はワタを取りすぎないのが美味しくなるコツなのだそう。
ヒモは通常、賄いで食べるそうですが、今回は特別に炙って串焼きにしていただきました!
めちゃくちゃお酒が進みそうな味わい。これ普通におつまみで出してほしい~~!
石かけ貝:幻の貝も丁寧に下ごしらえ
これは石かけ貝!強いうま味と甘味が特徴です。
東北の震災で養殖場が被災し、今はほぼ天然物しか取れない希少な貝で、「幻の貝」と呼ばれているのだとか。
「震災があって養殖した貝が海に流れ出てしまっているから、この貝が養殖なのか天然なのかと言われると難しいんですけどね(笑)」
こちらも、とり貝と同様に優しく丁寧に殻から外したら、ヒモやワタを取ります。ツヤッツヤで綺麗……。
スズキ:漁師さんから直仕入れしているからこの価格
お次は3日寝かせた状態のスズキ!
淡白な味わいのスズキも寝かせて熟成させることで旨味が増し、より美味しくいただけるのだとか。
「僕は白身が好きなので、このスズキみたいに良い状態の白身に出会うと嬉しくて仕方なくなるんです……!このスズキは最高ですよ……!」
こうした魚は市場での仕入れだけでなく、実際に漁師さんのところへ直談判しに行き、直接取引しているものも多いのだとか。
ちなみに、こちらは神経抜きでも有名な宮城県石巻の漁師・大森圭さんからのスズキ!
筆者自身も実際に石巻で大森さんの神経抜きを見させていただいたこともあったので、こんなところでも……!と縁を感じちょっと嬉しくなりました。笑
直接漁師さんと繋がっているからこその価格でもあるんですね……。努力がすごい。
コハダ:日によって調整が必要!技術が問われるネタ
私の大好物コハダ~~~~!
コハダは、捌いたら塩をふり、酢で洗って酢で締める。こちらも大きさや脂ののり方で塩をふる時間、締める時間が変わってくるのだそう。熟練の技術が必要とされます。
そしてさらに、昆布で締める!
あ~あの美味しいコハダはこんなに手間がかかっていたのか……。
「コハダを見ると職人の腕がわかる」という言葉にも納得です。
「コハダも大好きだけど、これからの時期はシンコ(コハダの稚魚)も出てくるので楽しみしかないです……!」
「ただ、シンコはコハダよりももっと小さいから仕込みが大変なんです(笑)」
「そうだったんですね……!これからはもっとありがたくいただきます!」
鮨職人は器用さが求められるんですね。
初代の大将は職人肌で、言葉通り「背中を見て覚えろ」精神の方だったのだとか。技を盗み、自分流に昇華し、今の状態があるんですね。すごい……!
マグロ:今日はアイルランド産!良いものを安く、いろいろな産地から仕入れる
みんな大好きマグロ!
マグロはこの段階で5日ほど寝かせています。
ヅケにするには湯霜(熱湯にさっと通すこと)をし、秘伝のタレに漬け込んでいきます。水分が多めの時は水分が逃げないように、少し漬ける時間を調整するのだそう。
「今日のマグロはアイルランドの本マグロ!実は、マグロの有名漁獲地でもある青森県・大間と緯度がほぼ同じだから、美味しいマグロが獲れるんです!」
ほ~、なるほど。アイルランドのマグロ、期待大です!
「魚も天候や時期によって値段が変わってくるので、なるべく美味しくて良いものを、お安く提供できるように色々な産地のものを扱ってるんです」
天候や時期で値段が変わるのに、お客様へ提供する価格は変えていないのだとか。
大将、人が良すぎる!
玉子:甘さひかえめ、おつまみにもなる味わい
そして最後に玉(ぎょく)!
「うちのはいわゆるスイーツのようなカステラじゃなくて、昔ながらの玉です。卵を10個使って丁寧に焼き上げてますよ!」
スイーツのような玉も大好きなんだけど、こういう甘さ控え目のお酒のつまみになる玉、最高です!
ザザザッと紹介しただけでもかなりの量になりましたが、大國鮨では通常30種類はネタを扱っているとかで、つまり30種類全部のネタを仕込まなければいけない!
本当に全部を見せようと思うとかなりの時間になるのでこの辺で割愛。
というか、早く食べたくて仕方なくなってしまったのでこの辺で食していきましょう!笑
丁寧に仕事された鮨たちはやはり絶品だった…!
コハダ~~!待ってました!青ゆずを仕込ませてあるおかげで香りが爽やか、そして締め具合が抜群です!
締めすぎて水分が飛んでしまったコハダほど悲しいものはありませんからね……。泣
この日、一番驚いたスズキ(腹側)!
スズキって地味な魚だなあと思ってたのですが、もう完全に撤回!こんなに美味しいスズキ初めて食べました。旨味と程よい脂がたまらん!
石かけ貝にとり貝!
石かけ貝はほっき貝の代用としてもよく使われているのだとか。
とり貝は有無を言わさずフルーティーな美味しさ。新鮮じゃないとこのフルーティーさは楽しめません!
……からの、あおやぎ!貝3連発!
通常は火入れをしているところが多いですが、こちらでは生の状態でいただけます!ふわっとした食感がクセになる~!
いったん鮨から離れますが、このお店の大好きなところの一つが、日本酒の品揃えが超豊富なところ!
しかも、それぞれ30ccずつくらい試飲をさせていただけるという謎システム……!もはや試飲だけでも酔っ払ってしまうのでは?という気前の良さなんです。
良いの!?本当に?と毎回思っています。
お酒を選んでくれるお兄さんもアットホームで心優しく迎えてくれて本当に素敵なんですよ……。
マグロのヅケ!
アイルランドの本マグロは初体験でしたが、大間のマグロと遜色なしの抜群の美味しさ!
白焼きの方にはウニがのってる……!食べやすいよう半分に切り分けてくれており、その半分ずつのトッピングが違うという憎らしい演出。
こちらはアワビ!
なんとトリュフ塩がかかってます……!柔らかすぎず硬すぎず、程よい塩梅で煮てあるアワビは口に入れると旨味が広がります。
「うちは大衆的な街寿司なんで……」
と口癖のように謙遜する大将。いやこれ、街寿司のレベルを超えてるでしょ……!
最後に玉をいただいてごちそうさまでした……!
相変わらず最高のお鮨を堪能し大満足。いつもは何も考えずにパクパクと食べているお鮨たちも、実はこんなに一つ一つ手間がかかっていたんだと改めて知ることができました。
お鮨屋さんがオープンして、お鮨が皆さんのお口に入る前から、これだけたくさんの手間がかかっているんですね。そりゃあお高くなるわけだ……。
結論「鮨が高いのは仕方ない!!!!!」
しかし、こちらの大國鮨さんでは前述通り食べて飲んで私は2万いったことがないというリーズナブルさなのです(ちなみに、私はかなり飲むほうです)。
大将、値上げしてもバチは当たらないのでは!?
大國鮨は新井薬師前から徒歩5分
西武新宿線 新井薬師前駅から徒歩5分ほどの場所に位置する「大國鮨」。
建物自体は70年という歴史を感じる佇まい。
カウンターとテーブル、小上がりと17席ほどの広さですが、いつもお客様であふれています。
同店では大将のおまかせコースでの食事のほか、アラカルトで好きなものを食べることもできますよ。
サクッと握りだけ、つまみだけなんて使い勝手の良さも人気の秘訣です。
昼からやってるのも嬉しいところ。本当にいつ寝てるんでしょうか……。
接客をするお母さんの人柄もとても素敵で、なんだか実家に帰ってきたかのような温かい気持ちになれる大好きなお店です!
ぜひ皆様も足を運んでみてくださいね。ちょこちょこ私も飲んでるはずです!
紹介したお店
営業時間:12:00~23:00
定休日:水曜
著者プロフィール
河瀬璃菜 りな助(料理研究家・フードコーディネーター)
1988年5月8日生まれ。福岡県出身。
レシピ開発、商品開発、食の企画やコンサル、レシピ動画制作、企画執筆、編集、イベントメディア出演、料理教室など食に纏わる様々な活動をしている。
SONY XperiaのCMやKIRIN本麒麟の広告への出演などその活動は多岐にわたる。
近年では地方を元気にするための6次化商品の開発に力を入れている。
著書「ジャーではじめるデトックスウォーター」「決定版節約冷凍レシピ」「発酵いらずのちぎりパン」 など
Blog: http://lineblog.me/linakawase/
Twitter:https://twitter.com/linasuke0508