— 橋本サキ(AM編集部) (@sushitabetai_hs) 2019年2月22日
こんにちは。ライターの斎藤充博です。
先日ツイッターで「生まれて一度もそばを食べたことのない28歳女性」を発見しました。しかもその人がそばを食べたがっているのです。そばを食べたことのない大人が、初めてそばを食べる様子、それは絶対見てみたい。
それなんかの企画にさせてください!!!!
— 斎藤充博 (@3216) 2019年2月22日
僕は取材申請のリプライを返して、みんなのごはん編集部にも企画を提案しました。両方ともOK。
よって、今から「大人が初めてそばを食べるところ」に立ち会います!
下北沢のおしゃれそば居酒屋
会場は下北沢の居酒屋ソバマエ酒場 CAZILO (カジロ)。ちょっとおしゃれなそば居酒屋さんです。
料理人の竹川さんは少々不安な様子。
なぜなら、生まれて初めてそばを食べた人が「おいしくない」という可能性があるからです。この撮影を受けてくれただけでも太っ腹。超感謝しております。
生まれて初めてそばを食べる橋本さん
こちらが生まれて初めてそばを食べる橋本サキさん。大阪市住吉区出身の28歳。現在は都内でAMという女性向けWebメディア編集の仕事をしています。
「そばを一度も食べたことがないというのは本当ですか?」
「本当です。兄がそばアレルギーで、実家でそばが出なかったんです。自分もそばアレルギーなんだろうと思っていました。でも最近健康診断を受けたら、そばアレルギーがないことがわかったんですよ。それで食べてみようかなと……」
「そばってどんな味だと想像していますか?」
「基本はきっとそうめんみたいな感じだと思うんですよ」
「まあ基本的には似ているかも……」
「でも食感はそうめんとはちょっと違うのではないかと思います。きっと『焼きそばみたい』に『弾力がある』んだろうと思っています」
「焼きそば……。なるほど。あれも『そば』という名前ですもんね……」
「味はちょっと苦みがあるのではないかと。抹茶みたいな感じです」
「抹茶か……。まあ色合いは近いですよね」
「これ、違うんですか?」
「正直全然違いますね……」
突拍子もないようですが、橋本さんの予想は論理的です。そばって、食べ方はそうめんに近い。名前は「やきそば」に近い。色は抹茶に近い。そこから導き出しているのでしょう。
でも全然違うんだよな~。これが未体験ということか。
そばってどんな味の食べ物?
そばメニューを興味深げに見る橋本さん。ところで、僕にちょっとした疑問が生まれました。
「そもそも僕らも『そば』がどんな食べ物かを言葉で説明できなくないですか?」
「うーん。そば……。そばって味も重要ですが、香りを重視する食べ物ですよね」
「確かにそうですね」
「香り? みんなクンクンしながら食べるんですか? そばってそういう食べ物なんですか」
「いや。そばはクンクンしなくてもいいんです。そばを食べることによって、自然に香り入がってくるんですよ」
「みなさんむずかしいことをしているんですね」
いや、全然むずかしくないです。でも改めて言われてみるとむずかしいな。なんだろうこれ。
「そばの香りを言葉で伝えるとしたら、どう言ったらいいでしょうね?」
「それはむずかしいですよね……」
ここでカウンターにいた白いTシャツのお客さんが会話に加わってきました。
「さっきから話を聞いているんですが、僕はそばの香りは『藁』に近いんじゃないかと思っています」
「藁……? たしかに藁って香りはしますが……」
「そう。僕が思うに、そばは『おいしい藁』なんですよ」
「『おいしい藁って』わけわかんないな~~~」
「みなさんのお話を聞いていたらだんだんと、そばの想像がついてきましたね!」
「いや、橋本さんは絶対にわかっていないと思いますよ!」
この時はお客さんの言葉を一旦否定したのですが、あとでよく考えてみると、あながち遠くもないような気もしてきました。そばっておいしい藁かも。
そばを食べたことのない人の食生活
そばについて考えていたら、なんだかわからなくなってきたので、橋本さんにもうちょっと話を聞いてみます。
「ちなみに、橋本さんはうどんは好きですか?」
「うどんは普通に好きです」
「うどんを食べたことがあって、そばを食べたことがないのか……」
「そばアレルギーだと思っていたんですよね。でも、うどんとそばを同じ釜でゆでる店でうどんを食べていたんですよ。それで『ひょっとしたらそばアレルギーじゃないのかも』って思って。健康診断の時に調べてみました。そうしたら特にそばアレルギーじゃなかったという話です」
「なるほど」
「あの、そんなにそばを食べたことがないってめずらしいですかね? 前に『宇多田ヒカルは鯛焼きを食べたことがない』って話を聞いたことがあって。それと同じかなーと思ったんですが」
「同じではないですよね? 宇多田ヒカルの話は宇多田ヒカルありきですよ……」
「今までの人生で年越しそばを食べる機会ってなかったんですか?」
「なかったですね。実家ではそばを見たことがなかった」
「『時そば』っていう落語は聞いたことありますか?」
「それなんですか?」
緊張感に包まれつつそばが来る
……あらかた聞くこと聞いたな。 それではそばを食べてもらいましょう。注文したのはせいろそば(小)。
実は、少しずつこの空間全体が妙な緊張感に包まれてきています。というのも、橋本さんは「かなりハッキリ正直に物を言う人だな」というのがわかってきたから。
そばを食べて「おいしくない」という可能性が高いな、とこの場にいるみんなが思っているわけです。
ついに来た。せいろそばの小盛り(630円)北海道産のそば粉を使った二八そばです。
そばについて考えすぎたせいで、僕はもうそばがそばに見えなくなってきています(ゲシュタルト崩壊みたいな感じ)
記念に写真を撮る橋本さん。
匂いをかぐ橋本さん。未知の食べ物と対面して匂いをかぐのは、人間が獣だったときの本能かもしれない。
「べつに匂いはしないですね」
「基本的に冷たい食べ物って匂いはそんなにしないですよね」
「なんか食べるのが恐いな~」
「こっちも恐いです!」
橋本さんがそばに初めて口をつけました。
「これは……」
「固いそうめんみたいですね」
ここで居酒屋全体がが爆笑に包まれました。今までそばを食べたことのない人にとって、そばって「固いそうめん」に感じられるのか!
「そうなりますか(笑)」
「ものすごく納得しました(笑)」
「なるほどね(笑)」
「大丈夫でしょうか? この感想使えますか?」
「いや、最高だと思います! ほとんど感動しています」
「思っていたのと全然違いますね……。これ、こんなに固くていいんでしょうか? なんというか、麺に芯が残っているように思えます。そんなことを言ったら失礼ですか?」
「これはせいろそばの標準的な固さですね。これよりもやわらかかったら『のびている』ってクレームが来ます」
「そうめん」や「うどん」を想定していると、そばってちょっと固いですよね。たしかに初めてだったらビックリするかも。
「やきそばとは全然違うんですね!」
「やきそばの麺は、そば粉が入っていませんし、かん水が入っていますから……。違いますよね」
「初めてのそばはどうでしょう? おいしいか、おいしくないかでいうと?」
「うーん。おいしかったですよ。でも、なんか、想像と違いすぎて……」
初めてのそば、おいしかったそうです。よかった!
念のため申し添えておきますが、そばが好きな僕が食べてもおいしいそばでしたよ!
謎の儀式「そば湯」
「そば湯をどうぞ」
「これはなんですか?」
「『そば湯』といって、そばをゆでた残り汁ですね。これをつゆとまぜて飲むんです」
「なんでそんなことするんですか? おいしいんですか?」
「なんでそんなことするんでしょうね? 僕もわかりません。おいしいかといわれると、微妙かもしれません」
「謎の儀式ですか?」
「謎の儀式ではない」
「昔から、そばのゆで汁は健康にいいって思われてきたんです。実際にそばにふくまれる『ルチン』という栄養素がゆで汁に溶けています」
「そば湯はどのくらい入れればいいんでしょう?」
「これは特においしさを求めるものではないので、適当でいいと思います」
飲んで首をかしげる橋本さん。そばは「おいしい」と言ってもらえたのですが、そば湯はまだちょっと早かったかもしれませんね。
そばって本当にふしぎな食べ物
「竹川さん的には、橋本さんの反応はどうでしたか?」
「まず『おいしくない』って言われなくてよかったです」
「確かに。それは本当によかった……。ただ、ちょっと微妙な感じではありましたが……」
「初めてならあんな感じではないかなと思います。僕も小さい頃はそばが好きじゃなくて、うどん派でしたからね。」
「僕もそうでした。幼児期に食べて嫌いになって、小学校高学年くらいになるまで食べなかった気がします。」
「嫌いでないのなら、きっとまたどこかでそばを食べてもらえる可能性があるってことです。それなら食べていくうちに、だんだんとそばが好きになってくれるんじゃないですかね。僕はそうでした」
「僕もそうですね。だんだんと好きになるものという気がする。それきっと、そばを好きな人がみんな通ってきた道かもしれないですね」
食べた物
最後に今日食べた物を紹介します。ここから急にふつうのグルメ記事になります。
春菊とパルミジャーノの和サラダ(780円)。春菊と粉チーズの取り合わせが超うまいです。
砂肝とマッシュルームのアヒージョ(780円)。おつまみはイタリアン系が充実しています。ワインを飲んでもいいし、ビールも進む。
イタリアン系が充実している、とさっき書きましたが、そば出汁入り玉子焼き(480円)、なんてものもあります。そば屋に来た以上は出汁入りメニュー食べないと損ですね。
厚切りポークジンジャー(1280円)。見てください。火の通り方が完璧。そば屋さんではなかなか満たしにくい肉需要にも完璧に応えてくれます。
そば以外にもメッチャ食べていましたね。「そば前酒場」と言うだけあって酒のおつまみも充実しています。
みんなも「そば前酒場CAZILO」でそばを食べながらそばについて深く考えてみましょう。
紹介したお店
取材協力
橋本サキ