ライター、医者、大工、サッカー選手、世の中には数え切れないほどの職業が存在するが、どの職業においても飲み会は欠かせないコミュケーションなのではないだろうか。そこで気になるのが、その飲み会ではどんな会話で盛り上がっているのか、ということ。
というわけで、今回はあらゆる職業の中でも、最も修羅場との遭遇率が高いといわれているエンジニアの飲み会に参加してみることにした。
彼らが飲み会の中で語った、「人間は信用できない。機械しか信用できない」という言葉の真意とは・・・?
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今回潜入したのは、エンジニアの飲み会である。
筆者(小野)の主観では『多忙』『激務』といったイメージが強いが、果たして飲み会ではどんな会話が繰り広げられるのだろうか。
今回潜入したのは、この3名の敏腕エンジニアたちの飲み会。
左から事情により顔と名前は明かせないKさん、櫻井さん、安藤さんのお三方。
元々、安藤さんが立ち上げたシステム会社でバリバリのエンジニアとして働いた経験を持つ3名だ。また、これまでにJavaScriptやPHPに関する書籍を多数出版するほどの凄腕エンジニア達でもある。なお、現在ではKさんのみエンジニアを続けており、お二方は別の仕事に回っているそうだ。
ちなみに、今回の居酒屋は大田区蒲田にある『千代の追風』。厳選した海鮮や京都から取り寄せた京野菜など、四季折々の食材にこだわる海鮮料理屋だ。
それでは、さっそく「エンジニアの飲み会」に潜入してみよう。
「そもそも、小野さん(筆者)はエンジニアにどんなイメージをお持ちですか?」
小野「やはり、多忙というか激務というか。昼夜関係なく、ずっとパソコンの前でキーボードを叩いているイメージですね」
「なるほど。たしかに当時はほとんど会社のデスクにいたし、めちゃくちゃ床で寝てましたね」
櫻井さん「覚えているのは、とある会社さんから『3日後にソースコードを凍結させるから、それまでに作って』みたいな要望があった時。みんなで徹夜しつつ、各々が1時間くらい仮眠して、また仕事に戻るっていう日がありましたね。いや、そんなのしょっちゅうだったか(笑)」
安藤さん「寝袋持参は鉄板だったよね。でも、当時は俺らも若かったし、みんな仕事が好きだったから、強制というよりは好んでずっと仕事してたよね」
「Kさんが疲れてくると、だいたいイントネーションでわかってくるんですよね」
「ぼそぼそ言う感じでしょ? 『うぅん』とか『はぁい』とか」
「エンジニアなんでね(笑)」
「でも、体はきつかったけど不思議と心はきつくなかったんですよね」
小野「そんな生活で身体は壊さなかったですか?」
「あれ? 一回、安藤さん死にかけませんでしたっけ?」
「死にかけた(笑)」
小野「なにがあったんですか?」
「僕らの一番のストレスって、納期が守れないことなんですよ」
小野「なるほど」
「ある時に某会社さんから数千万円のシステム開発を頼まれたことがあってね。製作期間は1年あったんだけど、どうやってもリリース月に間に合わなかったんです。そしたら、報告会議に向かう途中に心筋梗塞で5分間、心臓が止まっちゃったんだよね(笑)」
小野「!?」
「今は大丈夫だけど、あの時は『心臓が若干壊死してる』って言われたね。だから、今も俺の心臓にはステントが2個入ってるんだよ」
小野「心筋梗塞って、出産と同じくらい痛いらしいですよね。辛そう」
「それで、倒れた後に謝りに行くじゃないですか? 結果的には許してくれたんだけど、最後に『でも、ビジネスですからね』って言ってきたんですよ、クライアント側が。……厳しいですよね。とにかくエンジニアにとって、納期を守れないのは人が1人死ぬくらいシビアってことです」
「僕も三回くらい死にかけましたね。でも、サイヤ人タイプなので死にかける度に強くなっていると思っています(笑)」
「あの頃は血圧がハンパなかったな。電気屋さんって血圧が測れるじゃないですか? そしたら最初の血圧計で190が出て(笑)。今度は別の血圧計で測ったら200。怖くて、また別の血圧計で測ったら220。すぐ病院いきましたよ」
「エンジニアって食事や睡眠が疎かになりがちだもん。そのせいか、エンジニアと飲むと、みんな不健康自慢を武勇伝っぽく語るよね」
仕事も息抜きもプログラミング!?
小野「それだけ仕事にストイックだと、息抜きが重要になってくるんじゃないですか?」
「個々で息抜き方法は持ってましたよね? 安藤さんは音楽系。ギターを弾いたり、ニコ動の“弾いてみたシリーズ”とか見て『これ、すごくね!?』ってよく呼ばれてましたから。仕事しろって思ってました(笑)」
「Kくんは、趣味もプログラミングだったよね? 仕事と関係ないソフトを作っては遊んでた印象」
「夜中、Kさんに呼ばれてパソコンのブラウザを覗き込んだら、ドラクエやってたんですよ。『どうしたんですか、これ?』って聞いたら『作った』って笑顔で答えるんですよ。その時も仕事しろって思いました(笑)」
小野「ドラクエって仕事の合間に作れるもんなんですね」
「いや、仕事の時間にも作ってましたね(笑)」
「言うても一番プログラムかける人でしたもんね。なにより『※Seezoo(シーズー)』を作ったのは驚きでした。多分、あの時代のKさんの技術って頂点だったと思いますよ」
小野「Seezoo??」
「『concrete5』というCMSがあったんだけど、それを見た後に『これだったら俺の方が快適なものが作れる』と言って作ったCMSです」
「実は、ある大企業さんからSeezooを使いたいって依頼が来たこともあったんだよ。でも、その時にKくんが会社を辞めてたから……」
「え〜めっちゃ嬉しいですね」
小野「なんでシーズーって言うんですか?」
「僕が飼ってた犬種から取りました」
小野「そんな感じなんですね(笑)」
「まだ、どこかで使われてるんじゃないかな?」
「いまだに僕のブログでは使ってますよ。当時は最先端だったけど、今じゃさすがに古くてGoogle Chromeでは動かないかな」
※Seezoo…国産オープンソースのCMS(現在は非公開)
小野「無知で申し訳ないんですが、使われるブラウザが変わるとそんなに大変なんですか?」
「めちゃくちゃ大変です! それぞれのブラウザに合わせて全部書かないといけないですから」
「あの頃はEdgeやChromeもまだまだで、FirefoxとInternet Explorer(IE)の全盛期。それでSeezooには、IE6、IE7、IE8が全対応するように書いていましたからね」
「今は楽になったよな。モダンブラウザとIE11とベンダープレフィックスだけだからね」
「そう考えると、昔のエンジニアの苦労って尋常じゃなかったなって、しみじみ思っちゃいますよね」
人間は信用できない。機械しか信用できない
小野「Kさんは、昔からプログラミングが好きだったんですか?」
「僕は大学卒業後、自動車の営業をしていました。その後もイタリア料理店で調理をやったり、地図の調査をしたり、紆余曲折で。だからエンジニアになったのはわりと遅めですね」
「営業経験があったからね。この業界にはなかなかいない、話の通じるエンジニアでしたよ(笑)」
小野「エンジニアってどんな方が多いんですか?」
「頭おかしい人が多いと思っています(笑)。マイペースというかオタク気質というか。基本的にエンジニアと営業って全く噛み合わないんですよ」
「だから、話せるエンジニアが貴重だったんだよね。要はBtoCでやっていると、システムに慣れている人って少ないじゃないですか? ほぼトラブルばかりでした。そんな時にディレクターみたく、お客さんとの接し方に慣れていたり、話を聞き出す能力が高いと評価されるんですよ」
「でも、そんなKさんが『人間は信用できない。機械しか信用できない』って言っていたのを覚えてますよ」
「そんなこと言いました??」
「『機械はちゃんとプログラミングすれば、ちゃんと答えを返してくれる。だけど、人間ってそこまで正しく返ってこない。それに、機械はここがバグってますって絶対に教えてくれる』とかって力説してましたよ(笑)」
「その時からコンピューターの中で生きる道を見つけたんでしょうね」
「ごめんね、あの頃にディープな話を聞けてあげれなくて……(笑)」
日本は「カウボーイ」が生きづらい
小野「ほかにエンジニア同士ならではの話題ってありますか?」
「最近よく使う言語の話をすると、僕はLuaを使ってるんですよ。ゲーム構造とかでよく使われる言語なんですけど、移植性が高くて……」
小野「すみません、専門的すぎてわかりません。本当に申し訳ないのですが、最近になって『Java』と『JavaScript』が違う言語だって知ったレベルなんですよね……」
「それは色んなエンジニアから殴られるパターンですよ(笑)。プライドありますからね、かなりタブーな発言です」
「メロンとメロンパンくらい違います」
小野「恐縮です。では、言語以外の話題でお願いします」
「〇〇会社はどういう技術を使っているのか、などの情報交換はしますね。あとは、組織においてのエンジニアの立ち位置」
「我々の業界で、ワンマンプレイする人を『カウボーイ』って言うんですよ。スキルがずば抜けて高い分、チームと連携しない人。組織的にみたら、和を乱すってことで良くないんだけど、個人的にはカウボーイ、全然良いと思ってる」
「昔は目立ってナンボでしたけどね。でも、全体で見た時に1人だけ目立っていると、その人を特別扱いしないといけないから面倒くさいんでしょうね」
「それは日本の良くないところだと思います。国によって立ち位置は違いますし。海外だったら『スターエンジニア』と呼ばれ、尊敬されていますからね」
「開発会社がカウボーイ潰ししてるからね。コーディングルールを守り、Git Hookにひっかかれば怒られる。無機質で冷たい感じだと思うんだけどな〜」
「組織が追いついてないんでしょう。結局、コードレビューを誰がするの?って話ですもんね。オープンソースの世界であれば、勝手にコードレビューしてくれますから」
小野「初歩的な質問なんですけど、エンジニアの凄さってどういうところで判断されるんですか?」
「『凄い』にも色々ありますよね。例えば、〇〇を作ろうって考えた時に、自分だったら3ヶ月かかるなって判断したものを1〜2週間で作る凄さもあります。ほかにも、どうやって動かしてるんだろうってパッと見ただけではイメージできない凄さもありますよ」
これから見据える、エンジニア後の夢
「あと、毎回話すことがあるんだよね」
小野「なんですか??」
「定年したら、海の近くにプログラマーハウスを作りたいんですって話。プログラミング好きな子どもや登校拒否になった子どもとかを集めたいんです。理想は平屋で、泊まり込み自由にしてね」
「今、キッズのプログラミング教室は右肩上がりですからね。小学校の頃から教える話にもなってますよ」
「僕はこれからも徹底的にコードを書いていたいですね。年齢的にはマネージャーに回らないといけないんでしょうけど、死ぬまで書いていたいんですよね」
「エンジニアは寿命が短いって言われているのに凄いですよ。いまだに第一線でやり続けているのは」
小野「そこまで惹き付けられる一番の魅力は何ですか?」
「やっぱり、人に使ってもらうものを自分たちで作り上げるっていうのは気持ちいいです。結局、良いか悪いかの評価は僕らの採用する技術1つで決める部分も多くて。その緊張感がたまらないんです。僕らがサボったら絶対に良くないものが生まれる。それって見た目にはわからないですけど、僕らが見たら一発でわかるんですよ。だからこそ、人に任せず自分で書き続けたいんですよね」
小野「素晴らしい金言をありがとうございます。個人的にも、すごく刺激になりました」
というわけで、濃厚な話だらけだったエンジニア飲み会。正直、聞きなれない単語も飛び交ったが、知らない世界の苦労話や仕事哲学はとてもおもしろかった。心臓が止まった話はさすがに驚いたが、そんなハードな過去も明るく話す安藤さんは男前だった。畑は違えど、同じ「書く仕事」をしているライターとして、大いに刺激をもらった気がする。今度はまた違うシゴト人の飲み会にも参加してみたい。
【紹介したお店】
千代の追風
TEL:03-3737-1221
営業時間:月~金17:00~23:00/土・祝日17:00~23:00
定休日:日曜日
HP: https://r.gnavi.co.jp/5418taya0000/
【プロフィール】
小野洋平(やじろべえ)
1991年生まれ。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服が作れず、ライター・編集者を志す。自身のサイト、小野便利屋も運営。