魚の鮮度はもちろん、腕利きの料理人もたくさんいる福岡の街。先日、「魚料理が苦手な人にぜひ食べてほしい!」と声を大にして言いたくなるような、料理人の技が光るおいしい煮魚料理の店を見つけました。
そのお店とは、福岡市博多区住吉にある「食堂 煮魚少年」です。
九州の玄関口・博多駅から徒歩圏内。大相撲九州場所で横綱の奉納土俵入りが行われることでも知られる住吉神社と、人気商業施設・キャナルシティ博多を結ぶ、「オーケストラ通り」と呼ばれるストリート沿いにあります。
店内は、カフェを思わせる明るくカジュアルなデザイン。
テーブル席のほかにカウンター席もあり、一人でも気軽に利用できそうな居心地の良さを感じました。
この店を切り盛りされている、和食一筋25年の料理人・田中亮さんです。
「祖父母が営んでいた定食屋のような店を持ちたい」と、調理師専門学校を卒業。福岡にある割烹などの日本料理店で腕を磨きました。
子どものころは、“煮魚が嫌いな少年”だったという田中さん。修業先の日本料理店で正しい煮魚の作り方を教えてもらうと同時に、そのおいしさを知ります。
「自分のように魚が苦手な子どもが、おいしい煮魚を食べて大好きになってほしい」
その思いが店のコンセプトになり、この「食堂 煮魚少年」の開店へと至りました。
看板などに描かれる少年のイラストにも、その思いが込められています。少年が左手に持っているのは魚、頭に乗せているのは木の芽なのだそう。店の“ほっこり感”もじわ~っと伝わってきます。
余談ですが、田中さんに和食の技術を教えた師匠は、以前私に丸天の奥深さを教えてくれた「丸天うどん専門店 万平」のオーナーシェフ・平井秀一さんであることを、この日初めて知りました。
思いがけない出会いに、「福岡って狭いな~」とつくづく感じます(笑)。
さて、この店の一番の特徴は、煮付け、おろし煮、アラ炊き、甘酢煮と、多彩な調理法で煮魚料理を楽しめるところにあります。
雑味や臭みをとるための当て塩や、煮汁の旨味を逃がさないようにするための霜降りなど、和食料理人らしく魚の下処理は丁寧。三枚おろしにして骨を抜くなど、おいしさだけでなく、食べやすさにもこだわります。
食材は、目利きの確かな仲買人が長浜鮮魚市場などから仕入れるものから厳選。その時期の旬の魚を、一番おいしく味わえる調理法で提供しています。
お店を訪問した日のメニューです。定食は、昼夜問わず注文OK。その日の気分や懐具合にあわせて、好きな料理を組み合わせることができます。
まずは、「本日の煮魚」からメインを1品チョイス。ご飯と味噌汁を組み合わせるならAセットを、もう少し食べたいという人は小鉢付きのBセットを、満腹になりたいという人は小さなおかず付きのWセットを選びましょう。
骨までやわらかく食べれる料理や骨が抜いてある料理には、メニュー名の頭に「骨なし」のマークが付いています。
小さな子ども連れのお母さんや魚の骨をとるのが面倒という人に喜ばれる、田中さんのこうした気配りも魅力。単品注文も可能で、仕事帰りにおいしい煮魚をつまみながら、ビール・日本酒・焼酎などをチョイ飲みで楽しむことだってできます。
\店のこだわりをひと通り楽しむならこの定食!/
今回は、Bセットの定食を注文しました。メインの煮魚は、看板メニューである「鯖の煮込み」から醤油と味噌の輪切りが1切れずつ楽しめるSサイズをチョイス。小鉢は、毎日豆乳ににがりを入れて固めているという「手づくりとうふ」にしました。
赤いフタの瓶には、博多ラーメン店でよく見かける、九州ではポピュラーな郷土料理の「高菜の油炒め」が入っていました。こちらは、A・B・Wのいずれのセットにも付いています。
これらにご飯と味噌汁を加えて、料金は全部で880円。ちょっとお得感があってバランスも抜群なので、「もし、家や会社近くにこの店があったら、間違いなくリピートしているだろうな~」と、感じました。
「鯖の煮込み」のおいしさの決め手となるのは、血抜き、湯通しなど下処理を施した後に行う鍋での工程にあります。
煮込みは、煮崩れを起こさないよう火加減に気をつけて、骨がホロホロとやわらかくなるまでコトコトと煮続けるところがポイント。火を止めて寝かせるのは、身全体に煮汁を染み込ませるためです。これを繰り返して、丸2日をかけて仕上げていきます。
じっくりと煮汁が染み込んだ鯖は照りがあって、身はふっくらとやわらか。タレは甘辛く、ご飯がどんどんと進みます。
骨まで食べられるので、魚が苦手な人はもちろん、小さな子どもや年配者にもピッタリ。この煮魚にハマって、リピートする客が多いというのも納得のおいしさでした。
「魚と調味料が風味を高めあうように」と、調味料にもこだわります。
醤油は、田中さんの出身地・福岡県糟屋郡宇美町にある「マルト醤油」の特注品。煮魚専門店をオープンさせるにあたり、田中さんのイメージにあわせて配合してもらったというオリジナルです。少し甘めで色が濃く、魚の照りが出やすいように仕上げられています。
味噌煮込みには、九州産の100%麦味噌を使用。照りよく、ふっくらと上品な甘さに仕上げるため、みりんではなく熊本県の料理酒「赤酒」を使うところもポイントだそうです。
卓上には、山椒粉と山椒七味、七味唐辛子が用意されています。味の変化を楽しみたい時は、これらをどうぞ。
お客さんの多くは、「余らせるのがもったいない」と煮汁をご飯にかけて最後の一滴まで楽しむということを知り、私もやってみました♪
ご飯は1杯までならお代わりOK。煮汁だけをとっておいて、食事の締めでご飯をお代わりするのも“アリ”ですね。
ご飯は、島根のつや姫や広島のこしひかりなど、4種のお米を月替わりで用意。この日は、やわらかくて風味がよく、粘り気が強いとされる「大分県産のひとめぼれ」でした。
味噌汁の具材も毎月変わります。味噌は自家製で、米味噌と麦味噌の2種で製造。無添加で熟成させているため、時期によって風味や色が変わるところも楽しみ方のポイントなんだそうです。
この日は、熟成期間3ヵ月の味噌を使った「白菜とチンゲン菜と油揚げの味噌汁」でした。お米の産地や味噌汁の具は店内の貼り紙で、味噌の熟成期間はメニューで紹介されていますので、店を訪れた際はぜひそちらもチェックしてみてくださいね。
一般の魚料理店ではあまり見かけないということもあり、一年中楽しめるという「シャケの甘酢煮タルタルソース」(890円)も、単品で注文してみました。
ふっくらで香ばしさもあるサケの甘酢煮は、手作りタルタルソースと好相性。メニューに「骨なし」マークが付いていたこともあり、食べやすく、濃厚な旨味にこちらもどんどんご飯が進みました。
お皿は、田中さんの好みで波佐見焼が使われています。温かな感じなのに料理映えして、センスもいいなって思いました。
「春はサクラダイやサワラ、メバル、夏はイワシやアラカブと、今後も旬の魚を使った煮魚料理が登場します!」と、今後の展開について教えてくださった田中さん。「カレーも煮込み料理だから」と、いつかは“サバカレー”にも挑戦したいそうです。
博多駅周辺を訪れた際は、店主の丁寧な技と多彩な調理法でおいしい煮魚料理が楽しめるアットホームな定食屋さんへ、皆さんもぜひ足を延ばしてみてくださいね。
紹介したお店
営業時間:092-291-3337
定休日:不定休(お店のホームページを参照)
ホームページ:http://nizakanasyounen.com/
書いた人
ニシダタケシ
福岡・九州の編集プロダクション・シーアールに所属。生まれも育ちも福岡という生粋の九州男児。
流行りもの&甘いもの好きで、嫌いな食べ物はほとんどなし。「毎日完食!」をモットーに、小さなカラダで福岡のおいしいものを食べ歩きます。
憧れの人は出身校の大先輩・タモリさん。グルメレポではたま~にデカ盛りにも挑戦しますよ!