「現地で観戦すると、メチャクチャ迫力がある」
「寒い冬でも暖かい場所で観戦出来る」
「野球やサッカーという二大プロスポーツを猛追している」
そんなプロスポーツがあることを皆さんはご存知でしょうか?
そのスポーツとはバスケットボール。プロリーグであるBリーグ(ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ)は誕生以来、成長を続けているといいます。
その魅力を知るべく、現在東地区首位を走る千葉ジェッツふなばしのホームアリーナ「船橋アリーナ」へとやってきました。
千葉ジェッツふなばしは今年1月に天皇杯三連覇を達成。リーグ戦でも首位を快走しており、この日(取材日は1月30日)まで12連勝中という強豪チームです。「ブースター」と呼ばれる熱狂的なバスケットボールファンに支えられ観客動員数もリーグNo1。
そんな順風満帆に見えるジェッツですが、8年前、2011年の開幕戦の客席はガラガラの状態でした。運営資金にも行き詰まり、クラブは潰れる寸前だったそうです。
そんなジェッツを建て直したのが、現在のクラブの代表取締役社長である島田慎二さん。自らも起業をした経験を持つ島田さんはビジネス目線でクラブを徹底的に改革していきます。そして、時に所属リーグを変えるといった荒療治をまじえながらも2015-16年シーズンに観客動員日本一を達成しました。
今回は、島田さんにBリーグや千葉ジェッツふなばしの現状やスポーツクラブ経営についてお話をうかがいました。もちろん、おススメのアリーナグルメについて教えてもらいました!
当初は反発もあった"島田流"の改革
―現在、千葉ジェッツはプロスポーツクラブとして、どれぐらいの規模なのでしょうか?
昨年のジェッツの観客動員数は1試合平均5200人弱、売上は14億3千万ほどでした。
これは、屋内スポーツチームとしては日本一、つまり屋内スポーツチームで、最もお客さんを集めているチームがジェッツなんです。サッカーでいえばJ2の中位から下位ぐらいクラブと同程度の規模になりますね。
―島田社長は、スポーツクラブの代表でありながら、SNSやメディア上では「ビジネス色」を全面に押し出した言動をされていますね。就任当初は反発もあったのではないでしょうか。
スポーツクラブの運営には多数のステークホルダーがいます。
観客はもちろん、地元の経済界、商店街、自治体などと密接にかかわる必要がある。このように、ステークホルダーが多いにも関わらず、人的リソースが不足していれば、すべてとはうまく連携できませんし、期待に応えることもできません。期待に応えられなければ信用を失いますし、信用を失えば、スポンサーなどのお金もついてきません。
中途半端にやってできないのであればやらないほうがいい。ビジネスと割り切ってできることに集中した方がよい。なので、私は代表に就任した当初、連携できないものについては「すみません。今はお付き合いする余裕がありません」と取捨選択を行いました。
そうした私の手法に対して、最初は反発もありました。これまでの日本のスポーツ文化の中では異色でしたので、受け入れづらい部分もあったのでしょう。
それでも、やれることを確実にやって結果と収益を生み出し、その収益を人に投資して、人員を増やしてから、これまで「ごめんなさい」と言っていたステークホルダーと新たに連携していく形をとりました。こうしたやり方は、確かにビジネスライクかもしれませんが、結果として、信頼を勝ち得ることができたと思います。
―かつては「バスケ愛」「スポーツ愛」を理由にして、長時間労働が蔓延していたクラブ職員の働き方の改革にも取り組んだそうですね。
「スポーツ業界だから」「バスケが好きだから」「徹夜も深夜勤務もいとわない」「給料安くてもバスケ愛があれば我慢」…。
こうした考え方はスポーツ業界の悪しき慣習だと思っていました。こうした発想かえることをしないと、いくら口で「クラブ運営はビジネスだよ」といっても、意味がありません。そのため、「残業するな」「短い時間で生産性上げろ」「タバコ休憩禁止」「無駄な会議やめろ」「5分でももったいない」といったことを徹底的に言いました。
そうした取り組みの結果として、利益が出たら、それを社員に還元したんです。私は従業員に「短時間で結果を出して、利益がでれば自分たちに還元してくれるんだ」という感覚をとにかく早く持ってほしかった。すなわち、労使の信頼関係を早い段階で構築したかったんです。
運がよかったこともあり、1~2年で結果が出始めたので、従業員のモチベーションもあがり、よいサイクルに入ることができました。
一当初はやはり苦労したわけですね。
現在のような状況だと、「ジェッツはいいよね、強いから」「強いから客も入るし、客が入るからスポンサーもついて楽だよな」といったことを言われます。しかし、もともとは弱かったし、人も入ってなかったし、お金がなくて潰れそうだったんです。私はチームを強くしてから業績を上げたわけではありません。まず業績を上げて、その資金をチームに投資したから強くなった。
多くの方が勘違いしているのですが、順序が逆なんです。強ければ儲かるわけではなくて、儲けるためにチームを強くしなければいけない。これはニワトリ卵のような話なのですが、わかっていてもなかなか実現できていないチームも多いんです。
資金のない中で無理して高額な選手を獲得しても、ケガをして活躍できず、チームは勝てなくなってお客さんも入らない…といった事はスポーツ界ではよくあります。このように結果を急ぎ、無理をしてしまうと悪い方向にしかいかないので、しっかりと地に足をつけた経営をしなければならない。
逆に足元を固めていけばチーム強化もできるし、最悪勝てなくなったとしても、経営としてのリスクマネジメントができている状態を保つことができます。
チームの強さありきだと、勝てなくなったら顧客が離れてしまいます。そうならないためにも、とにかく経営をよくする。利益をあげて、その資金をチームだけではなく、社員にも還元する。社員のモチベーションがあがれば収益がでる。その収益をチームの補強に使う。そうすれば、営業もしやすくなって、社員の給料も上がる…。
このサイクルに、どこの入り口から入るか?という話なのですが、ジェッツは徹底的にビジネスから入ったわけです。
また、「ジェッツには富樫(※富樫勇樹。日本代表チームでもエースとして活躍する千葉ジェッツの司令塔)がいるからね」といったスター選手の存在を指摘されることもあります。確かに富樫ほどのスター性を持った選手、お客さんを呼べる選手はそれほどいませんから、その部分のアドバンテージはあるでしょう。
しかし、ジェッツが富樫を獲得できたのは、クラブの経営が良くなってきたからなんです。私は富樫と親しいですが、彼は別に私のことが好きだからジェッツにいるわけではありません。私のことを「この人は自分をプレーヤーとしてしっかり評価し、その評価にふさわしい年俸を払えるだけのチームを作ってくれる経営者だ」と信じてくれたから、入団してくれたし、今も在籍しているんです。
つまり、トップ選手になるほど、そうしたビジネスの部分をシビアに評価しているので、クラブとしてもそうした選手の思いに応えられるだけの環境を整えることが重要になってくるのです。
「映画館のような空間が好きな人」を徹底的に虜にする
―バスケ観戦は、サッカーや野球と比べると選手との距離が圧倒的に近いので迫力が凄いですね。
私のイメージでは、プロ野球観戦というのはお祭りなんです。つまり、楽しく話しながら見ていても大丈夫で、その場の雰囲気だけでも楽しんで帰ることができるタイプの娯楽です。それに対して、バスケはゲーム展開が早く、常に目が離せないので集中して観る必要のある、どちらかというと映画的な娯楽なのです。
なので、私はジェッツの再建に取り組む際に、この会場を映画館に見立てました。そして、観客が求めているものは、どんなものか考えました。スターの存在か?ポップコーンのような食べ物の美味しさか?予告編、つまり試合前ショーの面白さか?といった様々な要素に考えをめぐらせました。
そうやってヒット映画を生み出すプロデューサーの気分でこのクラブを作ってきました。だから全体的に映画っぽい作りになっています。なので、映画が好きな方ならバスケット観戦もきっと楽しんでもらえると思います。
逆に映画が好きではないという方は、関心を持ちづらいかもしれません。もちろんそういう方に来ていただきたいとは思いますが、我々が八方美人である必要もないと思っています。世の中には、野球観戦のようなお祭りの雰囲気が好きな人も美術館やディズニーランドが好きな人もいるでしょう。
そういう方々全員に好かれようとは思っていません。その代わり「映画が好きな人」「映画館のようなアリーナの空間が好きな人」を徹底的に虜にするようなバスケットであり、試合会場にできれば、それでいいと割り切っています。
確かに賛否両論はあります。しかし、仮に敵がいたとしても味方がしっかりいることが大切なんです。私たちのホームである千葉と船橋という都市だけでも150万人ぐらいの人口があります。その中からアリーナの収容人数である5000人ぐらいをひきつけられればいい。だからこそ、尖っていた方がよいのです。
これまでのスポーツクラブ運営は、味方を作るよりも敵を作らないという発想が優先されていました。しかし、ジェッツは逆にとがることで際立つという手法をとったのです。
座席から注文できる!行列知らずの「Putmenu」
―今年はアリーナグルメにも注力しているそうですね。
アリーナグルメについては、沢山お客様が入っているにも関わらず、昨年まで力を入れる事ができませんでした。出店協力してくださる業者さんにシンプルに場所貸しをしているだけといった状態だったんです。これは先程お話しした優先順位の問題で、まずはチームの魅力、演出の魅力、スタッフの教育を優先していた結果です。
しかし、そうした部分が充実してきたので、今年はこれまで手を付けていなかった飲食ブースの充実に注力しました。オリジナルのグルメや食材、商品に加えて、購入の仕方にもこだわりました。
一般的なスポーツ会場では、焼きそばやホットドックなどがお店ごとに売っていて、食べたいものを出している店に並ぶ形が多いと思います。
しかし、我々は、おそらく業界でも珍しい集中レジを導入しました。要は様々な種類の商品がどのレジでも買える。「並びなおすのがめんどうだから、買うのをやめよう」という人をなくして機会ロスを防ごうと考えたんです。
ところが、この方式を採用したところメチャクチャな行列ができてしまい、待ち時間が長くなってしまいました。開幕直後はクレームの嵐。その状態から味もさることながら、買いやすさにも踏み込んで改善を行いました。
クレームを受けて急遽展開した 「Putmenu」はさりげなく革命的だと思います。スマホから注文・決済もできるし、商品が完成したら受け取りに行けばいいので並ぶ必要もありません。
集中レジ導入当初はものすごい数のクレームがきましたが、その状態から2か月程度で「Putmenu」の導入、整備をしたので、「早く対応してくれた」「使ってみたら便利だった」という声を多くいただきました。やはり待ち時間がなくなるというのは大きいですよね。例え15分ぐらいでも待つのは嫌なものですし、味が変わらなくても時間が有効活用できるというのは非常に大きなポイントだと思います。
これに加えて来シーズンからコートサイドの高額チケットの人たち向けにデリバリーサービスの実施を検討しています。
マイナーをメジャーにするためにできることは全部やる
―島田社長はTwitterでの発信にも積極的ですね。
今日最も訴えたかったのはスポーツビジネスも普通のビジネスと何ら変わらないということ。他のビジネスで結果を出すメカニズムと同じ。つまり、この業界に挑戦して結果を出したいのなら、今の仕事で結果を出すことに拘ってほしいと思う。力をつければどこの業界でも何とでもなるから。
— 島田慎二 (@SHIMADASHINJI) 2019年2月17日
私は、試合会場における演出や試合そのものといったコンテンツ以外にも、クラブとしてのキャラクターを消費者にイメージさせることが重要だと考えています。
バスケットという競技は日本ではまだまだマイナーで歴史も浅いので、何らかの明確なイメージを消費者に伝えることができていない状態です。マイナーをメジャーにするためにできることは全部やろうと考えたときに、「ジェッツとは何か」というイメージを伝えていく必要があると考えました。
ジェッツのイメージ、それはすなわち「攻めていく」ということです。過去には所属リーグも変えましたし、そのほかにも「業界初」となるようなさまざまな取り組みを仕掛けてきました。つまり、「ジェッツは、チャレンジングで攻めている球団」というキャラ設定しているんです。
球団のキャラクターはトップのキャラクターでもあります。 球団はメチャクチャ攻めているのに、私が記者会見やSNSで弱気なことばかり言っていたら、消費者は「どっちだよ!」となってしまう。だからこそ、SNS上でも「俺らはバスケ界のトップランナーだから」という気概をもって、どんどんほかのスポーツ界に問題提起していく。
「生意気だ」なんて思われることもありますが、SNSはけっして私の暇つぶしでやっているわけではありません。「攻めているジェッツ」「攻めている球団社長」というキャラクターを演出している、つまり、クラブブランディングの一環なんです。「まーたジェッツがなんかやってるよ」なんて言われることもありますが、それは全部考えてやっているんですよ。
―最後におすすめのアリーナグルメを教えてください。
様々な業者が入っているので言いにくい部分もあるのですが(笑)。
一つ上げるとするなら「小松菜ハイボール」ですね。
船橋は小松菜が日本一の生産地なんです。だから、小松菜ハイボールは船橋では有名なんですよ。口の周りがちょっと緑になるんですけど飲んでほしいですね。
あとは選手プロデュースのグルメがあるので、そういったものも食べてほしいですね。食べ終わった後に、容器をそのままお弁当箱として使えたりするようにもなっていたりするので、そういったものを楽しんでもらいたいです。
◆ ◆ ◆ ◆
島田社長には、スポーツビジネスに関する、非常に有益なお話を聞かせていただきました。ジェッツの取り組みは、スポーツ界のみみならず、ビジネスシーン全般にも通じる部分がありそうです。
加えて、初めてのバスケ観戦は、会場の雰囲気、プレー内容、クラブのホスピタリティに圧倒され、印象的なものになりました。皆さんも実際に会場に行ってみると、既存のスポーツとは違った観戦体験を味わうことができると思います。ジェッツはもちろん、地元のバスケチームの動向をチェックしてみてくださいね。