“納豆はかき混ぜるほどにうまくなる”
美食家・北大路魯山人が残した名言、というかうまい納豆の食べ方である。
そんな、「魯山人の納豆」を再現できるアイテムがある。
開発したのは食品会社ではなく、おもちゃメーカーのタカラトミーアーツである。
その名も『究極のNTO(納豆)』。おもちゃメーカーがなぜ納豆なのか? 魯山人の納豆(以下、魯山人納豆)をいかに再現したのか? 本当に再現できているのか? もろもろのギモンを解決すべく、開発者のもとを訪ねた。
▲お話を伺ったのはタカラトミーの有賀さん(左)と村田さん(右)。
——なぜ、おもちゃメーカーなのに納豆マシンを作ったんですか?
「元々、弊社ではお菓子をおもしろおかしく食べる『(※)おかしなシリーズ』というクッキングトイを製造しており、様々なメーカーの定番商品とコラボしてきました。その一環でお菓子に限らず、身近な食材にも幅を広げてみようとなったのがきっかけです」
「“食をおもしろおかしく”というのは一通り展開してきたので、今度は“美味しさ”にも焦点を当てていきたいということですね。そこで『究極シリーズ』を立ち上げ、第一弾として『ふわしゅわの卵かけごはん』が作れる究極のTKGを発売するなど、おもちゃメーカーだからこその“美味しさ”と“ユーモア”を追求し始めました。NTOはTKGに続くシリーズ第二弾になります」
(※)おかしなシリーズ…ガリガリ君をかき氷にしたり、うまい棒をスティック状にできるシリーズ
——なぜ納豆にしたんですか?
「納豆は日本の代表的かつ身近な食材ですし、大豆の大きさ、かき混ぜる回数、トッピングなど人によって食べ方にこだわりがあるので面白いと思ったんです」
▲幻の人気商品「魯山人納豆鉢」
▲魯山人納豆鉢をリニューアルした「究極のNTO」。細かな改善とデザインの刷新が行われている。なお、上部は漆、ロゴは蒔絵をイメージしているとのこと
納豆をかき回しては食べ続け、ついに導き出した424回という答え
——これ、魯山人納豆を再現できるということなんですが、本当ですか? 誰も分からないと思って適当に言ってません?
「いえ、適当ではないですよ(笑)。とはいえ、おっしゃる通り実際に私たちも食べたことがあるわけではないので、まずは様々な文献やインターネットの情報を頼りに魯山人先生の納豆の食べ方を調べました。その1つに『魯山人味道』という本があります。そこには『何も加えずよく練る』『糸がたくさん出て、かき回すのが硬くなるまでよく練る』などの作り方が書かれていました。しかし、正確な回数は書かれていないので、その状態になる回数って何回なんだろうと研究したんです」
「納豆を買っては、かき混ぜ、食べ比べ、独自で検証していきました。その結果、醤油を入れるタイミングが305回、美味しい納豆の状態が424回という数字を導き出したんです」
——でも、その回数って個人の好みにも寄りそうですが……?
「実際、食品の味覚を研究する機関『味香り戦略研究所』で旨み成分の推移を調査したところ、424回かき混ぜることで大豆のコクが109%アップすることがわかっています。そして、424回以降はあまり変化がなく、むしろ大豆が潰れていってしまうんですよ。だからかき混ぜによるおいしさのピークは424回としました」
——データで証明されているとは…。ちなみに、これって大豆の大きさやメーカーに関係なく使えるんですか?
「はい。一応、超小粒を基本にはしているのですが、大粒からひきわりまでどの納豆でも『究極のNTO』は使用できます。開発中は『わらの納豆』でも使えるかを確かめるために水戸にも行きましたよ」
——熱量がすごい! じゃあ開発中は毎日、納豆を食べられたんですか?
「朝・昼・晩と食べ続けました。多い時には1回でテーブルを埋め尽くすほどの納豆を並べ、何十種類も食べ比べてました」
▲開発中の苦労を楽しそうに語るお二人
——納豆が嫌いになりませんか?
「振り返るとハードな日々でしたが、今でも嫌いにならずに納豆は食べています。ただ、開発中に辛かったのは、納豆を食べていると白米が欲しくなるんですよね。でも、一緒に食べてしまうと白米の美味しさに寄っちゃいますし、お腹もいっぱいになってしまうので……。あと、会議室に納豆のニオイが充満するので他部署からクレームが入ったことはありました(笑)」
——たしかに、他部署からしたら納豆をひたすらかき混ぜてる光景は意味不明ですよね。
「始めの頃は、社内でも『そんなに混ぜる必要があるの?』とか、バイヤーさんから『なんでもやればいいってことじゃないんだよ』とも言われました(笑)。味の再現もそうですが、そういう方々に納得していただくのも大変だったと思います」
「一度食べていただけたら、味の違いはわかってもらえるんですけどね。でも、味って感覚的なところなので、開発メンバーでも意見が割れたりもするんですよ。そういう意味でも数字でコクがアップしているというデータを示すことができたのはよかったです」
▲究極のNTOの前身、魯山人納豆鉢の開発期間は約10ヶ月。開発当初は回数を導き出す以前に、混ざらない、ハンドルが回らないなどの問題も多かったそう
——様々な苦労があったんですね。前作の『魯山人納豆鉢』を販売した時の反響はどうでしたか?
「社内はもちろん、ネット上の反響が凄かったです。自分の納豆道を語る人達や、納豆を424回かき混ぜてみたといった動画なども出てきて、賛否両論ありながらも盛り上がっていただけました。『究極のTKG』の時もそうだったんですが、否定的な反応も話題になっている証拠とも言えるかと。なので、厳しいご意見でもネガティブには捉えず、興味を持っていただいてるからこそと考えています」
なお、以下は実際に使用したユーザーの反応だ。ご覧の通り、海外からも絶賛の声が寄せられたという。
・「お箸で混ぜるより格段に美味しい!」
・「どんな納豆でもまろやかでふんわりした仕上がりになります。毎回使っています」
・「苦手だった納豆が、これで食べられるようになりました」
・「This is the most delicious Natto I eated with this machine, I believe you will absolutely be infatuated with this Japanese traditional food.」(このマシンを使って食べた納豆はいままで僕が食べた納豆で一番美味しいよ!きっと君も食べればこの日本伝統食に完全に恋してしまうと思うよ)
これは期待値が上がる。実際に究極のNTOを作ってもらった。
魯山人納豆の作り方
最大の特徴は、この「攪拌棒」。ハンドルを1回まわすと倍速回転し混ぜ時間を短縮。さらに表面の凹凸によって納豆の粒同士がくっつかず、よく混ざるようになっている。
使い方は簡単。まずは透明容器に納豆を移す。
次に蓋を閉め、メモリを『開始』にセット。あとはひたすらかき混ぜるのみ。
▲くぼみに指が置けるなど、操作しやすい
なお、「究極モード」と「無限モード」の2種類があり、魯山人納豆は究極モードで再現できるとのこと。
「水戸の方はよく混ぜると聞きますし、もっとかき混ぜたい方のために無限モードも搭載しました。こちらのモードなら何百何千回と無限にかき混ぜることができます。ちなみに前回の魯山人納豆鉢の時には、ペースト状になるまでかき混ぜる強者もいました(笑)」
納豆のペーストも気になるが、今回は魯山人納豆でお願いした。424回と聞くと大変そうに思えるが、時間にすると1分半ほどとのことだ。
▲というわけで、一生懸命かき回す(村田さんが)
さすが開発者。猛烈な勢いでハンドルを回す。
305回転したタイミングで上部の醤油扉が自動でパカッと開く。おもちゃメーカーらしい、楽しいギミックである。
すかさずタレを注ぎ、ラストスパート。頑張れ村田さんもうちょっとだ。
▲タレをいれると納豆がなめらかになり、ハンドルが軽くなるという。
再び自動で扉が開いたら「魯山人納豆」の完成。意外と簡単だ。やったの村田さんだけど。
で、本当にうまいのか?
こちらが424回かき混ぜた魯山人納豆である。正直、見た目はふつう。しかし、食べてみると違いは明らかだ。
——むむっ! いつもよりまろやかな味がします! 大豆の味も濃い感じ!
「それは、納豆をかき混ぜると大豆のコク成分が増していくからですね。そのピークこそが約424回なんです。また、泡状になった糸が大豆一粒一粒に絡むことで、醤油投入後も均一にコーティングされ、きちんと大豆と醤油の味を感じやすくなっています」
「混ぜないと、納豆のツンとしたエグミが残って苦手という方もいるじゃないですか? 作り方1つで納豆が苦手な方が克服できたという話も聞いています」
——すごいな納豆、いやNTO。なんか糸もまとまっている気がしますね。
「そうなんです。かき混ぜるほどに気泡は細かくなるため、糸がまとまりやすく、滑らかで切れやすいんですよ」
——ちなみに僕、納豆には卵やネギを入れる派なんですが、どのタイミングで投入すればいいですか?
「薬味は最後に入れてください。お好みですが、魯山人先生の文献にもそう書いてありましたから」
——魯山人先生へ敬意がすごい。いや、本当に美味でした! ごちそうさまです。
なお、卵を入れたい派には姉妹商品「究極のTKG」とのコラボレーションもオススメだという。
▲究極のTKGで作ったふわとろ卵をのせた、その名も究極の「NTKG(納豆たまごかけごはん)」
ふわふわ食感の白身と濃厚な黄身と合わさった納豆。これ、お店で800円くらい出せるレベルですよ。
なお、「究極シリーズ」は今後も続き、身近な食べ物をより美味しくするアイテムを展開していくとのこと。有賀さん曰く、TKG、NTOに続く第三弾の企画も着々と進行しているそうだ。今度は何なのか、納豆のごとく粘ってみたが秘密とのことで教えてもらえなかった。
おそらく今度もごはんのおとも系だろうから、究極のFRK(ふりかけ)とか、究極のNKM(ねこまんま)とかだろうか。たぶん違うと思うけど、合ってたらごめんなさい。
いずれにせよ、楽しみである。
【プロフィール】
小野洋平(やじろべえ)
1991年生まれ。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服が作れず、ライター・編集者を志す。自身のサイト、小野便利屋も運営。