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生ハムカットの大会で優勝…!? 本場・スペインが認めた「ワールドクラスの生ハム」を食べられるバーが千葉県にあった

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しっとりとした食感に絶妙な塩加減がたまらない「生ハム」。高級食材として知られる一方、最近ではチェーン居酒屋やコンビニでも見かけるほどポピュラーな存在である。

 

そんな生ハムの「カットの技術」を極めた日本人が筆者の地元・千葉船橋市にいるという。なんでも、過去に「生ハムをカットする大会」で優勝した人物らしい。

 

・・・生ハムの大会?? いったいなんだそれは??

 

生ハムの大会も気になるが、そもそも生ハムってカットの仕方によって何か変わるのだろうか? というわけで、噂の生ハムチャンピオンに会いに行ってみることにした。

 

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こちらが「Bar篠崎」のマスター、そして前述の生ハム大会で優勝したという篠崎新平さん。千葉県出身の篠崎さんは、船橋にバーの文化を根付かせようと2015年に当店をオープンさせたそう。

 

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お店に入ると、カウンターに何やらデカい物体が。ケースで丁重に保管されているこちら様こそ、本日の主役の生ハムである。すぐにかぶりつきたいところだが、まずは気になる「生ハムの大会」について篠崎さんに聞いてみよう。

 

 

スペイン発祥! 生ハムをカットする大会「コルタドールコンテスト」

 

——生ハムをカットする大会って、どういうものなんでしょうか?

 

篠崎氏(以下省略)「正式には『コルタドールコンテスト』といって、生ハムの本場スペイン・アンダルシア州が“イベリコ豚の本当の美味しさをもっと知ってもらおう”と開催している大会です。コルタドールとはイベリコ豚の生ハムをカットする職人さんのことで、アンダルシア州では政府が与える公式認定資格なんです。ちなみに僕は、昨年行われた第6回のコルタドールコンテスト東京大会で優勝させていただきました」

 

——ということは、篠崎さんは本場が認めたコルタドールってことですね、すごい! ちなみに、大会ではどんな審査が行われるんでしょうか?

 

「簡単に言ってしまうと『生ハムを正しくカットできているか』を競います。一次試験では『カット技術』を競うため、6分間ひたすら生ハムをカットしていきます。その後のファイナル審査では『盛り付けの美しさ』を競います。昨年は50人ほど参加されましたが、ファイナル審査に勝ち上がったのは6人だけでしたね」

 

——50人中6人!? 容赦なくふるい落とされるんですね。

 

「評価基準は姿勢や所作、片付けの美しさ、そして平面にカットし続ける技術など、それらがトータルで審査されます。一次試験では、3台のイベリコ豚を出場者が順番にカットしていくんですが、僕の前にカットした人は表面をガタガタにしていました。まあ、同じイベリコ豚でもメーカーによって“硬さ”が違うので慣れていないものだとガタガタになるのは無理もありません。僕の場合は様々なメーカーのイベリコ豚をカットしていたので、綺麗な平面に戻すことができました」

 

——見事なリカバリー。その技術が評価されたんですね。ファイナルの盛り付け審査はどうでしたか?

 

「生ハムって盛り直しが効かないんですよ。というのも、お皿に脂が見えてしまうと汚く映ってしまうんです。そのため一度、盛り付けたら直すことはできません。その上でオリジナリティとスピードを競わないといけないので大変でしたね」

 

——ちなみに優勝すると、どんな特典があるんですか?

 

「僕はアンダルシア州で開催された生ハムのイベントに招待してもらい、現地のコルタドールチャンピオンから直々にカット技術を伝授してもらえました。ただ、スペイン人って生ハムが本当に大好きなので、食べるのがものすごく早いんですよ。だから、貴重な体験ではあったんですけど、ずーっとカットばかりしていました(笑)」

 

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▲生ハムイベントにて、歴代のコルタドールチャンピオン達と参列した時の一枚

 

 

カットによって味は変わるの?

 

——同じ日本人として誇らしいです! で、ここまで聞いておきながら大変恐縮なのですが……そもそも生ハムってカットによって何か変わるんですか?

 

「はい、カットの仕方によって、味わいはまるで異なります。せっかくなのでカットしながら説明しますよ」

 

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こちらは、篠崎さんが生ハムをカットする際に使用するというナイフセット。お肉の部位、骨際や皮などカットする場所によって使い分けているとのこと。なお、すべて日本では手に入らないレアなものばかりらしい。

 

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「生ハムをカットする時には『ハモネロナイフ』を使用します。日本の包丁と違って、ぐにゃっと柔らかいのが特徴ですね。ハモネロナイフは全体を使い、角度を変えながらカットしていくので、柔らかいほど微調整が効き、綺麗に切り上げることができるんです」

 

 

そして、こちらがBar篠崎で仕入れている『ハモン・イベリコ・デ・ベジョータ』。44ヶ月熟成させた最高級イベリコ生ハムで、スペイン王室御用達の希少食材なのだとか。

 

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▲凝縮された旨味とマイルドな塩味が特徴

 

 

「正直、この生ハムでは利益が出ないんですけど、1人でも多くの方に味わってほしいんですよね。きっと都内の良いお店に行っても、ここまでの生ハムにはなかなか出会えないと思いますよ」

 

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▲最高ランクの黒タグは「純血」の証。ちなみに75%以下は赤タグ、50%以下は緑タグ、25%以下は白タグと分類されるのだとか

 

「まず、美味しいイベリコ豚の見分け方としては、純血なほど足首が細く、ひづめが黒いですね。それと『良いイベリコは糞のように汚い』って言葉があるように、表面に黒いカビが生えているほど熟成している証拠になります」

 

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▲いよいよ、カット

 

「カットは技術自体もさることながら、それ以上に肉の美味しい部分を見極める目が重要になります。生ハムは熟成中に雑菌が繁殖するため、ダメな部分と美味しい部分がハッキリ分かれます。その見極めは、僕がスペインに招待された時に教わってきた技術の1つですね」

 

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「そしてカット。魚の刺身も切り方が悪いと美味しくないですよね。生ハムにも同じことが言えるんです。私は口に入れた瞬間に、赤身と脂身の比率がちょうどいいバランスになるよう意識してカットしています。あと、脂は室温でも溶け出してしまうほど繊細なためスピーディーかつ均一にカットしたり、部位によってカットする厚さを変えたりすることも大事なポイントですね」

 

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▲美味しい脂の部分は下に隠すのがマナーなのだとか

 

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▲美しい……。これぞ、本場が認めた「ワールドクラスの生ハム」だ

 

こちらが、お花をイメージして盛り付けられた「生ハムの盛り合わせ」。2〜3人前 2900円(1人前1600円)。溶け出す脂がキラキラと輝いているように見える。まさに匠の技。……食べるのがもったいない! 食べるけど。

 

 

生ハムへの熱い想いが止まらない

 

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「僕、生ハムが大好きなんですよ。この艶を見ているだけで惚れ惚れしちゃうんですよね。閉店後も、このイベルコ豚のためにクーラーかけて帰るんですよ?(笑)」と生ハムへの愛を語る篠崎さん。幼い頃から、生ハムを食べて育ってきたそうだ。

 

——昔から生ハムがお好きだったんですか?

 

「好きでした。僕の母親が養豚業を営んでいたため、子どものころから毎日のように食べていたんですよ。ちなみに父親は鰻屋だったので幼い頃から『食』に携わる仕事には興味があったんです」

 

——生ハムと鰻……うらやましい。それは舌が肥えそうな環境ですね。ちなみに、なぜ生ハムのカットを極めようと思ったんですか?

 

「きっかけは、たまたま居合わせたお肉屋さんで生ハムのカットの仕方に文句を言っているお客さんを見かけたこと。生ハムのカットって大事なんだなと知り、興味がわきました。カットの技術を極めて、『本物の生ハム』を味わってもらいたいと思ったんですよね」

 

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そんな篠崎さんが惚れ込んだのが、先ほども紹介したこちらの『ハモン・イベリコ・デ・ベジョータ』である。いったい、どんな味なのだろうか?

 

「イベリコ豚はひづめを上にして熟成させていくため、先端部分の“プンテ”に多くの脂を含んでいます。まるでサーロインのような、しっとりした口どけが特徴ですね。続いて、足首に近い部分“ハレテ”は、身が締まっているため噛めば噛むほど味わいが増していきます。次に“マサ”は、いわゆる中トロ部分に当たります。少し筋張ってはいますが赤身と脂のバランスが最高です。最後に“バビージャ”は噛み応えのある赤身肉が多く、イベリコ豚本来の旨味が味わえますよ」

 

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ジューシーな生ハムが好きな人にはプンテ、あっさり食べたい人にはハレテといったように、お客様の好みに合わせて部位や切り方を変える。それがコルタドールの腕の見せ所だという。

 

Bar篠崎自慢の絶品料理&フルーツカクテル

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▲元々はイタリアンやフレンチのレストランでコックを務めていた篠崎さん。バーテンダーを志したのは、当時の支配人から教わった「お客様を笑顔に引き出すには美味しい料理だけでなく、相性の良いお酒をコーディネートすることが大事」という言葉がきっかけだったのだとか

 

ちなみに、篠崎さんは生ハムカットの達人であると同時に、お酒のスペシャリストでもある。ソムリエ、ウイスキーエキスパート、ベネンシア アフィシオナド(シェリーの資格)、ラムコンシェルジュ、ビアテイスターなど、さまざまな資格を取得し幅広い知識をカバーしているのだ。

 

「お酒の仕事をしているのに、人から聞かれた時にごまかすことが嫌だったんですよ。ことさらに薀蓄をひけらかすことはしませんが、お客様に質問された時には正しい知識をお伝えしたいと思っています」

 

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▲そんな一流バーテンダー篠崎さんに「生ハムと相性の良いお酒」を頼んでみた。すると、ムチのような柄杓で華麗にシェリー酒を注いでくれた。何をしても絵になるなー

 

——(うっとりしつつ)いやあ、篠崎さんは本当にかっこいいですね……!

 

「(少し照れつつ)この柄杓は『ベネンシア』と言います。シェリー酒を樽から汲み出す際に使い、アンダルシアの伝統的なパフォーマンスです」

 

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▲高い位置から注がれたシェリー酒は空気を含み、口当たりと香りが豊かになるそう

 

「生ハムとシェリー酒は同じアンダルシアで生産されたため、相性抜群なんですよ」と篠崎さん。そりゃ合うさ、合わない理由がないだろう。

 

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▲言わずもがな、ばかうまでした。芳醇なシェリー酒と生ハム、どちらも強い個性で互いをぐいぐいと高め合っている

 

篠崎さんによれば、生ハムがお酒に合うのはきちんと理由があるという。

 

「生ハムの表面にある白い斑点を見たことはないですか? あれは『チロシン』といって、お肉に入りきらなかった高アミノ酸。アミノ酸はアルコールの分解を手助けしくれるので、お酒を飲む時には最適なんです。さらに、イベリコ豚のオレイン酸は体に脂肪が残りにくく、善玉コレステロールを増加させる効果もあるんですよ」

 

 

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▲こちらは、こだわりの梨を使ったショートカクテル1280円

 

こちらのフルーツカクテルは「Bar篠崎」の看板メニューとのこと。

 

船橋で収穫したブランド梨『幸水』を使ったカクテルになります。他にも、パッションフルーツやシャインマスカットなど船橋産のフルーツを使うことで、少しでも船橋が盛り上がればいいなと思っています」

 

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▲カルパッチョ3点盛り1580円(食材は日替わり)。ちなみにこの日は、明石産真鯛(左)、千葉産アジ(右)、北海道産ボタン海老(上)

 

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▲こだわりタマゴのシンプル“タマゴサンド”770円。トリュフの入ったオムレツをサンドしている

 

さすが、元料理人だけあって料理は総じてハイレベル。生ハムを抜きにしても、最高に素敵なバーです、ここ。

 

 

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▲締めはネグローニを使ったオリジナルカクテル

 

締めのお酒は『ネグローニ』のカクテル。篠崎さんいわく「これは、コーヒーをバラの形に凍らせています。徐々に溶け出していくコーヒーの甘みとネグローニの苦味をお楽しみください」とのこと。うーむ、どこまでも気が利いている。関係ないけど、きっと超モテるんだろうなあ……マスター。

極上の生ハムはもちろん、おいしい料理と酒のマリアージュ、渋くて優しいマスター……いったい何拍子そろってるんだよ、この店。こんなにすばらしいバーが地元にあるなんて、僕は幸せもんです。

 

 

【紹介したお店】

TEL:047-401-7511

営業時間:火~木17:00~3:00/金・土17:00~4:00/日・祝日16:00~1:00

定休日:月曜日

URL:https://r.gnavi.co.jp/gxadv7mf0000/

 

 

【プロフィール】

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小野洋平(やじろべえ)

1991年生まれ。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服が作れず、ライター・編集者を志す。自身のサイト、小野便利屋も運営。

http://yajirobe.me/
https://onobenriya.com/

 


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