私が社会人の駆け出しだったころ、職場の上司に「福岡でかつ丼を食べるならココたいっ!」と連れていってもらったのが、私と「友楽(ゆうらく)」のかつ丼との出会い。
その時以来、私にとって「友楽」のかつ丼はまさに「勝負メシ」。気合いを入れたいときにはいつも「友楽」で、「かつ(勝つ)」の縁起を担いでかつ丼を食べていました。
だからこそ、天神の再開発に伴って2015年に「友楽」が閉店するというニュースを聞いたときは、かなりショックを受けたのを今でもよく覚えています。
こちらは、かつて「友楽」が入居していた「福神ビル」があった場所です。すでに建物は解体され、2021年に向けて「天神ビジネスセンター」という天神の新たなシンボルを担う高層ビルの建設が進んでいます。
この地で昭和、平成とサラリーマンたちの胃袋を満たしてきた名物飲食店のほとんどが廃業や移転を決め、「友楽はどうなるのだろう」とその行く末を心配していましたが、2016年8月に復活したと聞いてひと安心。その後なかなかお店に行けなかったのですが、今回ひさびさにこの味を堪能できる機会を得ることができました。
移転後のお店は、天神から西鉄天神大牟田線で一駅の「薬院」にあります。この西鉄「薬院」駅は、以前タモリさんのテレビ番組でオープニングにも登場していましたから、覚えていらっしゃる方もいるのではないでしょうか?
ここから歩いて10分ほどの場所に、「薬院かつ丼友楽」はあります。
天神で営業をされていたころは2階の隠れ家的な雰囲気でしたが、新しい店舗はかつ丼店とは思えないほど、スタイリッシュに変身。
入口の小さな看板には「1948」と創業年の数字が刻まれていて、移転してもなお、名店の味をしっかりと受け継いでいるという証を垣間見ることができました。
小料理屋のような落ち着いた雰囲気の店内は、L字型のカウンターに10席のみ。厨房はガラス張りで、料理人はそこから店内の状況が見渡せる造りになっています。
メニューは、単品(800円)か汁物付き(1,000円)が選べるかつ丼とドリンクのみというシンプルさ。“かつ丼に全力を注ぐ”というお店の決意を感じます。
ご飯の量は天神の時と同じで、お茶碗2杯ほどの「大盛り」でも、お茶碗1杯半ほどの「普通」でも、お茶碗1杯ほどの「少なめ」でも同料金。店へ足しげく通っていたころの記憶がよみがえります。
2002年よりこの店を切り盛りする三代目の江頭(えとう)光徳さん。祖父や父から受け継いできた「友楽」の味を守り、日々研究を重ねながら、かつ丼1杯1杯を丁寧に仕上げていきます。
創業から70年!「かつ丼友楽」の歴史をひも解く
名店の味をおいしくいただく前に、まずは創業から今日に至るまでの「友楽」の歴史について、江頭さんに教えていただきました。
江頭光徳さん:「1960年ごろに増築改装した後の『友楽寿し』の写真です。実は、私の祖父である初代も、父である先代も“寿司職人”で、この店ももともとは寿司屋だったんです。戦後いち早く復興が進んだ天神の食堂街『福神街』に創業したのが1948年。かつ丼はそのころからメニューにあったようで、“天神で初めてかつ丼を提供した店も『友楽』だった”という話を聞いたことがあります。働く場所を失った人であふれていた戦後、初代はジャンルを問わずに料理人を雇用していたそうですので、きっとその中に作れる方がいたんでしょうね」
米はシャリ用に厳選したものを使用。「炊きたてのおいしいご飯でかつ丼がいただける」ということもあり、「友楽」は“かつ丼がおいしい寿司屋”としていつからか評判になっていったそうです。
江頭光徳さん:「こちらの写真は1979年ごろ、福神ビルに建て替えられた後の『友楽寿司』です。この後2001年ごろにお店が1階から2階へと移転するのですが、そのころから私は「友楽」の社員として仕込みから修業を始め、寿司職人を目指していました。その矢先、先代である父が若くして他界。駆け出しの料理人である私が無理に寿司屋を存続させるよりも「友楽」という名前だけを残して別の道で営業を続けようと、思い切ってかつ丼専門店へのリニューアルを決意しました」
2002年、リニューアルしたお店で三代目店主に就任。最初のころは料理人としても経営者としても未熟だと感じることが多く、家族や親戚など周囲に支えてもらいながら試行錯誤の毎日を送っていたそうです。
江頭光徳さん:「そんな状況でも寿司屋の時と変わらずにお客様が足を運んでくれたのは、初代や先代が築いてきたブランドのおかげ。だから、自分のペースでゆっくりと時間をかけて、『友楽』という店の看板を守ることができたのだと思います」
ところが今度は、天神地区の再開発で入居する「福神ビル」の取り壊し、建て替えが2015年に決定。建て替え後のテナント料の値上がりで、ビル内の飲食店の多くが閉店や廃業を決めるなか、閉店を惜しむ声に後押しされて江頭さんは移転を決断。2016年8月、薬院で再スタートを果たしたのです。
江頭光徳さん:「現在の店舗は、一見すると営業に不向きな場所かもしれません。でも周囲には、麺道はなもこしさんやおいしん房 武味さんのような、立地の不利など物ともせずに我が道を突き進み、お客様から支持を得ている店もあります。皆さん、個性的で魅力があって学ぶべきところが多い。『友楽』もそのような店に育てたいと、現在の私の目標にしています」
歴史とこだわりが詰まった名店のかつ丼を実食!
私にとっては、移転前に食べた時以来約3年ぶりとなる思い出の味。今回は、その味をとことん堪能しようと「かつ丼普通盛り・汁物付き」(1,000円)を注文しました。
まずはタレから紹介します。初代、先代と受け継がれるレシピをベースに、日々研究を重ねるタレは甘く、濃い目の味付け。カツオをふんだんに使った風味豊かなダシが味の決め手になっています。
とんかつに使う豚は、鹿児島県産霧島山麓豚のリブロースと肩ロースを使用。約170℃の油で注文後に一枚ずつ揚げるため、外はサクサク、中は肉厚でジューシー。食べやすいようにひと口サイズにカットする心遣いもうれしいですね。
かつをとじる卵は、卵白を切る感覚で溶き、卵黄を傷つけないように仕上げるのがコツだとか。半熟すぎず、硬すぎずのプルンとした食感で、ご飯とタレにも絶妙に絡んで美味です。
米は天神で営業していた時と変わらず、寿司のシャリ用に厳選したものを使用。相変わらず炊き方が上手で、粒立ちがよく、粘り気が少ないため、丼との相性も抜群です。
そして、汁物。こちらも天神時代のままで豚汁でした。相変わらず飽きのこない優しい味わいで、野菜もたっぷりと入っています。
卓上は一味唐辛子とつまようじのみ。つまようじの袋には、「歯科医がすすめる歯間ようじ」と書いてあって、「こんなとこにもこだわりが!」と感心してしまいました。
江頭光徳さん:「薬院に移転してから味が定まらず、ずっと試行錯誤をしてきたのですが、とんかつに使う肉を変えたぐらいの時期にタレのレシピやダシの割合を見直したことで、やっと天神で営業したときの味に近くなってきました。メニューはかつ丼のみ、昼のみの営業時間したのも、まずは1杯1杯を丁寧に仕上げることで“かつ丼を極めたい”と思ったから。そうやって、私なりに『友楽』の味を高めながら、これからも老舗の看板を守っていきたいですね」
伝統を守りつつも日々進化を続ける姿勢こそ、「友楽」のカツ丼が値段以上の満足感を与える要因であると、店を訪れて食事をした誰もが口をそろえて賞賛します。そんな福岡民が誇る名店の丼を、皆さんもぜひ一度体感してみてください。
紹介したお店

- ジャンル:カツ丼
- 住所: 〒810-0022 福岡県福岡市中央区薬院2-4-35 エステートモアシャトー薬院101
- エリア: 薬院
- このお店を含むブログを見る | 薬院のカツ丼(かつ丼)をぐるなびで見る
電話:092-741-4810
営業時間:11:30~15:00(LO)
定休日:月曜、月に2回日曜
書いた人
ニシダタケシ
福岡・九州の編集プロダクション・シーアールに所属。生まれも育ちも福岡という生粋の九州男児。
流行りもの&甘いもの好きで、嫌いな食べ物はほとんどなし。「毎日完食!」をモットーに、小さなカラダで福岡のおいしいものを食べ歩きます。
憧れの人は出身校の大先輩・タモリさん。グルメレポではたま~にデカ盛りにも挑戦しますよ!