こんにちは。ライターの斎藤充博です。
無印良品のレトルトカレーってものすごくおいしくないですか。
特に僕が好きなのはキーマです。一人前300円と安くはないんですが、挽肉のツブツブ感が出ていてしっかりとおいしい。自前で目玉焼きやソーセージをトッピングしてもよく合います。お昼ご飯にすごくちょうどいいんですよね。
ここ数年、無印良品のカレーはものすごく種類が増えています。定番のカレーに加えて「ジンジャーパネン」とか「パニールマッカニー」なんて全然聞いたこともないようなカレーが売られています。
いったいどうなっているんだ、無印良品のカレー部門。カレーマッドサイエンティストみたいな人が社内にいて暴走しているんじゃないか……。
というわけで、今日は株式会社良品計画に来てみました。カレーの開発担当者さんにいろいろ聞いてみたいと思います!
一体、どのカレーが一番売れているのか?
また、売上げだけではわからない、隠れた激ウマカレーはあるのか?
そして今回、あのシンプルなパッケージに隠された驚きの秘密が明らかに・・・!
今回お話をうかがうのは、株式会社良品計画食品部の橋本聖子さん(向かって左)と遠藤優子さん(向かって右)。カレーマッドサイエンティストみたいな人じゃ全くなかった。僕も現実にはそういう人はいないんだろうなとは思っていましたが……。
無印良品のカレーは現在31~34種類!
――早速なんですが、無印良品のカレーって、現在いくつくらい種類があるんでしょうか?
橋本 入れ替わりが常にあるので、正確な数が出しにくいのですが、現行のカレーは31~34種類くらいですね。
――そんなに……。こりゃ選べないはずだわ。ちなみに取り扱い中止になった物も含めると今まででいくつのカレーを作ってきたんでしょうか。
遠藤 60種類はあると思います。さらにバターチキンでも4回くらいはリニューアルしているので、ずっと同じではないです。
現行のカレーを一通り並べてもらいました。圧巻!
――多いとは思っていましたが、数字で表されると震えますね……。
橋本 最初は少なくて3~4アイテムからでした。出していたのはタイカレーです。
その頃、カレーといえば、まだ「日本式のお母さんが作るカレー」というイメージが強かったんです。
それはそれでおいしいのですが、我々としては世界の食文化を紹介したいという気持ちがありまして。あえて海外のカレーを出しました。
――まだエスニック料理が一般的ではなかったんですね。
橋本 そうです。それで知っている方の間で無印良品で本格的なタイカレーが買えるらしいぞって広まっていったんです。
――たしかにそんな時期があった気がする! 僕も初めて食べたタイカレーは無印良品でした。
橋本 その後、カレーをやるんだったらやっぱりインドカレーから、きちんとやっていこうということになったんです。
――無印良品の中でインドカレーは後発だったんだ……。
グリーンはむせるくらい辛くなくちゃグリーンじゃない
――あの、僕、文句を言いたいことがあるんですが! 無印良品のグリーンは辛すぎませんか? グリーンは正直苦手です。
橋本 わかります(笑)。私もグリーンを食べたらむせますよ。
――まじですか。担当者も辛いと思っていたとは……。
橋本 グリーンはむせるくらい辛くなくちゃ、グリーンじゃないって思っています。
もちろんただ辛いだけじゃなくて、ココナッツのコクもあわさっているので、しっかりとおいしい辛さになっているはずです。
現地ではなぜそういう味になっているのか? ということを、きちんと商品にして伝えたいと思っているんです。
――なるほど、本格的。
橋本 ただ、現地と全く同じようにコピーをすることがおいしいとは限らないんです。どういう風にブレイクダウンしたら、現地の味の良さを理解してもらえるかな? って考えていますね。インドで定番の野菜を日本で定番の野菜に置き換えることもあります。
――そういうの考えるの大変そうですね。橋本さんはもともとカレーに詳しかったんでしょうか?
橋本 私は無印良品の中でカレーの担当になって、2年半くらいなんですよ。その前は甘い物ばかり担当してました。フロランタンとか(笑)。
――なっ。にわかじゃないですか!
橋本 全然素人ですね。カレーを食べる頻度も人並みくらいでした。ただ、担当になってから、とにかくいろんなカレー屋さんに行くようにしました。本物のバターチキンとはなんぞや……みたいなことを考えながら。
――『美味しんぼ』みたいですね。そういえばあれも食文化を考えるマンガですもんね。
インドに1週間出張に行ったらみんなで300種類のカレーを食べる
橋本 担当になってからは、インドに何回か出張もしています。
――おお、それはいかなきゃですよね。
橋本 現地では、日本では広まっていないカレーがたくさんあることを知りました。
例えば……日本ではバターチキンカレーが人気ですが、インドだと普通のチキンカレーの方がよく食べられているんですよ。
――バターが現地では高価だからですかね?
橋本 それは理由の一つとしてあると思います。貧富の差が激しい場所ではあるので。ただ、バターを使っていないチキンカレーもそれはそれでおいしいんですよ。肉の旨味と塩が効いていて、スカッとしているんです。それが現地の人には受けている。
――他にも日本で知られていないカレーってあるんでしょうか?
橋本 オクラのドライカレーもおいしいのに日本では広まっていないですね。あれはレトルトにできないんですよ。
その他にも、インドではベジタブルの食文化が発達しているので、野菜だけで濃厚な風味を出せるようなカレーがたくさんあります。日本ではやっぱり肉がメインになっているのが喜ばれますね。ちなみに野菜だけのカレーは無印良品でも出しています。
――出張ではどのくらいの量のカレーを食べるんですか? 大変そうですが……。
橋本 8人くらいで1週間出張に出掛けます。その間、みんなで300種類くらいはカレー食べているんじゃないかなあ。
――(計算する)……1日に5、6食はカレー食べているんですね。
橋本 チキンカレーでも、ホテルで出ているものと、大衆的なものとでまるで別物なんですよ。だから、たくさん食べなくちゃいけないですね。
ただ……冷静になってみると、どう考えても食べ過ぎですね(笑)。旅の勢いで食べちゃっているんですが。
遠藤 ちなみに、今週末から我々はまたインドに1週間の出張です。
――すごい。これでまた新たなカレーが無印良品の棚に誕生してしまう……。
なるほど。無印良品のカレーの種類が多くなる過程が見えました。
「そもそも現地のカレーの種類が多い」
「無印良品は現地の味をできるだけ伝えようとする」
この結果、あんなにたくさんのレトルトカレーが生まれるのでしょう。
ランキングに変動!? 2位に食い込んできた新星とは?
――無印良品で人気のあるカレーってどれでしょうか。
遠藤 1位がバターチキン、2位がグリーン、3位がキーマ。これが長らく御三家と我々が呼んでいるほど人気がありました。
――1位と3位は僕も大好きです。それにしてもグリーン、むせるのに2位なんですね! きっちり受け入れられている。
橋本 ところがですね。ここ数ヶ月で、この御三家に異変があらわれました。6月に発売したスパイシーチキンです。さっきお話ししたような、インドでよく食べられているチキンカレーをお手本に作ったカレーなのですが………。
遠藤 それが2位に駆け上ったんです。
これがランキングを荒らしまくっている、素材を生かしたカレー スパイシーチキン。
――事件だ! すると、現在はどうなったんでしょう?
遠藤 1位はバターチキン。これは不動の人気ですね。2位がスパイシーチキン。3位がグリーンですね。
――キーマが蹴落とされてしまったのか~~。あれ好きなのに!
橋本 キーマおいしいですよね。あれは私も好きです。本当にいい仕上がりになっているんですけどね。
社内人気は一番なのに販売中止になったイエロー
――ちなみに、人気のないカレーの方も教えてもらえますか?
橋本 イエローがあまり売れていなくて、販売中止になってしまいました。
ただ、社内の人気は一番でしたね。社内の人はやっぱりいろいろ試してくれるので、おいしいカレーを知っているんですよ。
これは一番バランスの良いタイカレーなんです。タイカレーの入門におすすめです。
――でも、もう売っていないんですよね……?
橋本 復活するかも、しれません。まだちょっと正確なところは言えないのですが……。
遠藤 ジンジャーパネンも知られていないですね。これも社内人気はすごいです。生姜を効かせた、甘辛いカレーです。
――ジンジャーパネン……。お店で見て気になっていました。でも、今日はジンジャーパネン食べるぞ~なんて、ふつうは思わないですもんね。
遠藤 おっしゃるとおり、認知度は低いんです。ただ、本当においしいですよ。私も大好きです。タイ風の豚の生姜焼きみたいな感じですね。タイではとてもよく食べられているカレーですね。
パッケージに秘密が隠されているらしい
――無印良品のカレーにこれを入れたらおいしいみたいなチョイ足しってありますか?
橋本 それは本当によく聞かれるんですが、開発者の視点だとあまりチョイ足しって考えていないんですよ。作った物が全てと思ってしまうので。
遠藤 チョイ足しではないですが、実はパッケージにメッセージが込められています。パッケージに複数のカレーが載っていることがありますよね。それは一緒に合わせて食べるのがオススメなものです。
――それ、今まで知らなかったです! もっと全面的にパッケージに書いてくれればいいのに!
遠藤 あまりやると押しつけのようになってしまうので。さりげなく伝えるようにしているんですよ。
――たしかに、そういうところは無印良品らしい。けど!
無印良品のカレーと我々はどう向き合えば良いのか
――無印良品のカレーの陳列台に行くと、本当に種類が多いし、知らない物もたくさんありますよね。あれ、どう向き合ったら良いですか? とまどいを感じ得ないのですが……。
遠藤 それはぜひ知名度が低いのにオススメしたいくらいおいしいって思ってください。それで、ぜひ一度食べていただきたいです。
橋本 いつもバターチキンって方も多いとは思うんですが、また違うカレーを発見して欲しいです。好きなカレーを見つけてほしいですね。
無印良品がカレーで伝えようとしているのは、食文化。好奇心を持って知らない物にチャレンジしてみるのが、よい向き合い方なのかもしれません。食料品を消費するというよりも、本屋さんで雑誌を買うみたいに。
お2人とも、ありがとうございました!
***
というわけで、インタビューの後、無印良品に行って好奇心のままにカレーを6種類買ってみました。食べるぞ~~~。
素材を生かしたカレー「クリーミーバターチキン」
このカレーはレトルトの封を開けた瞬間から始まります。超・濃厚なバターの香りが6畳間全体に一気に漂うんです。もはや部屋にカレーをかけたといっても過言ではないくらい。
食べてみるとコクがすごい。コク、コク、コクの雪崩! でも乳製品由来のコクなので、決してしつこくないという……。はあ、すごかった。
素材を生かしたカレー「スパイシーチキン」
これも封を開けた瞬間に始まりました。鋭いスパイスの香りが脳天を駆け抜けてゆく。食べて見ると「しょっぱい」「辛い」「スパイスっぽい」と、一口で3回味がします。なるほど。これがインド本場の味か……。
素材を生かしたカレー 「サグチキン」(ほうれん草とチキンのカレー)
うまいです。ほうれん草、小松菜、ケールなどがチキンと一緒に煮込まれています。クセっぽい味もかすかに感じられるんだけれども、カレーとよくあっている。すごく落ち着く味です。
素材を生かしたカレー「ジンジャーパネン」
想像以上に甘いです。田舎のおばあちゃんが作る煮物みたいな、土着的な甘さを感じます。そこに辛みも加わってきて、ああ、これはカレーだな……と認識できる。遠藤さんが言っていた「タイ風豚の生姜焼き」という言い方は、すごく的を射ていると思いました。
素材を生かしたカレー「プラウンマサラ」(海老のクリーミーカレー)
これはうまいですね。 すごく奥行きがある味なんですが、その奥が見通せないんですよ。曲がりくねったトンネルのようです。
写真ではわかりにくいんですが、食べ応えのあるエビが入っています。でも、そのことを一瞬忘れてしまうくらい、ルーがうまいです。
素材を生かしたカレー「パニールマッカニー」(カッテージチーズのカレー)
チーズの香りがすごい。でも、入っているのはカッテージチーズなので、とてもさっぱりしています。辛みはかなり抑えめ。
***
正直、食べくらべるとどれもすごくうまい……! またリピートしたくなるし、まだ食べていないカレーも食べたくなる……! かといって、カレーばっかり食べているわけにもいきません。
いったいどうすりゃいいんだよ、これ。取材をしたら悩みがより一層深まった気がします!
取材協力
株式会社良品計画
(カレーは扱ってませんが)無印良品のフードが楽しめるカフェはこちら
Café&MealMUJI有楽町
住所:東京都千代田区丸の内3ー8ー3インフォス有楽町2F
TEL: 03-5208-8245
※掲載された情報は、取材時点のものであり、変更されている可能性があります。
プロフィール
斎藤充博
1982年生まれの指圧師(国家資格)。「下北沢ふしぎ指圧」を運営しています。インターネットで記事を書くことをどうしてもやめられない。
ツイッター:@3216
ホームページ:下北沢ふしぎ指圧