『サッポロ一番』シリーズの中で、どの味がマイベストなのかがまだ決めきれないライターの玉置です。推し麺、迷いますよね。
※アイドルグループの誰を好きかの推しメンと掛けています。
サッポロ一番のインスタントラーメンって、お店で食べるラーメンとは別物であり、もっといえば他のインスタントラーメンとも別物の、サッポロ一番というオンリーワンの独立したジャンルだと思うんですよ。特に『塩らーめん』と『みそラーメン』は。
今回はその存在が身近すぎて、逆に知らないことが多いのではないかと、サッポロ一番シリーズを販売しているサンヨー食品さんへとやってきました。
お話を伺ったのは、サンヨー食品の水谷彰宏さん。せっかく来たのですから、すべての疑問に答えていただきましょう!
▲広報宣伝部の水谷さんとちゅるりん。うれしいことがあると、頭の先端が伸びるそうです。いや、水谷さんじゃなくてちゅるりんの話です。
『サッポロ一番』なのに群馬発の会社で、以前は『長崎タンメン』を作っていた!
「まず最初に確認しておきたいのは、サンヨー食品の成り立ちです。今は東京が本社のようですが、やっぱり北海道の札幌で生まれた会社なのでしょうか?」
「実は群馬県前橋市からスタートした会社で、本社工場は今でも前橋にあります。昭和28(1953)年に富士製麺株式会社として創業し、乾麺のうどんなどを製造していました。北関東は小麦の産地で、小麦粉を使って麺を作る食文化があります。会社ができた頃は、戦争が終わって小麦の配給制度が解除されたこともあり、群馬に製麺所がたくさんあったんですよ」
「え、群馬なんですか。群馬の麺といえば、野菜とうどんを一緒に煮こむ『おっきりこみ』ですよね。そこからなぜ、サッポロ一番というインスタントラーメンが生まれたのでしょう。『群馬おっきりこみラーメン』だったら納得ですが……」
「昭和33(1958)年に世界初のインスタントラーメンである『チキンラーメン』が発売され、これがすごく画期的だったんです。それで当時の専務だった井田毅(いだたけし)が、うちでもやってみようと開発を始めて、昭和38(1963)年に生まれたのが『ピヨピヨラーメン』です」
▲テレビCMも放映していたというピヨピヨラーメン。
「おっと、チキンからピヨピヨが生まれましたか。パッケージもなんとなく似ているような。今でいうところのインスパイア系ですかね」
「インスパイア系です(ニコッ)。N社の『チキン(にわとり)』に対して、こちらはまだ生まれたてのヨチヨチ歩きの商品ということもあり、敬意を表してヒヨコのピヨピヨをつけました。そして翌年に『長崎タンメン』という即席ラーメンを発売したのですが、これは業界初となる塩味です」
▲新らしい味、長崎タンメン。
「なるほど、サッポロ一番の前は長崎タンメンでしたか。長崎といえばちゃんぽんが有名ですが、『長崎タンメン』というご当地麺は初めて聞いたような気がします」
「タンメンという野菜をたくさん入れて食べる塩味のラーメンを発売するにあたって、当時食品業界ではよく見られた、名前の頭に何かをつけることを踏襲したそうです。そしていろいろな組み合わせを試した末に、長崎の地名を借りようとなったみたいです」
「では『長崎タンメン』というご当地麺があった訳ではない?」
「イメージや商品の良さを伝えるために、長崎というネーミングをもらったようです(ニコニコッ)。具材をたっぷり乗せる麺といえば、長崎には『ちゃんぽん』がありますが、当時はまだ全国区のメニューではありませんでしたので、『長崎タンメン』となったのかもしれません」
▲現在はサッポロ一番の『ちゃんぽん』も発売しています。
「なんだか横浜発祥のスパゲティナポリタンとか、名古屋で生まれた台湾ラーメンみたいな話ですね。地名の場所には存在しない味というところが」
「この長崎タンメンはなかなかの人気だったのですが、他社から類似品がたくさん出てしまった。それで他社に真似できないようなオリジナルのブランドを育てようと、新しい商品の開発に乗り出しました。長崎タンメンは塩味でしたが、ラーメン市場で一番強いフレーバーは当時も醤油です。やっぱり醤油味のラーメンを出したいと、当時専務であった井田毅が全国を食べ歩き、札幌のラーメン横丁でイメージと合致する店を見つけました。それを何度も食べて試作を繰り返して作り上げたのが、サッポロ一番の『しょうゆ味』です」
「サッポロ一番は札幌と関連性があるラーメンだったんですね!」
「はい(ニッコリ)。ただの醤油ラーメンではなく、名前にうちの商品だとわかるような名前を付けようと、当時の札幌にあった有名な百貨店の五番館から名前を借りて、サッポロ五番館ラーメンはどうだろと。でもちょっと長いよねとなって、じゃあサッポロ五番はどうだ。いやいや5番を目指すの?どうせなら一番を目指そうよと、サッポロ一番になったと聞いています。調理例をパッケージに乗せたデザイン、粉末スープに乾燥ネギを入れるスタイルなど、当時としては画期的なインスタントラーメンでした」
▲右が昭和41(1966)年の発売当初のデザイン。当時はこのしょうゆ味しかなかったので、しょうゆ味とは書かれていません。
続けて『みそラーメン』と『塩らーめん』が誕生
「しょうゆ味の次は、『みそラーメン』ですか?」
「そうです。しょうゆ味の2年後、昭和43(1968)年に生まれました。ローカル的なものでは他社様でもあったかもしれませんが、全国展開したインスタントラーメンの味噌味としては、初だと思います。これは全国に味噌ラーメンという存在を広めたアイテムとも言われています」
▲うちの父親は、お湯に粉末スープを溶かして麺を煮て、仕上げにキムチの素を入れた味の濃いみそラーメンを愛していました。これがライスとよく合うんだ。
「なるほど、味噌ラーメンって昔は全国的にはメジャーな存在ではなかったかも。これも札幌のお店がモデルですか?」
「札幌にある『味の三平』という店をヒントにして、井田毅と奥さんが試作を何度となく繰り返して、この味を作ったそうです」
「そして次は、とうとう『塩らーめん』の番ですね」
「はい、昭和46(1971)年です。これはモデルとなる店があるのではなく、例の長崎タンメンをベースに、サッポロ一番シリーズの塩味として、アレンジをして完成させました」
「サッポロ一番なのにベースが長崎タンメンで、さらにはそれを群馬の会社が作ったと。なんですか、その日本縦断っぷりは。まさか塩らーめんにそんな歴史があったなんて!」
▲水谷さんがオススメする、塩らーめんのカルボナーラを作ってみました。チーズと牛乳がスープに合う!
▲でも食べ終わってから、卵黄を入れるのをすっかり忘れていて愕然。
ネーミングやパッケージデザインがバラバラなのはなぜ?
「先程から気になっていたのですが、サッポロ一番シリーズって、『しょうゆ味』、『みそラーメン』、『塩らーめん』と、名前の表記ルールがバラバラですよね。さらに名前だけでなく、よく見るとパッケージデザインもバラバラじゃないですか。これは揃えなくていいんですか?」
▲並べてみると、想像以上に三者三様でした。
「バラバラなのは個性として捉えています。普通だったらシリーズとして横並びに作るべきでしょうけど、発売した時期もバラバラですし。このデザインも井田毅が考えたものなのですが、センスというか、インスピレーションでできあがっているので、社内でも理由のわからない部分があったりします。例えばしょうゆ味の右上の星と矢印のマーク。これは札幌だから時計台なんじゃないかとか、シルクハットみたいな帽子をかぶっているのではとか、星は五稜郭をイメージしたのではないかとか、まあ謎ですね」
「塩らーめんの四隅が、左上と右下が黒で、右上がオレンジ、そして左下は塗りが無しという謎も気になります」
「これもセンスでしょうね。三角をここだけ無くしたのか、忘れたのか、わかりません。個々にデザインされているのに、どこかシリーズ感がある。どれをみてもサッポロ一番ってわかる。よく見るとバラバラなのに、並べても違和感がない。なんというか、戦隊シリーズみたいですね。これが井田の個性ですから、時代に合わせて写真の具を変えたりはしてますが、大きな変更はありません!」
サッポロ一番、味の違いは?
「続いては味の話を聞かせてください。それぞれにデザインの個性があるという話がありましたが、味についてはどうでしょう。デザインと同様、同じシリーズなのに個性があるように思うのですが」
「もちろんスープの味は違うのですが、それに合わせて麺の形状や原材料の配合を変えています。しょうゆ味は角麺で、香ばしさを出すために醤油が練り込んであります。色も醤油スープに合うような茶色です」
▲麺の断面が四角くて、ちょっと茶色いしょうゆ味用の麺。
「みそラーメンの麺は、断面が楕円形をしており、スープに合うように醤油と味噌が練り込まれていて、ちょっと黄色いのが特徴です」
▲楕円形でちょっと黄色いみそラーメン用の麺。
「塩らーめん用の麺は、丸麺で山芋粉が入っています。すすったときのツルツルした感じ、噛んだ時のモチモチ感は、山芋の効果ですね」
▲丸い断面で山芋粉が練り込んである塩らーめん用の麺。色は一番白い。
「山芋なんてお好み焼きの隠し味みたいですね。例えるなら、ある一つの店が出している、醤油、味噌、塩のラーメンというよりは、のれん分けして独自の味を追求した各専門店の出している、醤油、味噌、塩の味みたいな印象を受けました。それぞれが個性的だけどルーツとなる味は同じという」
「ちなみに発売以来、しょうゆ味とみそラーメンは、さらにおいしくするために若干の変更がありましたが、塩らーめんは全く味が変わっていません!」
「え!定番商品とはいえ、少しずつ味を変えないと時代に置いていかれるものだと思っていました。45年も味を変えずに売れ続ける商品というのもあるのですね」
「サッポロ一番のラーメンで欠かせないのが、別添の調味料です。醤油味のスパイス、みそラーメンの七味、塩らーめんの切り胡麻。これによって井田が理想とする味の再現度がグッとアップしました。実はこれが大きかったのかもしれません」
「これがないと絶対にダメだと、私も思います」
「たとえば塩らーめんだったら、この切り胡麻が入ることで、目をつぶっていても、その香りでサッポロ一番の塩らーめんだな~ってわかると思います。お客様にアンケートをお願いすると、この別添がなくなったら買わない!っていうヘビーユーザーさんがたくさんいらっしゃいました」
群馬の『おっきりこみ』がサッポロ一番のルーツでは?
「サッポロ一番といえば、他のインスタントラーメンに比べて、具だくさんにして作ることを推奨しているイメージがあります。♪ハクサイ、シイタケ、ニ~ンジン~っていうCMもありました」
「そうです。開発の段階から、野菜を足しても負けない美味しさを目指して作っています。発売開始当時はインスタントラーメンが今以上に栄養の偏りがちな食べ物というイメージが強かったので、ぜひたくさんの野菜と一緒に食べてもらいたいという希望がありました」
「完成したラーメンに乗せるトッピング方式ではなく、麺と一緒に具を煮ても大丈夫ですか?」
「大丈夫です!もともと香味野菜の効いたスープなので、野菜を入れても薄まらず、相乗効果でより美味しくなると思いますよ。おかあさんが子供に作る時も、インスタントでも具だくさんなら、ちゃんと料理したよっていう感じがでますよね。各家庭にあるオリジナルのサッポロ一番レシピを食べて育ったという方も多いようです」
▲ためしに冷蔵庫にあったピーマンやレタスなども入れてみましたが、まったく問題なし。
「これは私の推測なのですが、サンヨー食品さんが生まれた群馬は、麺類といえばおっきりこみ(山梨名物のほうとうのようなもの)であり、たっぷりの野菜とウドンを煮込んだものを毎日のように食べていたという方も多かった土地です。この麺と野菜を一緒に煮るのが当たり前の食文化が、どんな具とも合う懐の深い味を井田さんに求めさせた一因ではないでしょうか。『サッポロ一番=現代版おっきりこみ説』です」
「なるほど。もしかしたら群馬という土地とサッポロ一番の味は、リンクしているかもしれませんね」
「ありがとうございます。今日はこれがいいたかったんです」
禁断の売り上げランキングを発表!
さあここからは、読者のみなさんが一番気になっているじゃないかという点を聞いていきましょう。
「ズバリ、一番売れている味はなんですか?」
「詳しくは企業秘密なのですが……特別に言える範囲でお話させていただきます。全国のトータルだと、塩らーめんとみそラーメンがデットヒートなのですが、みそがやや有利ですね」
「おおお。私の個人的な調査では塩が一番人気だったのですが、みそが一位なんですね。ちなみにしょうゆ味の人気はどうですか?」
「他社様にライバルがいっぱいいるので、ちょっと不利なところがありますね。それに対して、サッポロ一番のみそラーメンと塩らーめんは、長年ライバルが不在ですから」
「たしかの味噌味、塩味のインスタントラーメンは、他にパッと思いつかないです。醤油はいくつもありますが」
「ただ、うちのしょうゆ味が好きだという人は、いろいろな味を試した結果、やっぱりサッポロ一番のしょうゆ味だよね!と戻ってくるコアな方が多く、あまり具を足さずに、そのままの味を楽しむ傾向があるようです」
「釣りでいうとフナみたいですね。しょうゆ味にはじまり、しょうゆ味に終わると。私の友人にも、熱烈なファンがいます。わかっている人はしょうゆ味なんだと、熱く語っていました。ところで地方ごとに味の好みの差ってありますか?」
「まず関東ですが、しょうゆ味の割合が比較的高いものの、やっぱり一位はみそラーメン、僅差で二位に塩らーめんですね。東北地方も同じ順位です。ちなみに千葉ではアラビアン焼きそばがなぜかよく売れています」
▲これもサッポロ一番のシリーズだったのか!
「大阪、名古屋に行くとこのバランスが変わって、塩らーめんがちょっと強くなります。塩が一位で、みそ、しょうゆの順ですね。どの地方でも塩とみそはデットヒートではあるのですが、エリアによって順位が入れ替わるんです」
「へー。名古屋はみんなみそ好きかと思ったら、サッポロ一番は意外と塩派が優勢なんですね」
「そして中国、四国、九州にいきますと、みそラーメン、塩らーめんの順なのですが、しょうゆ味の販売がなくなります」
「しょうゆ味、売ってないんですか!オリジナルのサッポロ一番なのに!」
「西の方はごまを好まれる方が多いので、ただの醤油ラーメンではなく、ごま油と白と黒の切りごまを別添した『ごま味ラーメン』が販売されています。関東ではなかなか手に入らないですが、香りがしっかりしていて、おいしいんですよ!」
「ごま味ラーメン!それはサッポロ一番だけでなく、ラーメン全体として初めて聞きました。ごまダレではなく、ごま味なんですよね。お煎餅みたいだ」
「ベースはチキンエキスの醤油スープです。西の人にとっては、サッポロ一番といえば、みそラーメン、塩らーめん、ごま味ラーメンが当たり前だから、普通のしょうゆ味を知らないかも。とんこつや塩とんこつ、ちゃんぽんといった味も人気ですよ」
「なるほど。地域の好みに合わせて、商品展開も変わってくるのですね」
▲ごま味ラーメン。パラレルワールドのサッポロ一番みたいだ。
▲サンプルをいただいたので試食しました。なんだかドキドキ。
▲ごま味だけに、ごま油の香りがしっかりとします。
▲黒と白の切りごまをかけることで、さらにごま感がグーンとアップ!お土産にいいかも!
「では最後に、サッポロ一番の味のふるさとともいえる、北海道ではどうですか?」
「北海道ですか……。今よりもさらに頑張って、地域発祥の味を道民の皆様に楽しんでいただきたいと思います!」
▲夏の暑い日は、冷やして食べるスタイルがオススメとのこと。恐る恐るやってみましたが、確かにうまかったです。北海道のみなさん、どうですか?
ということで、聞きたいことを全部聞けて、とっても満足なインタビューとなりました。ちなみにこのインタビューの後は記事用の写真撮影のためにサッポロ一番を食べまくりましたが、まだ全然飽きていません。
そして「どの味が一番好きなのか?、『推し麺』はどれだという自分への問いに関しては、未だに答えは見つかっていないのでした。
▲水谷さんの簡単でお気に入りのトッピングは、みそラーメンにポテトチップスだそうです。
プロフィール
玉置豊
趣味は食材の採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は古い家庭用製麺機を使った麺作りが趣味。