こんにちは、松澤千晶です。アニメは食の如き我が身を形成するもの……ということで、ぐるなびにも関わらず、不躾に丁寧にアニメを紹介するこちらのコーナー、第2回がやってまいりました。
しかしながら、決して好きの押し付けにはならぬよう、ある人にとっては共感であったり、ある人にとっては発見であったり、そういった憩いの場を目指し、思いを綴らせていただけましたら幸いです。
早速ですが、皆様、この時期になるとお食事と共にお酒を嗜む機会が多いことでしょう。程々にしておきたいと思いつつ、お酒は日常のワンシーンを彩る重要な存在……そこで今回ご紹介したいのが、お酒と共に味わいたい名作『銀河英雄伝説』です。
銀河英雄伝説とは
『銀河英雄伝説 Blu-ray BOX スタンダードエディション 1』(販売元:ポニーキャニオン/発売元:徳間書店)
ご覧になったことがなくても、耳にしたことがある方は多いでしょう。最近では、アニメ化されたアルスラーン戦記も手掛けられました、作家・田中芳樹さんによる未来の銀河系を舞台にした歴史小説です。
1982年から始まった原作小説を皮切りに、漫画化(コミカライズ)はもちろん、1988年から2000年にかけてアニメ化され、ゲーム、舞台、そして最近では、封神演義などで知られる(←重要)藤崎竜さんによる再度のコミカライズも始まり、2017年には再びアニメ化されることも発表され……未だ衰えることなく愛され続けている作品です。
私自身、幾分大人になってから触れたもので、当時から精通されたファンの皆様に比べると青二才のような部類かもしれません。しかし、一度触れたその日から、時間を見つけては貪るように摂取を続け……この溢れ出るパッションをどうしたら……という次第で今日に至ります。
この作品の魅力はなんといっても、キャラクター、ストーリー、アニメ作品においては銀河声優伝説とも言われるほどの贅沢なキャスト、そして時に台詞の如く語りかける、クラシックをふんだんに使った音楽まで……嗚呼、何ということでしょう……全て良いではありませんか。
簡単にご説明しますと、長く王朝を築いてきた君主制の銀河帝国と、それに反して民主制を訴える自由惑星同盟の戦いで、帝国側のラインハルト、同盟側のヤン・ウェンリーという2人の主人公を軸にした物語です……が、こんな簡単な説明で終わるものですか!この作品には数多くのキャラクターが登場し、毎回登場するようなメインキャラクターだけでも50人以上……初めは混乱するかもしれませんが、回を増すごとに一人一人が唯一無二の存在となり、その名の通り「銀河」の『英雄』たちの「伝説」となるのです……!(またこの解説ですか……)
この物語の何が良いかというと、キャラクターがきちんと生きて、きちんと死ぬこと。全員ではありませんが、戦争ですから重要なキャラクターも死んでゆきます。特に私の好きなキャラクターは悉く死んでしまいます。しかし、そこに命と魂を感じるのです。
そして、善とは何か、悪とは何か。民主制は善の象徴のように謳われていても、それが正常に機能しないものならば…君主制は独裁政治で悪のように扱われたとしても、優れた善良な指導者の下ならば…それでは、善良とは一体何なのか……と、普段はじっくりと考えることのない政治や社会について、キャラクターたちがその身を挺して教えてくれるのです。
スペースオペラと言われているものの、大河ドラマのようにも感じられ、歳を重ねてゆくキャラクターたちが、まるで親戚を見ているかのように思えてくるほど。
帝国のラインハルト側から見ると、個人の信念が国をも動かす復讐劇のようにも感じ、下剋上の定番と言いますか…最近の作品ですとコードギアスなどをお好きな方はとても楽しめると思います。
一方、争いを好まず、誰よりも平和を愛するヤン・ウェンリーは、その平和を守るために戦います。ペンは剣よりも強しと言いますか、わかりやすく例えると三国志の諸葛孔明(諸葛亮)のような存在で、ヤンの視点で見るとラインハルト側とはまた違った物語も見えてきて、おそらく、どなたでも入り込めることでしょう。
他にも魅力的なキャラクターが大勢いるのですが、個人的に、ラインハルトに仕え、帝国軍の双璧と呼ばれるロイエンタールとミッターマイヤーが大好きです。この2人にまつわるエピソードは…そう、お酒が進むのです。
お酒と共に…
この作品では、度々、キャラクターがお酒を嗜んでいるシーンが見受けられます。
時に勝利の美酒であり、誓いの盃であり……作中では帝国軍がドイツ式の乾杯(プロージット)をして、飲み干したグラスを床に叩きつけるという儀式のようなものを行なっていますが、これは原作小説ですと「無数の星のかけらが床の上を華やかに乱舞した。」という表現になっているもので……素敵ですね、私もいつか部屋中を星のかけらで埋め尽くしてみたいものです。そして、個々でもお酒を嗜むシーンが数多くあり、前述した双璧と呼ばれる2人も、事あるごとにグラスを交わし、親睦を深めてゆくのです。
ヤン・ウェンリーに至っては考え事が捗らない時などは、紅茶にブランデーを入れて嗜まれていますが、これを真似てみたところ、なんと美味しいこと!
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、こういったものは一般的にスピリットティーと呼ばれていて、ブランデーはもちろん、ウイスキーやラム酒などを紅茶に入れて、香りを楽しみながらいただくものです。海外では広く嗜まれているようで、日本でも70年代に流行したそうですよ。
紅茶はどんなものでも、可能であればクセのないものがベストで、本来ならばスプーンに適量……ですが、私はヤン提督の如くたっぷり注いで、ブランデーの紅茶割りという形でいただいています。
アルコールが苦手な方は、ブランデーをしみこませた角砂糖に火を付けてアルコールを飛ばした、ティー・ロワイヤルもおすすめです。
また作中では、ホットパンチという飲み物も出てまいりまして…こちらはワインに同量の水を加え、ハチミツとレモン汁、お好みでシナモンスティック等を入れて温めたものです。
温かいアルコールというものは熱燗やお湯割りが一般的ですが、ブランデーやウイスキー、またワインをこうしていただくのも、この時期ならではの味わいかもしれません。
とにかく体が温まり、寝つきが良くなりますよ。
ここまでお話したところで……そろそろ、お酒と共に、銀河英雄伝説そのものを嗜みたくなってきたのではないでしょうか。
原作小説では 本編10巻+外伝5巻(出版社により異なりますが、概ねこのくらいの巻数)で、アニメ(OVA)ならば本編110話+外伝52話そして劇場版3作品……と、こうして書き出すとかなりの長編に思われますが、どのような作品でも初めは1話のみ。それが必然的にたまたま続くだけです。
小説ならばまずは1巻、アニメならば1クール分くらいをご覧になってみてはいかがでしょう。年末年始、お酒と共に心底浸かるのにピッタリですよ。
そして年が明ける頃には、あなたの心の銀河の歴史が、また1ページ……
それでは皆様、良いお年を……!
著者プロフィール
松澤千晶(まつざわ・ちあき)
フリーアナウンサー。
深夜アニメはリアルタイムで見るよう心がけています。