東京ではここでしか食べられないお肉「みなせ牛」
東京周辺のエスニックな肉料理を食い尽くすこの連載「東京エス肉めぐり」第11回は、この広い東京でも、ここでしか食べられないという幻の牛「みなせ牛」を使った各国料理が楽しめる門前仲町の新店「カルネトライブ」で、口の中でホロホロにトロける黒毛和牛を存分に味わい尽くそう!
イタリア語で「肉」を意味する「カルネ」に、英語で「部族」を意味する「トライブ」をくっつけた「カルネトライブ(肉部族)」という名前、まさにエス肉の使徒のためにあると言って過言ではない! 早速、門前仲町の駅近くに9月16日に開店したばかりの新しいお店を訪れた。
コンクリート打ちっ放しの店内には、中央に高めのバーテーブル席が並び、右側が通常のテーブル席、左手前にはワインセラーとソファ席があり、中央奥にはドリンクカウンター、そして左奥の厨房はガラス張りになっている。
僕は午後7時10分前に到着したが、直後から予約のお客さんが次々と現れ、7時10分までに30席ほどのお店が満席になってしまった。若いオーナーの黒島努さん自らテーブルを回って注文を取り、ほどなくして、ガラス越しの厨房からは肉を焼く香りと煙が上がり始めた。とにかく若々しく活気のある店だ。
豪快な盛り付けと繊細な味付けの前菜盛りが登場
早速、樽生スパークリングワインで乾杯しているとキタ~! おすすめの前菜「カルネトライブ盛り」。自家製のロースハム、ポーク・パテ、ポーク・リエット、さらにサラミとパルマの生ハムが一皿にこんもりと盛り付けられている。淡いピンク色のロースハムはぶ厚く切られていて、噛むごとに肉汁が楽しめる。うん、イイ肉! パテとリエットは豪快な盛り付けとは裏腹に、意外なほど薄味だ。
「シェフの古藤はフレンチ出身で、元々は強めの味が得意なんですが、お肉の素材の良さを引き出すことを第一に考えています」
たっぷりの肉汁がトロトロの肉の中からはじけだしてくる
次はお店一番の人気メニューという「黒毛和牛のハンバーグ」。熱々の鉄皿の上に表面に平行線の焼き目が付いた大きな俵状のハンバーグ、それを黒島さんが目の前で縦半分に切り分けると、中はレア状態。その断面を鉄皿に向けて「ジュワ~」っと熱を通す。
「お好みの焼き加減でどうぞ。ハンバーグはランチでも出していて、当店の定番メニューなんです。お客さんにしても、ハンバーグなら他のお店のものと比較しやすいのでしょう。当店の肉の品質を知っていただくには一番です」
折角なのでミディアムレアくらいの焼き加減でいただく。口の中に一口入れると、ホロホロというよりトロトロ! たっぷりの肉汁がトロトロの肉の中からはじけだしてくる! 美味い! なんだこの食感は? これが黒毛和牛というものか! すりおろした玉ねぎの入った甘いしょう油ベースのソースが添えられているが、こんなに美味い肉にソースは要らないくらいだ。
続いては「みなせ牛のたたきとパクチーのサラダ」。フレッシュな香菜とクレソン、トマトの上にたたきにしたみなせ牛の薄切り、カリカリのフライドオニオンがふりかけられている。旨味たっぷりの肉の脂が味の強い緑黄色野菜と相性バッチリだ。
みなせ牛について調べてみます
これが自慢のみなせ牛か……と納得してみたものの、正直言うと、みなせ牛という名前を聞いたのはこの日が初めてでした。勉強不足ですんません! そんなわけでその場でスマホを使ってみなせ牛について調べましたぁ。
みなせ牛は秋田県南東部の内陸にあるかつての皆瀬村、現在の湯沢市の牛肉肥育農家一軒のみが扱う約250頭の希少な黒毛和牛を指す。奥羽山脈の栗駒山麓と皆瀬川に囲まれた豊かな自然の中で育てられ、適度な脂ととろけるような柔らかい肉質で知られる、とのこと。それにしても、なぜそんな希少な牛を秋田から遠く離れた門前仲町で比較的リーズナブルな値段で出せるのだろう?
「実は僕の叔父がみなせ牛の生産者なんです。3年前に親戚の集まりで叔父に会って、初めてそのことを知ったんです。そういえば、小さい頃に叔父の家に行くと、牛肉がやたらと美味しかったなあと。その後、何度も足を運び、牛を育てる現場を勉強しています。でも、生産が需要に追いついていないので、秋田市内だけで消費されてしまうんです。なので東京ではうちだけが扱っています」
なるほど親戚ですか。東京エス肉めぐりの取材を続けていると、偶然や必然の「ご縁」が元となって、商売を興した人ばかりに本当によく会う。しかし、ご縁を引き寄せるのもその人やお店が持っている不思議なパワーなのだ。
ここで、お店がみなせ牛とともにプッシュしている国産ワインをボトルでいただいた。山形県の赤ワイン、「エクセラントかみのやまカベルネソーヴィニョン」。当然、薄口で酸っぱいワインだと思っていたが、予想を覆すミディアム・ボディの懐深い味わい。国産ワインも色々あるなあ!
「海外のワインのほうが上と言われますが、日本のワインの質も上がっています。それをもっと広めたいですね。ワインセラーにも日本のワインが揃っていますから、是非覗いて行って下さい」
口の中で重力が失われ、肉が自由落下していくぞ!
そして、おまたせしました! みなせ牛のステーキとカツレツの登場! 本来はステーキかカツレツのどちらかを選ぶのだが、”どちらも食べたい!”と頼んで、ハーフサイズずつ両方を出してもらうことにしたのだ。部位はリブロース。
「正直に言いますと、今日のお肉はA4等級です。牛はその都度送ってもらうので、入ってくる等級も部位も日によって異なります。A5の時もあればA4の時もあるんです」
何をおっしゃる! 国産牛にこれまで全く縁もなかったオレに(それでも美味い肉は沢山食べてきましたが)、A4は上等すぎますよ。まずはステーキからいただきます。うわ~、これも噛んだ瞬間から、口の中でとろけ始める~。口の中で重力が失われ、肉が自由落下していくような……。それでいて、肉の旨味が強いので、味付けはイギリス産の塩を肉の端にちょこっと付けるくらいで充分。同じくリブロースのカツは衣が付いているので、わさび醤油でいただこう。
めくるめく肉のパレードはまだまだ続く。次は「地鶏、八幡平ポーク、牛ハラミのステーキ三種盛り合わせ」。からりと揚がったフリットの上に、焼き目が格子状に付いた大きな肉塊が三枚ドーンと! 地鶏は柚子胡椒、八幡平ポークはハニーマスタードソース、そして、ハラミのステーキはすりおろした玉ねぎのしょう油系ソースがかかっている。三種類どれも美味すぎて、またしても一気に食べきってしまった。つーか、ますます食欲が出てきたのは気のせい?
それならば、ぶっとい「羊のサルシッチャ」(腸詰め)や「牛レバーのグリル」、締めの「土鍋ご飯 炊きたてあきたこまち」も行っちゃうか!
どうやら、美味い肉をムシャムシャと食べて、美味しい国産ワインをガブガブと飲むことで、気分がハイになり、つい頼みすぎた。黒島さん、そろそろお勘定!
「肉は気分が上がるし、元気が出る。ワインでもビールでも日本酒でも合う。僕も古藤も門前仲町の近くで育ったんです。門前仲町はオフィス街だと思われがちですが、土日も賑わい、富岡八幡宮のお参りの方も多いんです。そんな町でみなせ牛と日本のワインを気軽に楽しめる肉バルとしてカルネトライブを始めました。ゆくゆくはカルネトライブの焼き肉屋、総菜屋、ハンバーグ屋と、門前仲町にいくつもの〈肉部族〉の専門店をやりたいですね。とことん、肉にスポットを当てていきますよ!」
紹介したお店
Carne Tribe(カルネトライブ)
住所:東京都江東区門前仲町1-9-7 LINKS仲町1F
TEL:03-6458-5856
プロフィール
サラーム海上 Salam Unagami
音楽評論家/DJ/中東料理研究家。肉食。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽と料理シーンをフィールドワークし続けている。活動は原稿執筆のほか、ラジオやクラブのDJ、オープンカレッジや大学での講義、中東料理ワークショップ等、多岐にわたる。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』(双葉文庫)、『21世紀中東音楽ジャーナル』(アルテスパブリッシング)ほか。朝日カルチャーセンター新宿にて「ワールド音楽入門」講座講師、NHK-FM『音楽遊覧飛行エキゾチッククルーズ』のDJを担当。中東や東欧の最新音楽をノンストップDJ MixしたCD「Cafe Bohemia~Shisha Mix」(LD&K)も発売中。www.chez-salam.com
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