湘南藤沢辻堂にあるトンカツの名店「大関」に行ったのは11月29日が「いい肉の日」だからではなく、妻の誕生日だからだ。年齢は個人情報に当たるので公表は差し控えさせていただくけれども。トンカツの名店大関といえば藤沢エリアでは大変メジャーなお店。しかし僕が訪れるのはなんと20年ぶり。お店のメジャーさが、ひねくれ者の僕が足を運ぶのを躊躇わせていたのだった。それでも仕事で店の前を通ることも多いので、とんかつ大関はいつも僕の心の片隅にあり続けていた。
「この不景気。倹約家の君のことだ。誕生日は近所のファミレスでいいよね?」僕が言うと妻はテーブルに置いてあった蜜柑に伸ばしていた手を止めた。それから彼女はまるでリビングにある全部の空気を吸い込むように大きく息を吸い込んでから答えた。「冗談はやめましょう。せっかくの誕生日ですから美味しいトンカツを食べさせて」美味しいトンカツといえば……「大関」。こうして僕らは憧れの大関へ向かったのである。
JR辻堂駅から徒歩で向かった大関は大盛況。満席。20年前もレジにいたおじさんが時間が止まったようにそこにいた。メニューを見ながら「誕生日だから何でも好きなものを頼みなさい。一番の売れ線の普通ロースでいいよね」と言うと、結婚五年目の積み重ねてきたもの、こういうのを以心伝心というのだろうね、妻は「特ひれかつ定食にします」と言った。
負けたくないので僕も通常のロースではなく特ロースかつ定食を選び、おばさん店員にオーダー。するとおばさん店員は「【特】は10数分、お時間をいただきますがよろしいでしょうか」などと神妙な顔で言うものだから俄然高まる期待。
そういえば人生で初めての特ロースかつ。僕は遂に特ロースに到達したのだ。感慨にうち震えていても当のトンカツが出てこない。後から頼んだ通常ロースが先に出ているというのに…。せっかちな僕は首を伸ばしたり、腕を回したりしてアッピールしたけれども年配の方を揃えた店員スタッフはそんな僕を見ても顔色ひとつ変えない。
見かねた妻が何かに気づいて僕に言う。「みっともない。落ち着いてください。あれを見て!」妻が指した先にはキャベツが大量に盛り付けられた、お肉を待つ皿の群れ。意味が分からないので「意味がわからない」とそのまま発声すると妻は「私たちの『特』は特別の『特』!見て!私たちの器だけ、キャベツだけでなくトマトとキュウリで出来た角が生えてます」確かに二皿だけキュウリの角が生えている。その他の皿にはキュウリがない。キュウリで優越感をくすぐられて怒りが鎮まってしまう僕は まだ特ロースにふさわしい人間ではないのかもしれない……。
すげえ!『特』だけに許されたそそり立つようなキュウリ!
「お待たせいたしましたー」の声でトンカツ到着。特ロースかつ定食と特ひれかつ定食である。超肉厚、かつ箸でつまむとプルプル震えるくらいの柔らかさ。食らいつくと思った以上に柔らかい。見た目は濃厚だけれども油がいいのかまったく重くない、それでいてお肉が甘くて美味しかった。
僕は脂が苦手で速攻でお腹が痛くなってしまう体質なんだけど、こちらの脂はジューシーでとても食べやすくお腹が痛くなることもなかったので脂が苦手な人でもオススメ出来る。「せっかく特ロースかつと特ひれかつ、二種類を頼んだのだから」と、ひれかつを一切れ強奪。特ひれかつがこれまた肉肉しくて食べごたえがありつつ柔らかいので食べやすい逸品なのであった。
あっという間に完食、した瞬間に、神の仕業だろうか、店内に流れていたNHK「のど自慢」の鐘がカンカンカンカンと鳴り響いて合格感がマジでハンパなかった。妻も大満足だったようで「美味しかったー。今度は特ロースかつ食べよー」と言うので「いや先ずは定番の普通のロースかつを食べてからにしようよ」と貧乏臭く言い返しておいた。はやく特ロースかつ相応の人間になりたい!とんかつの「大関」超オススメです。
特ロースかつ定食と特ひれかつ定食を注文。特盛合せが気になる。
特ロースかつ定食の圧倒的な存在感。
特ひれかつ定食の神々しさたるや。きゅうりが「特」のしるし。
大満足のボリューム。
きゃべつの大盛りは正義!
主張しまくるロースかつ。
肉の厚みを見よ!
がまん出来ずに写真撮る前にかじってしまったヒレかつ君。
サイコー!
今回のお店
書いてる人
フミコフミオ
海辺の町でロックンロールを叫ぶ不惑の会社員です。90年代末からWeb日記で恥を綴り続けて15年、現在の主戦場ははてなブログ。内容はナッシング、更新はおっさんの不整脈並みに不定期。でも、それがロックってもんだろう?ピース!
ブログ「Everything you've ever Dreamed」:http://delete-all.hatenablog.com/
ツイッター:https://twitter.com/Delete_All