どうも、料理芸人のクック井上。です!
先にいっておきます。この記事、単なるグルメ記事じゃございません…。途中から、ほぼ「ザ・ノンフィクション」or「プロフェッショナル 仕事の流儀」or「情熱大陸」の様相を呈してきますので、ご留意のほどお願いします…!
では、参ります!
さて、ラーメンで“二郎”といえば「野菜マシマシ、ニンニク」のガッツリ系ラーメンですが、最近、ステーキ界にも“二郎インスパイア系”の風が吹いているのをご存じでしょうか?
今回は「もしかしたら、これからはこのお店が日本のステーキ界を牽引するかも…!?」というステーキ屋さんを紹介しちゃいます。
新小岩にある「コメトステーキ」。単なる二郎インスパイア系だと思っていた…
やってきたのはコチラ。
JR総武線新小岩駅から歩くこと14分。2019年12月にオープンした「コメトステーキ」です(3月に取材しました)。
お世辞にもアクセスがよいとはいえない立地条件ながら、連日、大盛況とのウワサが。
飾り気のない店構えだけど、「ただのステーキ屋ではない」感も滲んでおりますね。いざ、お店のなかへ!
券売機のメニューは、とてもシンプルなラインアップ。
とりあえず、初めて訪れた食券式のお店では“左上を買え!”で。
「米とステーキ」をプッシュ!
カウンターに腰かけると、店主がおもむろに肉を取り出します。
そのドーンとした大きさに、アドレナリン大放出!
はい、ドォーーーン!!
重さはなんと、1ポンド(450g)!! 指定するまでもなく、最初から肉がマシマシだ~♪
たかまるドキドキ&ワクワクをおさえつつ、カウンターで固唾を飲みながら見守るとしましょう。
フライパンに肉を置き、銭湯の親父がごとき気配りで、火加減の調整をする店主。
肉をひっくり返すと、しっかりとしたメイラード反応(焦げ目)がお目見えです。
嗚呼…もう見ているだけでご飯3膳はイケる気がします!
肉を焼き終えたら、お次は肉の旨味を携えた同じフライパンで、サッともやしを炒めます。
肉の旨味がもやしに絡む! 炒める音が空腹感を刺激する!香ばしい香りが店全体を一気に包みこむ!
最後に「ジューーーッ!」という音を軽やかにたてながら、ステーキの上にもやしをのせて、着皿。
うぉー! なんじゃこりゃー! 横からから見ると、この高さ。
“二郎インスパイア系”のウワサにたがわないルックスです。
※ちなみに、写真はヤサイ&ニンニク増し(無料)。食べきることができる量でオーダーしましょうね。
肉に寄り添っているのは…
二郎系ラーメンのトッピングでお馴染み、ニンニクのみじん切り。
それに加えて、他のお客さんが軒並み頼んでいた青唐辛子(100円)もプラス。
くぅー、そそるねぇー♪
ほどなくして、炊きたてホッカホカの白飯も到着。
…って、おい米! おぬしツヤッツヤやないかーーーい!!
実にうまそうな白飯です。
さらに、ご飯の大盛も無料となっております。こちらも“増し”的なのねー。太っ腹だねー。嬉しいねー。
もうたまらん! さっそく「米とステーキ」を喰らおうぞ!
まずは、ステーキ入刀。
おー、レアとミディアムレアのちょうど間くらいで、最高の焼き具合だ。
いただきまーす!
噛むごとに染み出す赤身肉の旨味&肉汁…サイコーーーーーーー!
実に素晴らしく、しっとりジューシー&香ばしく焼きあがっております!
いいね、いいね、いいね、いいね、いいーね!
よし、次はこんな食べ方。
「米とステーキ」というからには…米にドーンとのせてみなくちゃね。
肉×青唐辛子×ニンニク×もやしを、お口の奥地にズキューン。
モグモグモグ…。
やべー、生のニンニクとシャキシャキもやしが、まさにあの“増し増し”感で迫ってくる。最高♪
青唐辛子の爽やかなピリ辛感も合うなぁ。
そして、肉の旨味もさることながら、お米もふっくら甘くて一級品。
嗚呼、米が止まらんぞーーー! といったところで店主から、オススメの食べ方が。
“皿にある肉汁をご飯にぶっかけて食べると最高”
とのこと。
なんだなんだ、その美味そうなの! やってみましょう!!
ご飯のくぼみに肉汁を吸わせるもよし、ご飯を肉汁につけるもよし…。
とにかく、肉汁×ご飯で食べるのだ! それでは、いざ尋常に……。
ふほぉぉおー、アカン、これはご飯泥棒オブザイヤー受賞やわ~!!
肉汁にはニンニクのエキスも染み出していて、もうこの肉汁を瓶詰にして売り出してほしいくらい。
これは無心に食べ進めてしまう。脳ミソなんか通さず、本能のままに食べ進めて、腹パン完食。大満足♪
これほどの傑作を生みだした店主とは、一体どんな人物なのでしょう…。
すいませーん。
照れくさそうに顔を見せてくださったのは、店主の大曽根さん。
いろいろとお話、聞かせてくださーい♪
ここからは、ほぼ「ザ・ノンフィクション」or「プロフェッショナル 仕事の流儀」or「情熱大陸」です!
2年前に生家の米屋が倒産したんです
店名の「コメトステーキ」についてですが、お米に特別なこだわりなどがあるのでしょうか?
お米の種類も、炊き方もこだわり抜いてます。実は僕、元お米屋なんです。
えっ、そうなんですね!? お米屋さんは辞めてしまったんですか?
辞めたというか、倒産したんです。もともとは親父が、昭和60年(1985年)にお米の小売りを始めたんです。でも、平成11年(1999年)6月の終わりに、父親が脳梗塞で倒れまして…。なんとなく子供のころから「自分は長男だし、店を継ぐことになるんだろうなぁ」とは思っていましたが、そのタイミングがあまりにも急で、最初は精米機などの動かし方すらわからない状態。けっこう大変でした(笑)。
それからも経営は厳しかったので、平成23年(2011年)、父親が亡くなったタイミングで店を閉めようと考えました。ただ、弟が「俺が外で働いて支えるから、もう少しやってみたら?」といってくれたので、なんとか悪あがきを続けたのですが…。結局、平成30年(2018年)4月に、いよいよ金融機関からも融資を受けられない状況になり、倒産しました。
なるほど……。ご苦労なさったんですね。昨年、お米屋さんを辞めてすぐにステーキ屋を始めようと思ったきっかけは何ですか?
倒産が決まった一昨年の4月に、普段からお世話になっている知人が心配して連絡をくれまして、その夜に会うことになりました。その方のアドバイスで勇気が出て、“よし、ステーキ屋でいこう!”と決心しました。
人生を変えるほどの決心をさせるとは、その方、タダ者じゃないですね。占い師とか?
いえ、ラーメン屋を営んでいる方です。優しくもあり、厳しくもあり、兄貴みたいでもあり、父親みたいでもあり、師匠でもあり…言葉では簡単にいい表せないくらい、人生の恩人です。
そこまでいわせるなんて、きっと素敵な方なんだろうなぁ。そのラーメン屋さんは、どちらですか?
「ラーメン凛 砂町店」です。店主は國分さんといいます。
どん底を経験した元お米屋が、知人のラーメン店主のひと言で、ステーキ屋として再出発。
そして、開店からほどなくして話題の人気店に!
お米屋、ラーメン屋、ステーキ屋…情報量が多過ぎてよくわからないけど、大曽根さんの人生をV字回復させたそのラーメン屋の店主さん、絶対にただ者じゃない! その方に会ってみたい!
ということでやってきました、「ラーメン凛 砂町店」
おっと、さっそく「コメトステーキ」の貼り紙を発見。
ご自身のラーメンのことより、大曽根さんのお店を目立つところで宣伝するなんて、その心意気が憎いです。
ますます興味が湧いてきたぞ! どんな方なんだろうなぁ…。
お、あの男性が國分さんだろうか?
「ごめんください! 仕込み中に失礼します。クック井上。と申します!」
「大曽根さんから聞いてますよ。國分です!」
この方が國分さんか! 兄貴&父親&師匠&恩人感あるわぁ…。貫禄と包容力が滲み出てる!
ぜひ、お話を聞かせてください!!
大曽根さんが「國分さんからのアドバイスで勇気が出て、ステーキ屋でいこうと決心した」とおっしゃっていました。
お米屋さんを畳まなきゃならないかもしれないということを知り、「何やって生きていきたい? 直球でごめん」とメッセージを送ったんです。そして、その日の夜に会い、どんよりしている彼に「自分のルーツである米を活かせるお店がいいよ」とアドバイスをしたんです。
お米屋さんをやめなければならない大曽根さんに、“お米を活かせるお店”とは、また、どういうお考えだったんですか?
お米を大事にすることで、親孝行もできる。だから“自分のルーツである米を活かせるお店”を提案しました。
なるほど。でもそこから、どうしてステーキ屋になったんでしょう?
僕、もともとはイタリアンのシェフだったんですけど、うちの店の営業終了後、よく仲間を招いて、いろいろな料理を振る舞っていたんです。大曽根さんも、そんな仲間のひとりでした。ステーキも頻繁に焼いていたんですが、そのステーキがとてもお米と合うんですよね。それで、彼と話をしているうちにピンと来た。「よし、ステーキでいこう。ステーキと美味しいお米の組み合わせだけで実際に成立するか、うちのお店で、試しに1日限定のステーキ屋をやってみよう!」と、彼を誘ったんです。彼も「ぜひ!」と。
即断即決、すごいスピード感ですね!
いざやってみたら、あっという間に売り切れてしまって、評判もすごくよかったんです。「これはイケる! どこにも絶対に負けない」と確信しました。彼が、美味しいお米を美味しく炊き、ステーキも彼が焼く。倒産して、マイナスからの再出発だから人件費はかけられないけど、この業態なら彼のワンオペでもできるはずだと。そこからの彼の努力はすさまじかったです。お米のプロなので、ご飯の炊き方はもともと一流でしたけど、お肉の焼き方はイチから勉強したんです。死に物狂いでやったと思いますよ。
本当に、一夜にして決断し、大曽根さんの人生の風向きが変わったんですね…
僕は知恵とアイデアを少し与えただけですよ。やったのは彼ですから。
本当に師匠ですね。あのステーキ、間違いなく美味しかったです! ところで、ステーキの見た目が“二郎”っぽく見えるのですが…あれも國分さんのアイデアですか?
実は、うちのラーメン屋が二郎インスパイア系なんです。それで、店に仲間が集まってステーキを焼いたときに、お店の食材のもやし・ニンニク・青唐辛子を添えてみた。そうしたら、とても美味しかったんですよね。意図的に「コメトステーキ」のステーキをインスパイア系にしたんじゃなく、うちで遊び感覚でつくっていたようなステーキなら、彼の炊く美味しいお米に合うんじゃないか?…という、商売の勘みたいなものです。
なるほど! 後付けで“狙った”わけじゃないっていうのがいいですね!
僕が学生時代にアメリカにいたとき、「Tad’s Steak(タッズステーキ)」というステーキハウスによく通っていました。安価で、1ポンド(450g)ステーキをお腹一杯食べさせてくれて、若い僕のすべての夢を叶えてくれた気がした。あの、安くて1ポンドガッツリというステーキ屋が、日本にはあまりない。だからイケると思ったんです。
そんな思い出が、「コメトステーキ」のモデルになっていたんですね! ちなみに、大曽根さんにラーメンを教えて再出発をさせる…ということは考えなかったのですか?
それをやるのは簡単です。しかし、もともとお父さんが始めたお米屋さんに誇りを持っているのを知っていたし、彼がお米屋さんをどうにか立て直そうと、とことんまであがいたことを知っていましたからね。“自分のルーツであるお米を活かせるお店”は絶対だろうと。そこには魂がありますから。
でも、魂だけでは商売にならない。そういうときに、やさしいだけの耳障りよいことばかり伝えても仕方ないから、本気でアドバイスをしました。そして、彼は行動した。 彼は真っすぐな男です。だから、本気でなんとかしてあげたいと考えた。人生で、そういう気持ちになるような縁は、なかなかないと思います。
アツい、アツいです(涙)。
あっ、そろそろスープができてきた…(仕込みの仕上げ中)
いい香り~♪ 國分さん、ラーメン一杯ください!
はい!
師匠のラーメン、楽しみだー!
「基本の普通盛りでいいかな?」
「はい、どうぞー!」
美味そう!! 見える…、國分さんのラーメンの向こうに、大曽根さんのステーキが…。
ステーキを感じつつ、ラーメンをいただきます!
美味い! 麺オブザイヤー受賞!! 「米とステーキ」を口にしたときと同じ感覚。無心に食べ進めて、腹パン完食、大満足♪
國分さん、アツいお話と美味しいラーメン、ありがとうございました!
ということで…再び「コメトステーキ」へ!
ビューーーーン! 到着。
「お米って、美味しいんだな!」と思ってもらいたい
大曽根さん! 國分さんに会って、このお店が生まれたときの話、聞いてきましたよー。めちゃめちゃアツい話でした! 商売っ気で、二郎インスパイア系を狙ったわけじゃなかったんですね。「コメトステーキ」の店頭の黄色いテントを見て、完全に二郎に寄せにいったものだと思ってました(笑)。
テントは、前に営んでいた米屋のときのままです。米屋が倒産してお金もないし、変えることができなかっただけで。たまたま黄色かったから、似ちゃいましたね(笑)。
すべてが導かれているようで、ばっちりハマっている。すごいことですよ!
本当にすべてが何かの縁だと思います。不思議なのですが、國分さんから「何やって生きていきたい?」と連絡をいただいて、すぐに会って、ステーキ屋で再出発を決心した日は4月12日だったのですが…その日は父親の誕生日なんです。
すごい…ドラマみたいだ。國分さんに加え、お父様の見えない不思議なお力もあったのかもしれませんね。ところで最近、「コメトステーキ」からインスパイアされたようなステーキ屋が出現しだした、という話を聞いたことがあるのですが、どう思いますか?
知ってますよ。でも、こういうのは別に著作権があるようなものではないですし、何とも思いません。ただ、うちはもともとお米屋。お米のクオリティも炊き方も、他のお店には絶対に負けませんし、お肉もいろいろと食べ歩きましたが、負けないと思います。
ストーリーも、思いも、素材のクオリティも負けないってことですね!
はい、負けません。お米は、僕がそのときに美味しいと思っている国産米を選んでお出ししています。お肉は、知り合いのお肉屋さんに目利きしていただいて、他店であればこの値段で提供するなんてありえないような、上質なアメリカ産肩ロースを卸してもらっています。本当に、まわりの方々に支えられていると思います。
周囲の人々に恵まれているのは、真っすぐな大曽根さんだからですよ。國分さんも、そうおっしゃっていました。 最後に聞かせてください。お店を通じて、いちばん伝えたいこと、そして今後の夢は何でしょうか?
「お米って、美味しいんだな!」と思ってもらいたいです。あと、まだ夢を語るほど地盤がしっかりしていないので、まずは1日1日を大事に、昨日より今日、今日より明日と頑張るだけです。そのうえで、おこがましいのですが、いつか國分さんのお店くらいの超人気店になりたいです!
しっかりと、穏やかな自信を持った目でそう語った大曽根さんの傍らには、こだわりつくしたお米の袋が置いてありました。 (普通のステーキハウスじゃありえない! いちばんコストを削るところだよなー)
今回の取材、最初は“二郎インスパイア系”のステーキとして、キャッチ―に取り上げるつもりでした。 でも、「コメトステーキ」は、単なる“二郎インスパイア系”ではなかった!
お米屋さんとして、お米を愛し、お米と向き合い、ときにお米に苦しめられ…。それでも、自分のルーツであるお米とともに生きることを選んだ男が、人生の師匠とともに生み出したのは、“1ポンドステーキとお米がW主演のステーキ屋”でした。
今回お届けしたのは、ただのグルメ記事ではなく…
「人っていいな!!」
そう思わせてくれるような、素敵な人生を垣間見るドキュメント記事でした。
人生を変える風は“いきなり”吹くわけではありません。
人と縁を大事にし、魂を込めて生きている人間に、人生の追い風が吹く…そう思うのです。
(編集:漆原直行)
紹介したお店
店名:コメトステーキ(KOMETO STEAK)
住所:東京都江戸川区松島3-34-13
営業時間:11:30~14:00 / 18:00~22:00
定休日:日曜日
店名:ラーメン凛 砂町店
住所:東京都江東区東砂1-6-8
営業時間:11:00~14:00 / 18:00~22:00
定休日:日曜日
著者プロフィール
フードコーディネーター・野菜ソムリエ・食育インストラクター・BBQインストラクター等、7つの食の資格を持つ料理芸人。 料理教室講師・食のイベントMC・レシピ開発・食品プロデュース等を務め、“最強料理芸人”の異名をとる。EX「『ぷっ』すま」やTBS「爆問パニックフェイス」の料理バトルでは優勝を果たしている。その他の出演歴は、NHK「グッと!スポーツ」・NTV「得する人損する人」・TBS「はなまるマーケット」・TX「TVチャンピオン極」等。
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