新型コロナウィルスの影響により、いまだ多くの人々が自宅中心の生活を余儀なくされています。
本連載では、気軽に外食ができないこんな状況だからこそ、料理の楽しみ、ひいては食の楽しみについて、東京・代々木上原のレストラン「sio(シオ)」でオーナーシェフを務める鳥羽周作さんと一緒に考えていきたいと思います。
連載二回目となる今回は、sioの人気テイクアウト商品「バインミー」の具材である「生姜焼き」。家庭の味としても馴染み深いメニューを一流シェフがアレンジすると、一体どんな味になるのでしょうか。その絶品レシピを紹介します!
▷材料(一人前) ・豚ばら肉(薄切り)…… 150g ■生姜焼きのタレ |
調理編
——鳥羽さん、よろしくお願いします!今回教わる「生姜焼き」ですが、厚めのロース肉を使うのが一般的だと思っていました。このレシピで薄切りの豚ばら肉を使うのは、なぜでしょうか?
なーんかねぇ! 何も考えずにロース肉を使うのは、単純に愛がないですよね!!
——(今日もすごい熱量だ)愛がない、と言いますと?
僕の独断かつ個人的な見解ですけど、良い生姜焼きって「じゃがいも抜きのカレー」なんですよ。
——じゃ、じゃがいも抜きのカレー? もう少し詳しく教えてもらえませんか?
カレーって余計なことを一切考えず、ルーとご飯を一緒にばくばく食べるのが一番おいしくないですか? でも、じゃがいもの“ごろっと感”は、そのテンポを邪魔してしまうんです。そこで僕は思うんですよ、「おい、じゃがいもコノヤロー」って。
——ルーとご飯を勢いよくかき込みたいのに、じゃがいもが邪魔しちゃうと。なんとなくわかります。
それと同じで「生姜焼き」も、ご飯と一緒にバクバク食べられるのが理想だと思うんです。でも、厚めのロース肉を使うと箸で切りづらいから、歯で食いちぎるみたいな食べ方になるじゃないですか。
——ああ、言われてみるとそうですね。
そうすると、食べるテンポが悪くなりますよね。それって食べる人に対して全然優しくないじゃないですか。愛がないんですよ!
——(ご飯とおかずを気持ちよくかき込むことへの情熱がすごい)
なので、今回紹介するレシピは正確に言うと「生姜焼き」ではなくて「生姜焼き・レボリューション」です。既存の生姜焼きに対する革命だと思って聞いてください。
——か、革命!? スケールが大きすぎて混乱してきたので、順を追って教えて下さい!
1.肉を6〜7cmほどの長さにカットし、玉ねぎはすこし厚めにスライス、キャベツは千切りにしておく。
では、早速作っていきましょう。まず下準備として、肉・玉ねぎ・キャベツをカットします。タレの調味料も、このタイミングで合わせておくのが良いですね。
——あれ、肉は薄めなのに、玉ねぎは厚めなんですね。
生姜焼きは、つい全体を炒め過ぎて食感が平坦になりがちです。そこで、肉の食感とのコントラストを作るために、玉ねぎは厚めに切るのがおすすめです。
——なるほど。玉ねぎのシャキシャキ感とお肉の柔らかさの差が良いと。
その一方で肉は火を入れると縮みます。なので、気持ち長めにカットすることで、一口で食べやすいサイズになりますよ!
2.油を引いたフライパンに豚ばら肉を入れ、色が変わるまで炒める
下準備が終わったら早速炒めていきましょう。生姜焼きはスピード感が命なので、手早くパッパッと進めていくことが大切です。
——肉を炒める時、なにか意識するべきことはありますか?
豚ばらを買った時、パックの中で肉が二つ折りになっていることが多いですよね。そのまま焼くと重なっている部分に火が入らなかったりするので、面倒臭がらず、肉を丁寧に広げてから焼いてください。また、しっかりフライパンの温度を保つために、あまりあおらずに箸で軽く炒めていくのが良いでしょう。
3.玉ねぎとタレを入れて軽く煮詰める
肉の赤身がある程度消えたら、玉ねぎを入れましょう。食感を残すことを意識しながら、透明になるまで炒めてください。そして、生姜焼きのタレを投入します。
——おお、タレが一瞬で沸騰しましたね。
ここで大事なのがフライパンの温度。目安として、タレを垂らした時に「ジュウッ」と音がなるくらい熱されているのがベストです。ここで火を入れすぎると玉ねぎの食感が失われてしまうので、強火で一気にアルコールを飛ばしてください。1分も煮詰めれば十分だと思います。
——ほんのり甘い香りが食欲をそそります……! ちなみに、タレに入れていたはちみつとりんごには、どんな役割があるのでしょうか?
はちみつを入れるとタレに粘度がでて肉と絡みやすくなりますし、りんごのフルーティーな香りは生姜の香りの角を丸くしてくれます。さらに、どちらの食材も豚肉との相性が抜群なので、肉の柔らかさと旨味をより一層引き出してくれるんです。
4.お皿に盛り付けて完成
最後にキャベツの千切りと一緒にお肉を盛り付けて、マヨネーズを添えたら完成です。ここに合わせるご飯は固めに炊いたものがベストです!
——とても簡単ですね! それでは早速いただきます……。
あ、ちょっと待って下さい! これだけでも十分おいしいのですが、さらに半熟の目玉焼きを載せると最高です。
——うわー! 見た目のシズル感がすごい。とろっとした黄身のマイルドさと甘しょっぱいタレがマッチして、もう箸が止まりません。
そうなんすよ。まず最初は肉だけ食べて、口に甘じょっぱい味わいが広がったらご飯いっちゃってください。その次はキャベツにマヨネーズを付けてもう一回ご飯。この繰り返しで結局ご飯が足りなくなって、おかわりしちゃうんですよね。くー! ここまでうまいと、もはやずるいっすね! 誰かご飯持ってきてーー!
——このレシピに込められた愛は伝わってきました。
あとバインミーのように、パンに挟んで生姜焼きサンドにするのもオススメですね。スクランブルエッグやポテトサラダをパンに塗ったり、七味をかけるのも良いですよ。
ワンポイントアドバイス
——最後に、今回のレシピのポイントを教えていただけますか?
一番のポイントはやはり厚いロース肉の代わりに、薄いバラ肉を使うことですね。あとは玉ねぎの食感を残すために煮すぎない。この2つさえ押さえれば基本的にはおいしくできると思います。
——スーパーに行くと「生姜焼き用」という表記でロース肉が売られていることが多いので、今まで「生姜焼き=ロース肉」と思っていました。もしかすると、ずっと固定概念に捉われていたのかもしれません。
そう、今回僕が一番伝えたいのは、「レシピを疑うことの大切さ」。生姜焼きってやっぱりご飯とどれだけマッチするかだと思うんですよね。そこから逆算すると、厚めの豚ロースより薄切りのばら肉のほうがタレも染み込みやすいし、柔らかくて食べやすいじゃないですか。
——完成形を事前にしっかりイメージし、設定しておく。これは前回の記事でも仰っていた「おいしさのKPI設定」ですね。
そうなんです。sioの料理には、新しい組み合わせの中にも日本人に馴染み深い味を忍ばせる「ネオおふくろの味」というイズムがあります。もちろん既存のレシピ通り作ることも大切ですが、時にはそれを疑って、自分なりの答えを出すことも料理の醍醐味の一つだと思います。だから今回の生姜焼きのレシピも、ぜひどんどんアレンジしてくださいね!
▷作り方のおさらい 1.肉を6〜7cmほどの長さにカットし、玉ねぎは厚めにスライス、キャベツは千切りにしておく。 |
鳥羽シェフが教えてくれた「レシピを疑う大切さ」。そこには既存のレシピにとらわれずに料理を楽しんでもらいたいという想いがあるようにも感じました。
リモートワークの導入が進み、自宅で料理を楽しむ機会が増えた今こそ、是非普段のレシピとは一味違ったアレンジに挑戦してみるのはいかがでしょうか?この記事が1つのきっかけになれば嬉しいです。
それでは、次回のレシピもお楽しみに!
取材協力
鳥羽周作
サッカー選⼿、⼩学校教員を経て、32歳で料理の世界へ。
『DIRITTO』『Florilage』『Ariadi Tacubo』などで研鑽を積み、フレンチレストラン『Gris』のシェフに就任。2018年7⽉、オーナーシェフとして⾃⾝のすべてを出し尽くしたレストラン『sio』をオープン。2019年10月には丸の内に二号店となるビストロ『o/sio』、同年12月には渋谷に純喫茶・洋食『パーラー大箸』をオープン。2019年11月、sioにて『ミシュランガイド東京 2020』掲載。同年12月、o/sioにてゴエミヨベストPOP賞獲得。
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