こんにちは! ライターの社領です。
ライターを始めて、早4年。取材でお話を伺うと、たまに「あれ? これなんの取材だっけ?」と思うくらい、違う方向に話が振り切れることがあります。
今回の取材でもそうでした。
「経費で高いうなぎを食べるぞ〜!」と安易な気持ちで創業100年以上のお店に飛び込んだ私。
その時は知る由もなかったのです。私の想像を100倍超えた、濃すぎるエピソードが聞けることになるなんて……。
107年の歴史を持つ「うなぎじん田」さんに突撃!
というわけでやってまいりました。
大阪のJR天満駅のほど近くにある、「うなぎじん田」さんです!
おいしそうなお店でひしめき合う商店街の一角に、炭火焼のいいかおりが漂うお店が!
店頭のショーケースには……
ドゥワ〜〜〜! でっかいうなぎじゃ〜〜〜!!!
「うなぎじん田」は、1912年に創業された超老舗のうなぎ屋さん。熟練の職人さんたちの手作業にこだわり、絶品の「関西風のうなぎの蒲焼」を提供すると評判のお店です。
この方が、今回取材にご協力いただく4代目店主の甚田 国晴(じんた・くにはる)さん。優しそうな笑顔! コッテコテな関西弁の大阪のお兄さんでございます!
「こんにちは! おいしいうなぎを食べにきました、今日はよろしくお願いします〜!」
「よう来たね。何でも聞いてや!」
「では、まずはこのお店についてお伺いしたいです。創業から107年も経つとなると、面白いエピソードとかいっぱいありそう!」
「あのね社領さん、ごっつい軽いノリで聞いてくるけど、俺の代だけでもけっこう大変やったんやで。俺が継いだとき、この店の借金13億あったんやから」
「じゅ……、え? …………ええーっ!?!?」
13億の借金とともに受け継いだうなぎ屋さん
「この店は俺のひいおじいちゃんが作ったんやけど、もともとは生きたウナギを卸したり、さばいたりするような店やったんよ」
「で、その次の俺のおじいちゃんの代でうなぎの加工と食堂を始めたんやけど、もうめちゃめちゃもうかって。そのおかげで俺は子どもの頃、どでかい豪邸に住んでいい暮らしをさせてもらってた」
「どでかい豪邸! やっぱり、老舗の後継ぎとして生まれた人って、小さい頃からお店でみっちり修行をするんですか?」
「いや、俺は最初、家業を継ぐってことに反抗心があったし、いろんなものを見てみたかったから、中学以降はほとんど大阪に住んだことはなかったな。横浜、東京、アメリカと進学して、そのまま福岡のアサヒビールに入社したし」
「めちゃめちゃ意外! 『生まれてこのかたうなぎ一筋』って感じだと思ってました」
「いや、かなり自由にさせてもらったよ。で、就職して4年くらいの頃、親父から『ちょっと大阪に帰ってきてくれ』って連絡があって。その頃のうちは店舗を増やしたり、北新地【※】にお店を持ったり、一見俺には順調そうに見えてたんよ。でも帰って話を聞いてみると……実はなんと、借金13億円を抱えてた」
※ 大阪でもっともたくさんの高級クラブ・ラウンジ・料亭などが立ち並ぶ、高級飲食店街
「うっわー!! 13億って、全然想像がつかん……! なぜそんなに借金を?」
「理由は事業の失敗とかいろいろあるけど、結局、親父は商売人に向いてなかったんやろな。借金の話聞かされてビックリしてたら、『息子が帰ってきてる』ってどっかから聞きつけた借金取りが突入してきて、俺はその場でいろんな借金の書類にハンコ押させられて。まぁ、親父の道連れや」
「ええーーー!? じゃあ、そのまま店を継いだんですか!?」
「まぁ、継がなしゃあないからな(笑)」
「す、すごい……!」
「それからいろいろやりくりしたよ。とりあえず、家とか支店とか、親が売りたがらなかったものは全部売って。お店もがんばって続けて、従業員だけは削らんで済むように計算して。……でも、7億くらい返したところで頭打ちや。やっぱり、どんだけがんばっても13億全部は返されへんかった」
「いや、親の借金を7億返しただけでもすごすぎます……!」
「しかも、親父はタチの悪い業者からもお金を借りてたから、借金取りからの電話で毎日俺の電話は鳴りっぱなし。時には突然、新大阪の駅に呼び出されて、首根っこつかまれて喫茶店にぶち込まれてギャーギャー言われて、お客さんみんな出て行くっていう(笑)」
「笑い事じゃないくらいヤバい。毎日電話って、精神やられちゃいそうですね」
「いやー、やられたよ! だから、いよいよ追い込まれてきたってことで、弁護士さんに相談して破産申請することに決めた。継いでから2年経って、俺が33の時かな」
「しかし、それだけ借金が残ってる状況で破産申請って、いろいろと大変そうですが」
「とりあえず、一番お金を借りてた親分には頭下げに行かなあかんよね。兵庫の姫路まで親分に会いに行って、土下座して『限界です、破産申請させてください』って言ったよ。どうなることかと思ったけど、親分は『もうええわ。親がなすりつけた借金払うのに、2年間ようがんばった。これから表立ってお前と接触することはないけど、お前が一からやるなら陰ながら応援しとるからな』って言ってくれて」
「昭和の任侠映画みたいですね……!」
「それで破産申請出した。申請通るまでは借金取りに見つかったら何されるかわからないから、しばらく無一文でホームレス生活して。でも店閉めてる間も、秘伝のタレだけは使い続けなあかんから、従業員にタレをわたしてうなぎをずっと焼き続けてもらって……」
「それで、もっかいイチからがんばって店やりなおして、今に至る。まあ、簡単に言ったらこんな感じかな」
「簡単に言っただけでこの重量感……!」
100年続く老舗を継いだ甚田さん、波乱の半生の持ち主でした……! いやぁ、実際にこういう経験した人を目の前にすると「すごい」しか言えなくなってしまいます。すごすぎるし、えらすぎるわ〜!
「しかし、よく店を継ごうと決意されましたね。親が作った莫大な借金を背負わされて」
「まぁ、おじいちゃんおばあちゃんにはほんまにええ生活さしてもらったから、恩返しやね。だから、破産して一旦全部を失ったけど、ご先祖さまのごっついお墓だけは守り抜いたんや。……うん。とにかく、うなぎ食べよか!」
「はい! この話の後に食べるうなぎ、重みがハンパねぇ……」
これが、じん田のこだわりが詰まった「関西風」うなぎの蒲焼きだ!
というわけで、うなぎを焼くところから見学させていただくことに。
じん田で使われるうなぎは、うなぎの中でも一番サイズの大きいものだそうですが……
ホントにめちゃくちゃでっか〜〜〜!
6本の串に刺さった大きなうなぎが、職人さんの手によって何度もひっくり返されながら、炭火でじっくりと焼かれていきます。
ちなみに、この写真でうなぎを焼いている職人さんは、甚田さんのおじいさんがオーナーだった頃からこの店で働いているそうです。
「うなぎって、タレをかける前にこんなにじっくり焼くんですね!」
「タレを焼いたら焦げるから、タレをかけるのはほんまに最後。ちなみにうちは先代の意志を継いで、作り方もかなりこだわってるよ。うなぎをさばくのも串打ちも全部手作業やし、炭も国産の備長炭を使ってるから」
「へえー! 炭が国産か海外産かって、味に影響するんですか?」
「やっぱり、日本のええやつを使うと香りも火力も全然違うね。焼き終わったあとも炭が全然残らへんし。うち、炭の経費だけで月50万かけてるんやで」
「どえ〜〜〜!! 私の食費約1年分が、炭1カ月分……」
「作り方を変えればなんぼでも安くできるし、お金もうけもできると思う。けど、俺は全然安くする気はないな。伝統の作り方を守ることが、おじいちゃんへの恩返しになるとも思うしね」
現在はこの串を機械で打つお店も多いようですが、じん田のうなぎは個体に合わせたベストな串打ちをするため、手作業にこだわっているのだそう。この串打ちがとんでもなく難しいんだとか。
「あれ? そういえばこのうなぎ、よく見る形と違う気がする……!」
「よくあるうなぎはこんな感じで幅が短いと思うんですけど、じん田さんのはこれよりずっと長くて、頭がついてるんですね」
「それは関東風のうなぎやね。関東は箸で裂けるほど柔らかいうなぎが良しとされるから、焼く前に一回蒸して火を通すって工程があるねん。だから、蒸し器の都合で幅が短くなってる。
対して、うちは関西風のうなぎやから。関西風は皮がパリッと、肉厚でジューシーなのが好まれるから、蒸し無し、地焼きの一本勝負。言うなれば、関東風よりもうなぎ本来のうまさがものを言う調理法や」
「なるほど〜。私、兵庫県生まれなんですが、関西風は食べたことないかも」
「だと思うよ、日本のうなぎの70%は関東風やし、大阪で関西風をガッツリやってるのはうちを含めて3軒くらいやからね。九州ならメジャーなんやけど」
「し、知らなかったー! 九州だと、この焼き方がスタンダードなんですね」
さて、完成が近づいてまいりました! おじいさんの時代から守られてきた秘伝のタレを手早くかけられ、うなぎは仕上げの焼きに入ります。タレの香ばしいかおりが漂ってきた……!
ダメだ〜! めちゃめちゃうまそうだ~~!
絶妙な“甘辛いタレ”が絡む! じん田のうなぎをいただく
はい! みなさんお待ちかね。いよいよ、じん田のうな重の登場です!
はい、超うま〜〜〜い!!!!!
「死ぬほどうまい!!!」
「うまいやろ? 甘からず辛からずの絶妙なタレ! 身はふっくら、皮はパリッと!」
「い、言いたいこと全部言われた! でもほんまその通りです、最っ高の贅沢な味が口の中に広がっております……!」
箸でふわっとほぐれる柔らかな身〜!
想像してみてください……上品なタレが絡んでふっくら焼きあがった大きなうなぎが、口の中でほぐれ、そして、とろけるさまを……。
「死ぬ前に食べたい料理ナンバーワン、これで決定です。なんだこの柔らかさ……うなぎ界のトロだよ!」
「うなぎの食レポやのに、別の魚に例えるんかい!」
こちらの「うざく」もいただきました! うなぎの蒲焼きに、うなぎの頭でとった出汁のジュレが絡みます。
「めったに食べられない高級料理、こんなの贅沢すぎるよ……」
「そうやんな。今はうなぎって高いし、特に若い人なんか日常的に食べへんよな。ずっと前は、うなぎは今よりもっと安くて、めちゃめちゃ庶民的な食べ物やったんやで」
「えー! そうなんですか!?」
「うん。でも、漁獲量が減って値段が上がって、若い人どころかうなぎを食べられる国民自体が減ってもうた」
「あと私は、最近『乱獲』とよく聞くので、『本当に食べていいのかな?』って思ってる節もあります。土用の丑の日とか、スーパーでめちゃめちゃ売れ残ってたりするじゃないですか」
「いやいや、スーパーで使われてるうなぎのほとんどはアメリカウナギ! 絶滅危惧種のニホンウナギとは全然別モノやから!」
「えっ、そうなの!?」
「それに、最近までは誰でもニホンウナギの漁をしてよかったから、闇の業者がめちゃめちゃ乱獲してたんやけど、こないだやっと法律的に漁が免許制になって、獲っていい量が国に管理されるようになってん。だから、ちゃんとしたお店のうなぎなら正規のルートで仕入れてるやろし、まず食べていいと思うよ」
「そうなんだ……! し、知らなかったー!」
「そういう誤解もあるんやな。ますます若者の足が遠のくなぁ……」
脈々と受け継がれていく下町の人情
「いやー、うなぎ、めちゃめちゃおいしかったです! 甚田さんに聞いたお話を踏まえると、さらに染み渡るおいしさでした!」
「さらにおいしくなるなら、話してよかったわ(笑)」
「でも、破産したあとは無一文でホームレス生活だったと仰ってましたが、そこからよくここまでの復活を遂げられましたね」
「それはもう、俺がやってこられたのは完全に人のおかげやね。それだけ」
「どういうことですか?」
「会社が倒産したあと、最初は大変やってん。自己破産してるからお金なんて借りられへんし、クレジットカードももちろん作られへんし」
「経営しててお金を借りられないって、けっこう大変だ……!」
「そうやねん、商売ってお金が必要な時があるやんか。いちど、東京の大手百貨店から出店の打診があって、絶対にやりたいのに、出張費も出店費もどうにも工面できひんってことがあって」
「それはツライですね……」
「その時、たまたまうちのうなぎをよく買ってくれるお客さんから電話があって。その人、俺の声色で何か悟ったらしく、『何かあったん?』って聞いてくれたから正直に話したんよ。
『実は、お金が足りなくて』
『なんぼくらいいるんや?』
『夏の仕込みもあるので、500万くらいあれば』
『わかった、ほな来週、俺の事務所に来い』
で、事務所に行ったら500万がドーンと置いてあったんや」
「えーーー!?!?」
「実は俺、その常連さんに会うの、その時が初めてやってん。いっつも買いにくるのはその人の運転手さんやから、一度も会ったことなかった。しかもその人、俺が親父の借金で苦労してたってことも知らんかった。それなのにドンと500万を貸してくれたって、すごない?」
「えええ!? いやすごすぎますよ! 男気の塊だ!」
「そうやって、たまたま状況が状況だっただけに、俺を助けてくれたり、支えてくれたりする人が他にもいて。俺は、その人たちのおかげで今があるねん」
「いやー、しかし……見ず知らずの人間を、どうしてそう助けてくれるんでしょう。世の中、そんなにいい人っているの?」
「もちろん助けてもらうにあたって、筋道を通す、裏切らないってことは一番大事にしてるよ。『お金を借りたら必死こいてでも期日を守って必ず返す』『期日までに返さんと、この人との付き合いがなくなっていく』って、常に自分にプレッシャーを与えながら向き合ってるからな」
「うぅ、守り抜くのは簡単なことではなさそうだけど、良い人間関係において当たり前の話だなぁ……」
「あと、俺はいろんな人にお世話になった分、これからは俺がその役をせなあかんと思ってて。もしかしたら俺を助けてくれた人たちにも、誰かにお世話になった経験があったのかもね」
「なるほどなぁ。下町の人情って、そうやって脈々と受け継がれているのかもしれないですね」
天満には、最高のうなぎが待っている!
「では、たくさんの情熱をもって甚田さんが立て直したこの店ですが、100年以上続いた『うなぎ屋 じん田』を、今後どうされたいとお考えですか?」
「そうやなぁ。いま、業界としてうなぎ屋は後継者がいなくて困ってる。それに、関西風もきっとこれからなくなっていくやろうし、うなぎ業界の今後って、正直めちゃくちゃ明るいわけじゃないねん」
「でも、だから俺が継いだんや。俺はこれから会社を大きくする気もないし、俺の息子が継ぎたくないんなら継がせるつもりもない。けど、どんな形であれ、俺は先代たちが大切にしてきた店を守る。いい形で次の世代にバトンタッチすることだけを考えて、欲張りすぎず、店をただただ守っていきたいと思ってる。もちろん関西風のうなぎもね。俺は関西風の、正直で、ごまかしのきかないところが好きやから」
「うう、じん田さんのうなぎを食べられてよかったです。ありがとうございました!」
これまでのお話で、みなさんにも伝わったかと思いますが、甚田さんってめちゃめちゃ人情に厚いんですよ。
私のような若輩者にも、とにかくフレンドリーに接してくれて、「どんな相手に対しても人間関係を大切にして、腹を割って話してらっしゃるんだろうな」というのが伝わってくる方で。
こんな風に、正直でごまかしのない方だからこそ、どこかで見ていて手を差し伸べてくれる人がいるのかもしれないなぁと思ったのでした。
大阪の中心、梅田からもほど近い場所にある「うなぎじん田」。みなさんも、機会があればぜひ立ち寄ってみてください。下町の歴史と人情が詰まった、最高のうなぎが待っていますよ。
それでは! 社領エミでした。
今回紹介したお店
うなぎじん田
TEL:06-6882-5115
営業時間:
店頭 9時〜17時
食堂 11時〜15時 17時〜22時(ラストオーダーは21時半)
http://www.unagi-jinta.com/top/
筆者プロフィール
社領エミ(しゃりょう・えみ)
1990年兵庫県生まれ。Webを中心におもしろい記事を書こうと日々奮闘しているフリーのライター。女性が脱ぐとなぜ面白くならないのかいつも悩んでいる。
Twitter:@emicha4649
編集:うないいちどう(ノオト)