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殴り合ってわかりあえることなんかない……空気を読まない格闘家・青木真也の哲学【中川淳一郎の「今も飲んでいます」第十二回】

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総合格闘家の青木真也選手をご存知だろうか?

 

デビュー以来、数々の猛者たちを得意の関節技でなぎ倒してきた、世界的にも有名な格闘家である。

 

格闘家といえば、余計な脂肪はつけず、試合前には契約体重以下に納めなくてはならないため、ストイックな食生活をしているに違いない! そして、何よりも健全でよく動くパワフルな肉体を保っている彼らの食生活は我々一般人にとってもダイエットや健康的な人生を送るうえで参考になるはずだ! ということで、青木真也選手と夕餉(ゆうげ)をご一緒させてもらった。

 

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青木さんをお誘いしたときには「都内だとありがたいです」という返事だけだったため、格闘家との食事会として妥当なのは鶏料理と判断。そして場所は普段自転車で移動している青木さんにとっても「そこまで遠くない」場所ということで新宿に。

 

こうした理由から、新宿駅西口で焼き鳥のおいしい店「鳥一」をチョイスした。

 

この店の特徴は、お通しが3つある点である。500円なのだが、自家製豆腐・食べ放題のサラダ・濃厚鶏スープがあり、これがすべてウマいのである。

 

 

そして、私は一時期この店のアスパラ肉巻き、えのき肉巻き、豚バラしそ巻にハマってしまい、こればかり食べていた。あとは現在はないが「紙カツ」的な薄いトンカツもビールのお供に最高だった(今は「おつまみソースハムカツ」がある)。私はあっさりとした鳥ではなく、コッテリとした豚がむしろ好きだったのだが、果たして青木さんは何を頼むのか?

 

ササミばかり食べるとかそういうことより、食べたいものを食べればいい

この日頼むものはすべて青木さんに任せることにした。それを我々もお相伴にあずかるということである。注文前に基本的な食事へのスタンスを聞いた。まずは飲み物を頼んだのだが、私とぐるなびのM編集者、そしてHWWA(一橋大学世界プロレスリング同盟)の後輩かつ現在雑誌編集者の“のりピーマン”選手が生ビールで、青木さんはウーロン茶である。酒は飲まないし、飲めない体質だという。

 

「今、シンガポールも拠点となっていますが、中華ばかり食べていますね。水分は普段から摂っているため、食事の時はあまり摂らないです。このウーロン茶をゆっくり飲みますね。ダイエットはちょっとやる程度ですかね。かつては船木誠勝の「ハイブリッド」に憧れていました。玉子の黄身を捨てて母親から怒られたりもしました。パンクラスサイコー! なんて思いましたし、“マット会の左翼”たる船木、高橋義生、田村潔司とかは大好きでした」

 

「さて、食事の話に戻りますが、一般人はそんなに意識して食事制限をしないでもいいし、食べたいものを食べればいいと思う。ササミばかり食べるとかそういうことより、食べたいものを食べればいい。お子さんにはケーキを与えてもいいと思う。お菓子を食べてもいいじゃないですか。ただし、自分は人から食べるものを押し付けられるのは嫌いです。そんなことは言いつつも、こうして会食に誘われた時に、食事の種類を指定したりすることはありません。気を遣われるのはイヤなんですよね」(青木さん)

 

その結果、頼んだものを全部紹介しよう。

 

 

【野菜】冷やしトマト

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【肉系の串】せせり(首)、レバ、ねぎ間、砂肝、はつ、ささみわさび、特製ふわふわつくね(温玉絡み)
【卵・肉系の串】うずらの玉子、プチトマトベーコン巻き

【野菜の串】ししとう

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【炭水化物系】焼鳥飯

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なお、「鳥一」のサラダにはクルトン的な役割として「うまい棒」を崩してトッピングにするが、青木さんは躊躇することなく「うまい棒」を砕いてサラダにかけた。

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ドレッシングはノンオイルの青じそとゴマがあったが、脂肪分が多いゴマを使う。「えっ? うまい棒もかけるし、ゴマをかけるんですか?」と聞いたら「こっちの方が僕はおいしいと思うんですよ。おいしいものを食べたいです」と答えた。

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「プロテインを摂ってるヤツのことはバカにしています」 青木真也の食事哲学

さて、ここからは、青木さんがこの宴席(とはいっても彼はノンアルコール)で語った内容を紹介しよう。話は「食」に関することから「格闘技全般」「格闘家の人生」「格闘技とプロレス」「格闘家と家族」「格闘技ヤンキー文化論」など多岐にわたった。

 

――青木さんは今回、焼き鳥のお店に来ていただきましたが、焼鳥自体は格闘家の食事としてはアリなのですか?

 

青木:僕はこうした焼鳥店に来た時は、“皮”は選択肢からまずは外し、後は好みです。だから、ねぎ間とか、砂肝とかささみとかを食べているわけです。皮については意識高く「格闘家たるもの、脂を避けたいので皮なんて食いません!」と言いたいところですが、僕は単純に好みの問題です……。

 

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好きな食べ物タイ料理ですね。辛いのが好きなんです。タイ料理は決してヘルシーな料理の代名詞というわけではないけど、あんまり気にしてはいませんね。香辛料とかもタイ料理は好みなんです。プリック、ナンプラー、チリソース、トウガラシの入った酢、など色々ありますが、あまり意識しないで好きなものを食べています。炭水化物だって、摂り過ぎなければいいと思っています。

 

――となると、天丼、カツ丼なんかはいかがですか? タイ料理もご飯の上におかずを乗せるスタイルが定番ですよね。

 

青木:僕は丼は食べないですね。ただ、卵かけご飯は家では食べています。普段は自宅でパソコン見ながらご飯食べているんですよ。ネットを見ながら「なんだよこいつ!」みたいに感情の起伏がありながら食べています。家族で食卓囲む、ということはあまりないですね。子供たちからは「お父さん、後で食べるの?」なんて言われるのですが、後で食べるのが好きです。

 

――だとしたら、時々外食をする時は、どうしていますか? 子供達は回転寿司とか好きですよね。その時は一緒に行くのですか?

 

青木:子供達が回転寿司に行きたいといえば行きますよ。子供に合わせます。自分はその時、食べることができないような状態であれば、食べなきゃいいだけ。ドリンクを頼み、最低限食べても良いものは食べ、家族は自由に食べさせます。

 

――あれ、青木さん、なんか今日、ししとうの串を大量に注文していますよね? これは野菜を食べなくては、ということですか?

 

青木:ししとうはおいしいから食べているんですよ。いや、そこまで普段からストイックということではなく、僕自身70kgで試合をする契約ですが、普段であれば、75kgぐらいまではいきます。

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――だったら、減量はどうやってやっているんですか?

 

青木:お菓子をやめます。チョコレートをやめてプロテインをやめる、とかでやせますね。

 

――炭水化物についてはどうですか? たとえばラーメンとかは。

 

青木:うーん、そもそもラーメンは、普段はそんなに食べないかな。僕はいわゆる“野郎”が好きなメシをあまり食べないのかもしれません。ただ、食べ物にそこまでこだわりはないし、プロテインを摂ってるヤツのことはバカにしています。

 

食べ物って一定レベル以上にするのはきついですよ。いくら値段が高くても自分が納得するかどうかが重要だし、高い値段を盲信するようなことはしたくない。ある程度自分が幸せになれるようにしています。

 

――格闘家だからって「意識高い系」の食事というわけではないんですね!

 

 

殴り合って分かり合えることなんてないんですよ……

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――今日は「格闘家とメシ」について語っていただきましたが、格闘技についても話を聞かせてください。

 

青木:格闘技の世界では一回強さを見せたとしても、それは永続的ではありません。そして強いから人生全般が幸せってのは違うと思います。ホント、厳しいですよ。自分が負けたとしても、“自分は人とは違うんだ”、“自分は人と違うことをやっているんだ”と思えなければやっていけない世界です。

 

あ、ちょっと「食」とも関連してきますが、先ほど、「誘ってくれる人に合わせる」といった発言はしたものの、ただし、まったく節制していない人から「焼肉行くぞ!」とか誘われると困ります。こういった人は、インスタグラムとかツイッターで“焼肉食ってるぞ!”と言いたいだけだったりもします。

 

ちょっと食べれればいいんですよ。プロレスラーでは40代・50代あたりの選手は風俗とかパチンコの情報ばかり見ていて、その延長戦に「肉をとにかく食え」みたいなものがありますが、僕自身は酒、肉、女――をこれ見よがしに見せつけるカルチャーが好きではないのです。

 

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――さすがに科学的なトレーニングや栄養学が身についた今は違うんじゃないですか? あと、昔のプロレスラーって「牛を一頭食った」とか「ビール1ケースをすぐに飲み干した」みたいな妙な伝説があるじゃないですか。新しい世代の選手はプロレスのスタイルにしても、食べる物も違うのでは?

 

青木:そうです。新日本プロレス・棚橋弘至選手以下の世代は違いますね。アメプロの世界であり、「キメのプロレス」ともいえましょうか。本当に緻密に展開を組み立てている。結局、みんな、いい子ですよね。リング上でも控室でもいい子です。さらに、主催者も厳しいです。スポーツライクになっていて、あまりにも破天荒だと怒られちゃう。総合格闘技の菊田早苗選手は、格闘技とプロレスは別れた方がいいと言いました。でも、これって“アスリート憧れ”みたいな話ではないでしょうか。サッカーの長友佑都選手とか本田圭祐選手みたいにカッコよくなりたいってことを言っているわけです。結局、格闘技はそうはなれないって話では……。

 

僕自身は、元々は総合格闘技の選手としてデビューもしたし、長く活動をしたけど途中で切り替えて、「格闘小作農」みたいに、「何でもやります!」みたいに方向に舵を切りました(様々なジャンルの総合格闘技もやるし、プロレスもやるし、ネット記事の取材も受けるし、文章も書く)。それでも良かったのは、火事場泥棒的にポジションを取れたことですね。プライドがあったら、あんなに自由にできなかったと思う。総合格闘技ブームが終わった後の「戦後」にどさくさにまぎれてできたことだと思っています。

 

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――青木さんは『空気を読んではいけない』という著書があったり、取材を受けるととかく「型破り」などと言われますが、いわゆるステレオタイプ的格闘家としての姿を求められることに違和感を持つということでしょうか。

 

青木:選手の中には「熱い絆」とか「みんなでいこうぜ!」とか言う人もいますが、凄く曖昧でずるいなと思います。僕はこれをポエム的だと思いました。格闘家はポエムを読みます。試合後のマイクパフォーマンスの多くはポエムっぽくてむかつきますよ。「来てくれたお客さんありがとう!」「練習してくれた仲間ありがとう!」「子供にありがとう!」――そんなお礼は後でメールでやればいいし、控室でやればいい。自分が演者だと過度に意識しているのではないでしょうか。そういえば、不良って卒業式で泣いてましたよね。まぁ、そんなもんですよ。

 

格闘技は不良カルチャーです。戦った後に「お前よくやったな!」となる。河原でケンカした後、「お前もよくやったじゃないか」みたいな感覚です。でも、こういった不良カルチャー的なことは僕はやりません。試合前から仲悪かったヤツとは試合後も仲悪いです。試合前から仲良かったヤツとはその後も変わらず仲がいいです。殴り合って分かり合えることなんてないんですよ。もっというと、殴り合ったからといって好きになるわけがない。

 

その一方、家庭は、いつ離婚されるかは分からないわけです。妻がいて、子供は3人います。そんな状況にあるだけに、僕は責任は果たそうと思う。ただし、結婚という形は、変わっていくものです。社会情勢などによって変わっていく。結婚したからといって、ずっと安泰なわけもないです。ただし、僕自身、仕事と家は別だと捉えていますよ。とにかく家族のためには稼がなくてはならない。

 

小さな仕事をコツコツやるしかない。文章を書くこともそうだけど、コツコツやるしかない。本当は大きな仕事をやりたいけど、そういうことだけをしているわけにはいかないんです。本当は、大きい仕事だけしかしたくないけど、小さい仕事もしなくてはいけない。良い時代も悪い時代も僕は知っているので、こう考えるようになりました。

 

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――さて、青木さん、「食」の話をしつつも、「格闘技の今」「2017年の格闘家の人生」「格闘家と家族・社会」といった話にも踏み込んでくれました。基本的に青木さんは「自分がやりたいようにやれ」ということを常に述べています。というわけなので、身もふたもない結論になりますが、「食べたいものを好きなだけ食べ、ただし、よろしくないと思ったら節制しろ」というのが青木選手からのメッセージだと捉えました!

 

紹介したお店 

r.gnavi.co.jp

 

 

著者プロフィール

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中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)

ライター、編集者、PRプランナー

1973年生まれ。東京立川市出身。
一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!』(星海社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。割と頻繁に物議を醸す、無遠慮で本質を突いた物言いに定評がある。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。

 

前回までの「今も飲んでいます」はこちら 

r.gnavi.co.jp


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