まいど憶良(おくら)です。
京都屈指の旨さと人気を誇るうどん屋さんはまた、うどん界のレジェンド、香川の池上製麺所のるみばあちゃんのお弟子さんのお店という事でも有名です。
でもうどん好きの人に言わせると、単なる讃岐うどんの店じゃない、いや、讃岐うどんでもないし、関西のうどんとも違うし、とにかく食べてみろとしか言いようがないなぁ・・・という店だとか。
ならば、行くしかありません。という事で、京都市は伏見区にやって来ました。
特にものすごい高級店っぽい店構えでも、歴史の塊の様でもなし。入りやすい感じです。
店内は明るく、清潔感があふれています。
伸ばして切るところから見られる、ライブ感のあるうどん
カウンターからはうどんの出来上がる様子が見られるようになっています。
大量に用意されている氷は、茹で上がったうどんを即座に冷やすための物。
仕込まれたうどんは注文後に必要分だけを伸ばして切ります。
冷蔵庫から出されたうどん玉。
2人前だけ切るとここからうどんライブの始まりです。
思えば自分の食べるうどんを伸ばしている所を見る機会ってなかったかも。
手早く伸ばしていきます。
見る間にしゅっ、しゅっと、準備OK。
機械にかけて
麺の出来上がりです。
麺は長めですね。
小麦は北海道産のきたほなみと、オーストラリアのASW(オーストラリア スタンダード ホワイト)の2種類をブレンドしたものだそうです。
ASWは淡黄色の綺麗な色が特徴。弾性に富んだ小麦で、風味も豊か。
きたほなみは白さときめ細かさを持った品種ですが、しっかりとした歯ごたえがあって、さっぱりとさわやかな風味。
ブレンドし、練り合わせて足で踏み、寝かせてまた足で踏み、夕方丸めて朝まで寝かし、更にもう一日と、2日寝かせて熟成させたうどんが、大量のぐらぐらに沸かしたお湯に投入されます。
「うどんを入れて、温度が下がったままになると美味しいうどんにならないんです」と店主さん。
すぐに温度が上がる様にするには、やっぱりたっぷりのお湯が必要です。
茹で上がるとお水でぬめりを取り、
氷でサッとしめます。
このうどん、艶々っ。
普通のうどんより水分含有量が多い、ツヤっと、もちっとしたうどんです。
「ウチは注文を頂いてから揚げます」というこだわり
今回は人気で定番メニューの「大河盛りぶっかけ」と「鶏そぼろのマゼリータ」を注文しました。
一度揚げた天ぷらには追い衣をまとわせます。
これがまた、サクッとした食感で、歯ごたえも美味しくなる秘密なんですっ!
丁寧に揚げたエビはモチロン尻尾まで美味しく食べられます。
油は超高級の物ではない物を使います。
店主さん :あまり高級な油を使うともったいない感が出て、「もうちょっと使えそう」とか考えてしまいそうなので、それほど高級でないというのがポイントなんです。
その分、すぱっと入れ替えます。酸化していない、いい状態の油で揚げる方が美味しいですから。
ネギ、
胡麻、大根おろし、
生姜、レモンも乗って、大河盛りぶっかけの完成です。
だから必ず万全の状態で食べられるんです。
まずはうどんをそのまま。
もちもちっとした食感で、変な表現かもしれないですが、唇にぷにょんと優しいタッチのうどんです。
噛むと最後の芯の部分に強い弾力があって、プツンと噛みごたえがある。
これまたこういう表現が伝わるかどうか自信ありませんが、しなやかさと艶やかさと強さを兼ね備えた、セクシーなうどんというイメージです。
鶏天も旨いっ。
後追いの衣の食感が活きています。
そして衣にもほんのりと味が付いていて美味しいです。
海老。他所の店ならこの海老天だけ食べても結構なお値段がしそう。
作っている時に思った通り、尻尾まで食べられるタイプでした。旨いっ。
あっという間の完食です。
遊び心満点の創作うどん「鶏そぼろのマゼリータ」
こちらは遊び心も感じる創作うどん。
鶏そぼろ、天かすが入ります。
この天かすにも味が付いていますので、天かすだけを食べても美味しいんです。
温泉タマゴ、食べるラー油、
きざみ海苔、糸唐辛子、
ネギが入ってます。
これに
特製のつゆと
唐辛子のトッピングを振りかけて、
混ぜ混ぜして、美味しく頂きます。
そぼろと、アクセントにちょっと食べるラー油を乗せて食べました。
この時点で美味しい。
もちっと食感も楽しいですが、トウガラシのピリッとが加わると、うどんの甘みが感じられます。
辛さもそんなに激しくなくて、優しい感じ。鶏そぼろを引き立てる様な辛味です。
うんうん、美味しい。
お次は温泉玉子を割って
とろっとろの黄身を
うどんにまとわせて
食べます。
今度は小麦粉の持つ甘みにプラスして玉子の甘みが感じられます。
ああぁ、これもまた旨いっ!
折角横にご飯がありますので、鶏そぼろを乗せて、そのままぱくりと。
旨っ!
でも実はお勧めは、うどんをちょっと残してほぼ全部食べた後に、このご飯を投入する食べ方です。
絵的にはあんまりきれいじゃないので写真はありませんが、これがまた旨い。
私がえらく旨い美味いというもので、店主さんも、「この最後のご飯がめちゃウマだと、よくお客さんに言われます。でも、うどんがメインなんですけどね」と笑ってらっしゃいました。
最後にうどんとごはんと鶏そぼろと玉子と出汁が一体となった奴を食べて、こちらも完食。
いやぁ、美味しかった。ご馳走様です。
うどん好きには伝説の「ルミばあちゃん」とは?
店主さんにお話を聞きました。
うどんが好きな人なら、更に言うと讃岐うどんが好きな人なら当然知っているというくらいの、伝説のおばあちゃのお話です。
憶良 :ご主人は池上製麺所でこの、ルミばあちゃんのお弟子さんとして修行をしたんですよね。一体、どんな人なんですか。
ご主人 :やさしい、心の広い人です。そして、人生の師匠です。
憶良 :元々讃岐うどんが好きで、どうせやるなら名店で修行を!みたいな感じでお弟子さんになったという事でしょうか。
ご主人 :いえ、元々はサラリーマン生活をしていて、なんとなく違うんじゃないかという違和感があったのでラーメン屋さんになろうとしていたんです。
憶良 :うどんが大好きだったのでは、
ご主人 :残念ながら、そんなに好きではなかったです。
で、ラーメン屋さんの事を調べていくと、流行りすたりが結構激しい業界だなと。
何年か前のラーメン特集をしている雑誌を見ると大人気の行列店として紹介されていたお店が今ではもう無くなっていたり。
ちょっと流行ったスタイルが出来ると他の店でも取り入れて、亜流が乱立しては一気に消えて行ったり。
この世界で生き続けるのは、なかなか大変だなと。
もちろん己のスタイルを貫いて生き続ける店もありますが、それこそ大変な努力と信念が必要だぞと。
その中に、うどんの記事もあったんです。
そして思い出したのが、池上製麵所で食べたうどんが美味しかったなぁという事。
憶良 :劇的に美味しかったですか。
ご主人 :いや、そんなに劇的ではなかったですが、確かに美味しかった。そこで、うどんでラーメンに勝つ店を作りたい!と、うどん作りを教わりに行ったんです。
そしてよくある、
「ウチは弟子はとってないよ」「弟子にしてくれるまで帰りません」
という一幕を経て弟子になりました。
憶良 :修行はどんな感じで?
ご主人 :最初は2、3か月教わって帰るくらいの感覚で、弟子にしていただきました。
短期で部屋を借りようと思ったら、契約は最短で6か月ですと言われて、「いやぁ、そんなに長くいるつもりはないんだけどなぁ」と思いながら結局2年間。
憶良 :最初は掃除、洗濯で、小麦粉に触ったのは半年後、みたいな?
ご主人 :どころでなく、即座に、「まぁ、作って見なさい」と。
聞けば教えてくれるけれども、好きにやって見なさいというのが基本。
うどんは耳たぶの堅さでね、と言われても、ええっ、誰の耳?みたいに戸惑う事ばかりで。
憶良 :小麦粉何グラム、塩が何グラム、みたいなレシピは?
ご主人 :大体このくらい。と。そんな細かい事よりも、出来た物を見て、なぜこうなったのかを考える方が重要だよと教わりました。
うどんの修行というよりも、掃除、接客、準備の大切さ、人にやさしく。という、心の修行が主だったと思います。
つまりは、
人に対する心の開き方、人の心の読み取り方を習っていたんだと思います。
それができたなら、美味しいうどんは作れると。
とにかく、全てよく考えなさい、そして、しっかりと準備をしなさいと。
そしたら、まぁ、なんとかなるよっ。て。
憶良 :どんな道にも通じる奥義ですね。
ご主人 :ですので、私もそれを次の世代に伝えていきたいと思っています。
憶良 :ところで、うどんそのものはおばあちゃんのうどんとはまた方向性が違いますよね。
ご主人 :そうなんです。修行で得たうどん作りのノウハウは、もちろん私の作るうどんの基礎として大切な物ですが、それをそのまま作るんではなく、自分のうどんをつくろうと、日々勉強の毎日です。
ルミばあちゃんのうどんとはベースは同じものがありながら、加水率が全然違う、モチッとしたものですし、うどんのだしに関してイリコでなく、羅臼昆布と宗田カツオ、ウルメイワシにサバ節、花かつお、本カビ節も使ってます。
食べた感じは全然違うので、京都でルミばあちゃんの弟子のうどんを食べられると思って来たというお客さんが「全然違うやん」と驚くこともありました。
守る部分は同じ味ではなくて、心の部分。
うどん自体は、食べたお客さんの表情を見て、今度はこうしてみようと、常に自分のうどんを作るためのヒントを貰って変わっていってます。
憶良 :何年たっても、完成はしない?
ご主人 : そうですね。修行時代にルミばあちゃんが何かのインタビューを受けていて、「うどんを作るのは、50年やってても難しい。分からない事ばっかりで」と答えていたのを聞いて、ショックを受けました。
「おいおい、じゃあ、私はどうしたらいいんだ」と。
でも、私も言ってみたいです。
50年くらいうどんを作り続けて、皆さんに認められるくらいになったら、「いやぁ、私はうどんを作るの、向いてないみたいです」と。
そんなちょっとした恰好を付けられるように、日々精進していきます。
どんなうどんを作りたいかではなく、うどんを食べた人がどう感じてくれたのかを感じたい。
その先に、何となくぼやっと目指すうどんが見えてきた。そんな毎日です。
憶良 :今日のインタビューの中に、うどんダシに何を使っているか、かなり細かく話されていましたが、そのまま書いても大丈夫なんですか?
ご主人 :大丈夫ですよ。というか、お客さんからもここの天ぷらメチャ旨いなぁ、どうやって作ってるの?とか聞かれる事があります。
常連さんなんかで時間があるときなんかだったら、細かく答えますよ。
憶良 :ええっ!企業秘密なのでは・・・。
ご主人 :それがすべてではないからです。決まった通りのレシピを、教わった通りに作っても、できない物はできない。
憶良 :あっ!それは、なぜそうなるかを考えないからですね。
ご主人 :そうですよね。レシピを聞いて名店の味になるなら、誰も修行しませんから。
逆に同じものを作られたら、やっぱりその一歩先に行っておかないと。
それから、季節によって、湿度や温度によって、レシピが微妙に変わるっていうでしょ。
実は私、それは恰好いいからそう言っているだけだろうって思っていたんですが、あれ、本当なんです。
やっぱり、しっかりと向き合わないと作れないと思いますよ。
憶良 :ところで、このタッパは?
ご主人 :うちではありがたいことに店外で待っていただいてでも、というお客さんがおられます。
注文は店外でお聞きして、なるべくお席ではお待たせしない様にとうどんを湯掻くのですが、タイミングが合わず、ベストの状態でお出しできない時には湯掻いたうどんが無駄になります。
とはいえ、店でお出しできないとはいえ、食べられない物ではないので、このタッパにそういううどんを置いておくんです。
どうぞお持ち帰りくださいと。
憶良 :ええっ!
ご主人 :でも、もって帰ってくださったお客さんは、必ずまた来てくださるものなんです。
よーく考えると、やっぱり目先じゃないんですね。商売って。
だから、面白いんです。
そう言って笑うご主人に見送られながら、店を後にしました。
紹介したお店
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プロフィール
憶良(おくら) : 元ゲームプランナー、元ゲームプロデューサー。
ゲーム企画講師や駄菓子屋店長などを経て現在に至る。
休日は高速道路を使わずに名古屋から鳥取あたりの温泉に行って浸かり、道中や行先の地元スーパーで珍しい食材を買い込むと例え深夜に帰ったとしても料理する。
その際食べ歩きにも積極的と、食に対してはかなり貪欲。
「美味しいものを食べている時、美味しいものについて話している時に悪いことを考える人はいない。」という持論を持っている。
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