こんにちは、福岡県でライターをやっている篠原修司です。福岡県で「ラーメン」といえば「とんこつラーメン」のことを指します。
ラーメン屋さんに入って何も書かれていない「ラーメン」を注文すると、必ずとんこつラーメンが出てきます。それが当たり前であり県民のデファクトスタンダードです。
しかし! しかしですよ! 福岡県民でもとんこつラーメンじゃないラーメンを食べたいんです!!!
ラーメンとはとんこつオンリーにあらず。むしろ毎回とんこつばかり食べているから醤油や味噌といった違う味のラーメンが食べたい! そう考えている福岡県民は多いはずです。
そんなとんこつじゃない美味しいラーメンを探している人にオススメしたいラーメン屋さんがこちら、「麺道はなもこし」です。
自分の一杯を実現するために
麺道はなもこしは、2011年に天神・薬院にオープンしたラーメン屋さんです。店主の廣畑(ひろはた)さんは10年ほど居酒屋を経営していましたが、全て1人で作ったものを提供したくてこのカウンター7席の麺専門店にリニューアルされたそうです。
そんな麺専門店で食べられるラーメンの種類は豚ではなく、鶏!
福岡市に本社を構える(株)トリゼンフーズのオリジナル銘柄鶏「華味鳥(はなみどり)」の鶏ガラを、店主が見出したオリジナルのブレンドで煮込んだ濃厚鶏白湯スープがベースの鶏ラーメンが食べられます。
し、か、も! その鶏白湯スープに北海道産真昆布や干し貝柱からとられた旨味たっぷりの魚介系スープをブレンドしたという、ダブルスープのラーメンなのです(筆者の心の声「福岡なのに!ダブルスープ!ここだけラーメンが都会!!!」)。
そのラーメンがこちら。その名も濃厚鶏そば!
写真でパッと見ただけでは一瞬「とんこつじゃないの?」と思ってしまう方もなかにはいるかもしれませんが、よ~く目を凝らしてください。スープの色味と透明度が豚とは違います。これが鶏の! 福岡でしか食べられない鶏ラーメンなのです!
自家製麺にからむ鶏の「うま味」は別格!
気になるその味ですが、スープを口に入れると濃厚な鶏とブレンドされた魚介の「うま味」がじわっと広がります。「ラーメンといえばとんこつ」としつけられてしまった舌と鼻を、鶏が持つ脂の甘さと香りが支配していきます。
そして驚くべきは細いストレート麺なのにスープがよくからむこと。鶏出汁のとろ~りとしたスープが、ただ箸でつかんだだけのストレート麺と一緒に口に入ってきます。
廣畑さんによると、この麺はスープがよくからむように厚みを0.1mm単位で測って自家製麺しているとのこと。細麺や太麺といった分類ではなく、「この鶏白湯スープに合う麺」を考えて作られているそうです。
スープがさらにうまくなる鶏チャーシュー
また、鶏のムネ肉で作られたチャーシューも見逃せません。
チャーシューはお肉のずっしりとした旨味が嬉しい具材ですが、はなもこしのチャーシューは肉としての役割だけではなく、スープがさらに美味しくなる魔法のチャーシューなのです。
低温調理のためムネ肉なのにやわらかく、しっとりと仕上げられている鶏チャーシューはまさに絶品。香り付けにしょうがが使われており、この鶏チャーシューを食べると後味にしょうがの香りが漂います。
そうすると、口のなかの香りがリセットされるんです。
この鶏チャーシューを食べたあとに麺を食べると、最初に口に入れた鶏スープの感動が再び襲ってきます。つまりチャーシューを食べた回数だけ感動が復活するのです。これはたまりません。
肉の旨さを味わったあとにまた新鮮な味のスープを味わえる。肉として旨味だけではない鶏チャーシューの役割が素晴らしいです。
普段は塩辛さのためあまりスープを飲まない筆者ですが、この鶏ラーメンは完食完飲してしまいました。そういうレベルのうまさです。
無化調なのに味がしみる「中華そば」
続いて紹介するのは「中華そば」です。
じつは福岡県内でも中華そばだとそれなりの数のお店があり、とんこつ以外のラーメンが好きな人なら行きつけのお店もあることでしょう。しかし、そういう人もこのはなもこしの中華そばには驚くと思います。
どう驚くのかというと……味が、分からないんです。
「何言ってんの?」みたいなこと思いましたよね? でも、本当にベースになってる味が分からないんです。
普通、中華そばと言えば煮干しやカツオブシの香りが漂う醤油ベースのスープを飲んで「おいしいなぁ」と感じると思います。けれど、はなもこしの中華そばはそのベースがわからない!
舌はおいしいと感じています。でもこれが何の味かと聞かれるとわからない。ただただ、うまい。
「グルメライターとしてその辺しっかり!」と突っ込まれても仕方ないレベルですが、この透き通ったスープを口に含んでも味がわからない。食べたことがない味、ではなく、おいしいんだけど正体不明。そういう味がします。
なかには「化学調味料のせいでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、廣畑さんに聞いてみたところ無化調で作られているそうです。
スープの出汁には秋刀魚節、華味鳥、本枯節(カツオブシ)を使っており、それらから取った「味」と、ほかの具材の出汁から取った「味」をブレンドしてこの味を出しているんだとか。
廣畑さん曰く「素材の名前をつけてない『中華そば』という名前なので、何かの味が突出してたり何の味か分かってしまうと面白くない」とのこと。なるほどですねー。
もちろん麺も考えて作られており、この縮れ麺によくスープがからむことからむこと。
一番味を感じたのはスープを直接飲んだときではなく、麺が舌の奥の方に触れたときなのだから、そのからみ具合がわかると思います。
「何の味だか分からないけどおいしい」。この驚きを福岡県民だけが味わえます。
「自分が美味しいラーメンを提供したい」
それにしても麺道はなもこしでは、なぜこんなにもイロイロなラーメンが食べられるのでしょうか?
その理由に、店主の廣畑さんのこだわりがあります。
廣畑さんはラーメンなどのB級グルメは土地の個性が色濃く出るものだと思っており、そんななかでも土地に合わせた料理ではなく、自分が美味しいとオススメできるラーメンを提供したい。そういう気持ちから、自分が育ったこの博多でこれらのラーメンを提供されているそうです。
本当に美味しいラーメンを作るために、用意した材料から甘味、塩味、酸味、苦味、旨味という味の五角形がどう出ているのか? ただいたずらに長時間スープを煮込むのではなく、どれくらい煮込んだときが本当にスープとして美味しいのか?
お客さんは「うまかった」「まずかった」で良い。でも、我々(料理の提供者側)はそれらを考えて作らないといけない。ラーメンに対しての料理人の熱い心構えを、今回の取材では語ってもらえました。
福岡でとんこつラーメンではないラーメンを食べたい方、ただひたすらに美味しいラーメンを探している方、ぜひ一度、麺道はなもこしに足を運んでみてください。
紹介したお店
メニュー
※「肉宇宙」は夏季メニューの「冷やしラーメン」へと変更予定とのこと。